異業種交流という名の異種格闘戦🔥
わたしもちょっくら自己研鑽ってやつをやってみることにしたもんでね。
『異業種交流会 at the Apollo』
っていうイベントに参加するよ。
いつもなら大抵こういう事象にはボンが絡んでくるんだけど、今回はわたしのソロ活動で。
まあたまにはマジメにお仕事の幅を広げてみようと思ってね。
・・・・・・・・・・・・・
「あ、ここか・・・にしても、『立ち飲みアポロ』ってどういうセンスなんだろ? イベント名だけ見たらアポロシアターみたいなカッコいい会場でスマートなビジネスパーソンが集まって・・・とか思ってたけど」
わたしはその立ち飲み居酒屋の縄のれんをくぐったさ。
「こんばんはー」
「いよー、これまたいらっしゃい!」
なんだ?
全員男じゃないかっ!
しかも・・・おやっさんみたいな人ばっかり!
「やーやーやー。この会ももう30回やってるけど、女子の参加はアナタが始めてだよ。おめでとう!」
「は、はあ・・・」
「ではっ! さっそく駆けつけ3杯!」
「ちょ、ちょっと待ってください。自己紹介とかそれぞれの仕事の内容の紹介とかそういうのからやるんじゃないですか?」
「ああ。やる?」
「いや、やらなきゃダメでしょ!?」
「しょうがないな。では。まずアナタからどうぞ」
「はい。
「おー! 素晴らしい! まっとうなリーマンですな、エンリさんは。よし、次!」
「ペケポンでーす。家事手伝いやってまーす」
え?
「次!」
「ジョウジョウ太郎です。芸術家です」
???
「ミハイル・カエルピョコちんです。近所のパトロールやってます」
「ディキシーズ・ミッドナイト・ウォーカー3世です。ユーチューバーの評論家です」
「リックです。ギタリストです。3年前からずっとメンバー募集中です」
「
ああ・・・
最後に冒頭のおやっさんが挨拶したよ。
「そしてこのワシは人情一筋30年、当店『立ち飲みアポロ』の店長、その名も『雇われテンチョー』だっ!」
イエーっ、パチパチパチパチ、とわたし以外の全員が大盛り上がりしてる。
「あ、あの・・・」
「なんだね、エンリさん」
「や、雇われテンチョーさん。なんか、異業種交流の割には皆さん顔なじみっぽいですけど・・・」
「当然さね。ここにいるのは全員この店の常連だからね」
「え。じゃあ、異業種交流会じゃないんですか?」
「間違いなく異業種交流だが。全員職業バラバラだろ?」
「ま、まあ・・・しかも結構特殊な職業の方が多いような・・・」
「偏見だっ!」
えーと、この人は、ペケポンさんだっけ?
「家事手伝いのどこが特殊だ! 労働の基本ではないか」
「はあ・・・」
「エンリさんは子供の頃にお手伝いとかしなかったのかい?」
「いや、両親が共働きだったんで炊事洗濯全般やってましたけど」
「おお、素晴らしい! エンリさん。その労働をもしよその家でやったらどうなると思う?」
「さ、さあ」
「ちっ、ちっ、ちっ。家政婦さんの仕事と寸分違わんだろう?」
「あ。言われてみれば」
「そのとーり。私は日々これ人間の基本としての衣食住にかかる労働をやっておるのですよ!」
「で、でも、収入は?」
「両親の年金がその対価と思っとるが?」
・・・それってご両親のお金なんじゃ・・・
「エンリさんよ」
「は、はい。雇われテンチョーさん」
「そもそも年金というものは本来同居家族への支援的なものだったはずだわね」
「えっ? すみません、よく分かんないです」
「じいちゃんばあちゃんと同居する大家族は食費も医療費もバカにならん。いわゆる介護的な仕事もあるだろう」
「言われてみれば・・・」
「年寄りと同居する家族が円滑に家庭経営ができるように、いわば国が各家庭に福祉サービスを委託しとるわけさ。だから労働収入のないお年寄り分の報酬を払うわけよ。それこそ孫が家の手伝いすることも対価のうちよ」
うーん。
全面的に賛成はできないけど、なんか妙に説得力があるな。
「エンリさん。芸術家はもっとシビアじゃぞ」
「ああ、ジョウジョウ太郎さんの芸術ってなんですか? 俳句とか?」
「ボカロじゃ」
うーーーーーーん。
ジョウジョウ太郎さん、着流しに下駄なんだけど。
ボカロ?
「この1年で100曲作ってWEBで売っとるんだがまったくダウンロードされん。仕方ないんで書道教室の月謝でなんとか食い繫いどる」
「あ、じゃあ、ホントは書道家なんですね」
「違う、ボカロ・アーティストじゃ」
「ね、ね、エンリさん。僕のも聞いてよ」
「ああ。ディキシーズ・ミッドナイト・ウォーカー3世さん。ユーチューバーの評論家って」
「そのものズバリなんだよ。だってエンリさん、WEBに動画ありすぎでしょ?」
「ええまあ」
「だから僕が交通整理しないとみんな情報の洪水に溺れてしまうのさ」
「はあ」
「これなんかおススメだよ。見て」
ディキシーズ・ミッドナイト・ウォーカー3世さんがスマホの画面を掲げる。
画面にはミニチュアのシーソーが一台。右から小さなミドリガメがのそのそと画面に入ってくる。
そのままシーソーの片っぽに乗ったと思ったらそのシーソーが実は
「動物虐待ですね」
「そうかい? 哲学的だと思わないかい? まるで僕らの将来を暗示してるようだよ。僕の評論コメントつけてリツイートしてるんだ。絶対ハマるから」
帰ろうかな。
「エンリっ! 俺の炎のギターを聴けっ!」
ああ、全員やるまで終わらないんだ。
リックさんのギターの腕前は・・・?
「ちゅいぃぃぃん!」
「え」
「ギョワギョワギョワワーン!」
「・・・・・・・・」
「俺はっ、ベストメンバーを求めて石の上にも3年、世紀のエア・ギタリスト、リックだ!」
エア。
「荒紅茶コーヒーです」
「どうも」
「エンリさん、私のボトルコーヒー、まずはお飲みください」
「いやです」
「え!? なぜ!?」
「それ、封を開けた痕跡があります」
ああ。これで全員か。
あれ? なんか足りないような。
「あ、そういえば個人的にミハイル・カエルピョコちんさんに興味あるんですけど」
「ヤツはもうパトロールに出かけたよ」
・・・・・・・・・・・・
「いやー、エンリさんみたいなリーマンのステレオタイプがメンバーに加わってくれて嬉しーよ!」
なんだろう。
この寂しさは。
「あの。そうは言うけどわたしも相当特殊ですよ」
「またまた。エンリさんはオーディナリー・リーマンの典型じゃないですか」
「違わいっ! わたしは千年に1人の特殊リーマン女子さっ! その証拠に、見よ!」
わたしはテキーラのロックを荒紅茶コーヒーさんの得体の知れないボトルコーヒーでどぼどぼと割った。
「こんな暴勇、アンタらにできるかっ!」
カクテルと呼んで良いかどうかも分からぬおどろおどろしい色と香りの液体を、くっ、と一息にわたしはあおったのさ。
「ほおおおー!」
全員、拍手喝采してくれたよ。
「うん、エンリさんは特殊だ!」
「珍奇だ!」
「キテレツだ!」
「異常だ!」
「なんだって!?」
異常、という言葉にスイッチの入ったわたしは居並ぶ男ども全員の額をデコピンして回った。
「や、やめろ! せっかくの安酒の酔いが醒めてしまう!」
「うっさい!」
返す刀で今度は全員に往復ビンタして回った。
「えーい、アンタらよく聞けよ! 異常も毎日やってりゃそれが正常になっちゃうんだよ! 普段地味に普通にやってて時々異常なのがカッコいいんだよ! 変人ぶるなっ!」
気がつくとわたしは終電に乗ってた。
何気なく右手を見ると、『永世名誉会員』って書かれたメンバーズカード握ってた。
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