リストラってどーぶつ?🐿🐅
久しぶりに高校の女友達と会うことになったんだけど、理由が「あーあ」って感じ。
「エンリ! リストラされちゃった!」
まあ、今のこの時代の宿命ではあるんだろうね。
とりあえず話を聞かないといけないだろーな、って思ったんだけどその子が指定した待ち合わせ場所はいきなり回転寿司だったんだよね。
「やってらんないわー!」
仮に
「ちょ、ちょっと、エイ子。今日はわたしが奢ったげるから、そんな安いのばっかり大量に食べなくてもいいからさ」
「う、うん。ありがと、エンリ。ウニ食べていい?」
そもそもエイ子はわたしのクラスの中じゃ出世頭だったんだけどな。
一応留学して海外の大学を卒業したし、就職したのは某業界トップの広告代理店だったし。
勉強ばっかしてるんじゃなくって、エイ子は美術部の部長でさ。ある日いきなり部室に連れ込まれてモデルにされたわたしの肖像画はなんと日展の佳作をとったし。
エイ子本人は美人だし。
ウニをなぜかネタだけ先にペロって食べてから軍艦の部分を醤油に浸してバラバラに食べるエイ子。
わたしは素直に訊いてみたよ。
「なんでリストラされたの?」
「・・・一応営業成績は良かったんだよね。おっきいテレビ局とかにも食い込んでたし」
「なら、どうして?」
「
「は?」
聞き捨てならないセリフだ。
「と、歳って・・・まだ若いじゃない?」
「はは。エンリ。あんたも現実逃避したいんだね。ウチらの年齢は十分歳なんだよ」
「ぐぐ・・・」
「スペックが同じなら若い方がいい・・・強力なライバルが同じチームに入ってきてね。なんと高校出たばかりの女の子なんだけどね」
「え? ちょ、ちょっと、高卒なの?」
「うん」
「だって、エイ子の会社って一部上場でしょ? 高卒枠とかあるの?」
「エンリ。世の中の、特にシノギを削ってる業界の人間はもう気づいちゃってるんだよ。学歴は能力のなんのエビデンスにもならない、って。そういうエンリだって高卒でしょ?」
まあ、わたしも確かに高卒だけどさ。
でも、ウチみたいな零細ならともかく、エイ子の会社に高卒の子を入れたりすんのかな?
「エンリ。これが現実なのよ。わたしは敗北者、ってこと」
「ちょ、ちょ。そんなこと言ったら同い年のわたしもなんか、負けたみたいな気分になっちゃうよ」
「エンリ。歳とるってことはね、負け続ける、ってことなのよ」
気がつくとエイ子は寿司の皿を自分の座高ぐらいの高さまで積み上げ、既に3棟のタワーが完成していた。
「食べすぎ」
「いいの。食べすぎて死ぬんだ、わたし。おにーさーん、コークハイ、ジョッキでね!」
「おいおい」
半端ない金額を食べて飲み尽くしたエイ子の背中をさすりながら寒風吹きすさぶ夜の街を歩いていると、2軒目をエイ子は指定した。
「お好み焼だっ!」
「いや、エイ子。感性がおかしいって。あれだけ食べてどうして次がお好み焼きなのさ」
「奢るからさ。お願い、見捨てないで」
こうまで言われたら付き合わない訳にはいかない。なんだか暖簾が煤けたボロボロの構えの店に2人して入った瞬間、違和感を覚えた。
「あれ? なんだろ、この感じ」
わたしが店内を見渡す・・・いや、見渡すも何も、それにしか目がいかない。
「へい、らっしゃい!」
馬鹿でかいダミ声でがなる店主と思しき中年男がコテを二丁、カンカン、と打ち鳴らしながらわたしたちを招き入れる。
「このでっかい鉄板しかないの?」
店には巨大な長方形の鉄板がはめ込まれた巨大なテーブルが一台あるだけ。
「そうじゃよ、お嬢ちゃん。ワシ1人でやっとるからね。焼いたらすぐにお客さんの前に滑らせて、そこで食べてもらうって寸法だ。エイ子ちゃん久しぶり」
途端にエイ子が泣きじゃくる。
「おっちゃん! わたしリストラされちゃったよ!」
「リストラ!? エイ子ちゃんがかい!?」
「うん。早期退職制度に無理やり手を上げさせられてね」
「なんだなんだ。エイ子ちゃんの会社の社長はどんな野郎だ! 人を見る眼ってもんがゼロかい!」
まあ、お愛想も半分なんだろうけど、おっちゃんはとにかくエイ子を励まし続けた。エイ子はブタ玉を頼み、わたしはミックスにした。
「エイ子ちゃん、天カスは?」
「いっぱい入れて〜」
「お連れさんは?」
「入れた方がおいしいの?」
「もちろん。うちのお好み焼きはねえ、粉っぽさの微塵もねえ、出汁もたっぷりいれてふっくらしっとり、表面はカリッと焼き上げる王道品さね」
客じゃなくておっちゃんが焼いてくれるスタイル。わたしはなんとなく自分で焼くのに慣れてたからどうなのかな、って最初は思ったけど、
「う、ウマい!」
「そうじゃろうそうじゃろう。どんどん食べなよ。今日はワシのおごりだ! 2人とも目一杯食べてきなよ」
わ。ラッキー!
回転寿司食べた後に入るかな、って思ったけど、この絶妙な柔らかさは全然胃にもたれたりしない。
出汁がこれまた味わい深くって、大げさじゃなくお好み焼きの概念が変わったよ。
「・・・ねえ、エンリ」
「ん? なに?」
「わたし、間違ってたのかな。こういうコースを辿ったこと」
「うーん。でもウチの会社なんてわたしをリストラする前に、来年には潰れちゃってるかもしれないような状況だから。エイ子は今までは高給とりだったんでしょ?」
「まあ、多分他の会社のひとたちよりは」
「なら、いいじゃない。エイ子の能力とキャリアなら、次もまたいい会社行けるよ」
「いい会社、か。なんだろね、いい会社って。エンリは今の会社どうなの?」
「正直役員とか幹部連中のために仕事するなんて気はまったくないけど、現場で一緒に働いてる若い子とか叩き上げの先輩たちには報いれるような仕事はしたいな、って感じかな」
「・・・そっか。わたしもエンリみたいな観点で会社選べばよかったかな」
「そんないいモンじゃないよ。他に行くところがなかったからこうなってるだけで」
「エンリ、彼氏は?」
「うーーーーーん。まあ、それっぽいのは、いる、かな」
「いいなー。エンリこそ勝ち組だよね」
「ええ!? いやいや。その子をみたらエイ子はうーん、て唸ると思うよ」
ボンには悪いけど、エイ子に自慢ぽく語ることはちょっと今はできないかな。
でもさ。
エイ子。
こんなに美人で頭もよくて性格もよくて責任感もあって。
この世の中はそれでも十分じゃないって言うの?
「エンリ、今日はありがとね」
「うん。あのさ・・・もう一軒寄ってかない?」
「え。どこ? エンリのおススメの店?」
「わたしの最寄り駅にあるジューススタンドなんだけどね」
「へー。行きたい行きたい!」
・・・・・・・・・・・
そんな訳でせっちゃんの『ダイナー』へエイ子を連れて行った。
「あの子がエンリの彼氏?」
「うーん。まあ、そう言ってもいいと自分では思ってるんだけどね」
わたしもイマイチ自信が持てない。ボンとわたしって結局どういう関係なんだろう。
「こんばんは! エンリさんのお友達ですか?」
「あら、こんばんは。あなたがボンくんね」
「あ。エンリさんから僕のこと訊いたんですね。エンリさん、何て言ってました?」
「わーわー!」
「あ・・・内緒なんだね、エンリ」
うんうん、とコクコク頷くわたし。
ボンが眉を下げて不満そうな顔をする。
「エンリさん、どうせ僕の悪口言ってたんでしょ」
「さあね」
ボンはあらかた仕込みも終わってて、せっちゃんから一緒に話しててもいいよ、と許可をもらい、わたしとエイ子と3人並んで一緒にカウンターに座った。
「え! エイ子さんて、広告代理店に勤めてたんですか!?」
「リストラされたら元も子もないけどね」
「いや、でもすごいなあ・・・エンリさんってすごい人と友達なんですね」
なんだかボンがよくわからない褒め方をしてきたとき、エイ子が表情を薄くした。
とても真面目な目をする。
「ねえ、ボンくん」
「はい」
「エンリはね、とてもいい子よ」
「はい、知ってます」
「なーんだ。じゃ、簡単ね。エンリのこと、よろしくね」
「はい? ええ、もちろんですよ」
「エイ子、勝手にいい感じのエンディングにしないでよ」
「はは。でもいーよ、2人とも。なんか希望が持てたよ」
・・・・・・・・・・・
「ボン、見て」
わたしはローカル新聞が配信してるネットニュースをスマホでボンに見せた。
ボンは、何も言わずに、黙って目を閉じてくれた。
エイ子が、電車に飛び込んだ、って記事。
どうなってんだよ、この世って。
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