デビューのデジャヴ📚

『カックンヨムンヨコンテスト4forever』


 ついにわたしのデビューの時が来た。

 え? 何を世迷いごと言ってるのかって?

 ちっ、ちっ、ちっ・・・


 来たのさ、DMが!

 WEB小説コンテストの運営から!


 金曜夜のせっちゃんの『ダイナー』でわたしは鼻高々だった。


「いやー、ボン。長らく待たせたねえ」

「僕、何も待ってませんけど」

「エンリちゃん、すごいね! 運営から連絡なんて! で、なんて何て?」

「ふふーん、クルトンちゃん。これよっ!」


 わたしはスマホの画面を掲げた。


『平素から小説投稿サイト「カックンヨムンヨ」に夥しい数の小説を投稿いただき誠にありがとうございます。早急に貴殿の連絡先を確認したく、住所・電話番号等をメールにてご返信ください』


 アベちゃんが覗き込んでうんうんと頷く。


「確かにこれはエンリちゃんの小説について話したい、ってことなんだろうね」

「そうでしょうそうでしょう? ねえ、ハセっちも褒めて褒めて!」

「うん、凄いよエンリちゃん。で、どの小説が評価を受けたのかな?」

「うーん、それがねえ」

「うんうん」


 わたしは返答に困った。

 なんと答えたらよいものやら・・・


「あの、さ。正直言ってわたしも分かんないんだ。どれなんだろ?」


 クルトンちゃんも自分のスマホでカックンヨムンヨのページを見ながらコメントしてくれる。


「エンリちゃん。これまでで一番PVの多かった小説ってどれ?」

「えと・・・これかなあ」


 そう言ってわたしはマイページのトップに表示されているタイトルをタップする。


「これなんだけど。『異世界しっぽり』」

「わっははは!」


 タイトルだけでボンに笑われた。

 まあ、わたし自身が自分のセンスを疑ってる部分はあるけど。

 クルトンちゃんもまあ笑いを喉の奥に押し込みながら質問を続けてくれてる。


「エンリちゃん、そ、それで、PV数は?」

「10」

「え」

「10PV」

「ごめんね。短編?」

「ううん。全100話の長編」

「えと。えと」

「第1話が4PV、第2話が3PV、第3話が2PV、第4話が1PV・・・で後はもう」

「・・・・・・・」


 せっちゃんがフォローしてくれる。


「あ、ほら、エンリちゃん。きっと普通の読者さんはそんなに読んでないけど運営さんがプロの目で見たらキラリと光るものがあったんじゃないの?」

「う、うん。そうだよね、きっとそうだよね!」


 ボンがクルトンちゃんのスマホを見せて貰いながら言った。


「エンリさん。異世界しっぽりの、が、、になってますよ」

「・・・・・・・」


 その夜わたしは夢を見た。

 わたしは夢の中で中学生だった。

 夢だから詳細は微妙におかしな点があるけれども、それはわたしが実際に体験したある出来事をほぼなぞらえる内容の夢。


「エンリは次点ね」

「えっ」

 

 文化祭のクラスの出し物で創作劇をやることになったのだ。

 当時からわたしは小説や漫画やアニメ、インディーズのコアなバンドと言ったサブカルチャーに傾倒していて、創作劇のシナリオを書く役割を、「はいはいはいっ!」と多重挙手して勝ち取った。はずだったんだけれども


「一応わたしも書いとくわ」


 と、クラスで二番目ぐらいに可愛くて女子バスケ部の長身エースで成績もわたしの3倍ぐらい良くて(倍数比較か?)ついでに性格もさっぱりと、ざっ、と瀧を流すような子がまあ、クラス委員だからってことで言ってくれたんだよね。


 まあ、わたしがインフルエンザにでもかかって締め切りに間に合わない時の保険だよね、って思ってたらさ。

 なんとその子の執筆スピードがものすごく速くてわたしより先に出来上がってさ。で、わたしを待つまで読まないのも変だよね、ってみんなで読んで見たらさ、これがクラスの女子・男子みんなに大ウケ。


「すっげー、才能あるよ!」

「ううん、別に。暇潰しに書いてただけだよ」


 その子のシナリオのタイトルが、


『疾風みたいな女子男子』


 ってタイトルもそれっぽくカッコよくって、クールでおしゃれでカワイイ恋愛ストーリーでさ。


 わたしは書き進めててプレッシャーが日に日に増していったね。

 馬鹿みたいだけどさ、必死こいて最後は結局3日徹夜したよ。


「いちおう、できた、よ」

「ああ・・・エンリのやつね。タイトルは?」

「・・・『疾風怒濤女子男子』」

「・・・・・」

「・・・・・」


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 珍しく朝の通勤電車でクルトンちゃんと一緒になった。


「エンリちゃん、待ち遠しいね。連絡、いつ来るんだろうね」

「でもね、クルトンちゃん。すごい怖くて」

「ああ、この間言ってた夢の話? 大丈夫だよ、エンリちゃん。エンリちゃんの感性は受け入れて貰える・・・人もいると思うよ。多分」

「ありがとう・・・」


 一週間経った。

 せっちゃんのダイナーにいてもなんだか落ち着かないのでここ最近は早めにアパートに帰って来るようにしてる。

 このまま階段を上がっても今日も何もないんだろうな。


 あ。


「え、嘘!? やった!」


 カックンヨムンヨのロゴが入った封筒がアパートのポストに入っていた。

 大急ぎで部屋の鍵を開け、荷物を放ってコタツに正座する。

 封筒も記念に残すことを考慮してハサミで丁寧に封を開ける。


『「当選しました」!』


 やった! ・・・って、なんかヘンな感じだな・・・

『当選』?


 ん・・・と・・・


『カックンヨムンヨ万年筆プレゼント企画で厳正なる抽選の結果、見事貴殿が当選されました。ご連絡いただいたご住所に景品を同封してお送り致します。おめでとうございます。今後ともカックンヨムンヨをご利用いただきますよう、よろしくお願い申し上げます』


 は、ははは。


「う・・・わーーーん!!」


 ・・・・・・・・・・・・・・

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