雪で浮かび上がる犬と猫の反応の差☃️❄️
「うわあ!♪」
「げっ!↓」
前者がボンの反応、後者がわたしの反応。
お隣さん同士、朝ドアを開けての反応がどうしてこうも違うのよ。
『雪だ!↑↓』
テンションは違うけどこの音声だけは同じだったわ。
・・・・・・・・・
「
「はーい」
スイデン課長がいつも通り揺るぎないパワハラ口調でわたしを呼んだもんさ。
「タイヤ、換えといてくれ」
「はい?」
「聞こえただろう? 営業車を冬タイヤに換えといてくれ!」
『なんでわたしが』という言葉を喉と口腔の間ぐらいでぐっと噛み砕いて、また食道から胃の辺りに押し戻したよ。
「エンリさん、僕がやりますよ」
おー。
ネリキリくん、スイデンの目を睨みつけながら言っちゃった。男前っ!
でもね・・・ここはわたしも意地があるってもんよ。
「いいよ、ネリキリくん。午後から『ぽっと出商事』さんのプレゼンでしょ? そっちの準備しなよ」
「でも・・・」
「ふふ。気にしないで。ウチは零細企業よ。上司だろうと年長者だろうと男だろうと女だろうと縁の下の仕事を厭わない! これ、いまや常識でしょ?」
あらまあ。
ネリキリくんたらわたしを尊敬のウルウルした眼差しで見ちゃって。
おまけに課のみんなも、ほおー、って感嘆の声まで上げて。
さてスイデン課長の反応は・・・
「ごほっ。みんなも遠里・・・くんを見習うように」
ふふん。
勝った!
・・・・・・・
「とは言ってもなあ・・・」
昨日まで日中の最高気温が20℃だったのに、いきなり氷点下だもんなあ・・・
手は冷たいし、雪が積もってない場所ったら隣の融雪ばっちりのコンビニ駐車場しかないし。
『ああ、いいよ。オタクの社員さんたちはいつも弁当やらコーヒーやら買ってくれてるからね。いくらでも使ってよ』
ってコンビニのオーナーさんは言ってはくれたけど、結構流行ってるお店だから時間もかけらんないし。
よっし!
気合い入れるぞ!
と、言うことで、まずはウチの会社が入ってるテナントビル向かいの月極め立体駐車場で総務課から出してもらった冬タイヤを後部座席のフロアマットの上に、ダン・ダン! と積み込む。
それから助手席のマットに一個、残りを後部ハッチを開けて、するっ、とね。
うねうねと軽四ワゴンのわたしお気に入りの営業車を立体駐車場1Fのゲートまで降らせ、
「ちはっす!」
と守衛さんに敬礼する。
「おー、エンリちゃん。タイヤ交換かい?」
「そうだよー。かっちょいーでしょ」
「ああ。工具も使える女の子。カッコいいぜっ!」
はははは。
女の子だってさ・・・随分気を遣ってくれちゃって。
さて。
コンビニ駐車場は雪がゼロ。
その代わりに井戸水を使った融雪の水がドボドボと結構激しい流れで川みたいね。
わたしは車内で戦闘服に着替えたさ。
①長靴。
②ウインドブレーカー、と見せかけた実は雨合羽。
③手のひらが防水ゴムの軍手。
④飛散金属片防御用、念のためのゴーグル。
⑤かっこつけ偽装用のテニス・キャップ。
さあ、戦闘開始だっ!
すぐに移動できるように、一本ずつ片付けながら交換するやり方にしたよ。
まずは助手席のドアを開け、タイヤを一本下ろす。
ホイールカバーを外して交換するタイヤの隣にごろん、と置く。
次に今履いてるタイヤのホイールカバーを外し、ホイールレンチを使ってナットを緩める。
あ。ホイールレンチは我が社の伝統として、『X』の形になってるの4つにそれぞれ違う口径がついてるやつね。
「うっ・・・」
するん。
「あー、良かったー。緩まったー」
錆びついちゃっててわたしの力じゃどうにもならないシーズンもあったもんねー。
そして今度は車備え付けのジャッキを車体の下の補強部分にあてがって別のレンチを使ってジャッキアップ。
いつもながらに怖いわー。
がくん、て外れて車体が落っこちないかってさー。
アップしたら、レンチの棒の部分を左手で軽く掴んで右手でこれさっ!
くるくるくる・・・
「あー。気持ちいいっ!」
この動作、なんかプロっぽいよね!
さて余韻に浸ってる場合じゃない。
今度は隣に置いといた冬タイヤをそのままボルトにはめ込んで、ナットを軽く締める。
入社したての時に社長から、
「対角線に締めろっ!」
となんだかテニス漫画の鬼コーチに言われるみたいな指導受けてさ。懐かしいなー。
そしてジャッキをゆっくりと下ろして・・・下ろしたら今度はレンチでナットを締める。
よく棒一本タイプのレンチで足でギッ・ギッ、て蹴りおろす様に締めるやり方も見るけど、バッテンタイプのレンチではそうはいかないもんねー。代わりに、
「ふんぬっ!」
とわたしの全精力を注ぎ込んで奥歯を割れんばかりに噛み締めて、締めて、締めて、締めるっ!
・・・店から出てきた女子高生がわたしの形相を見て、びくっ、と後ずさりした。
ごめんね・・・
最後にホイールカバーを、えいやっ、とはめ込んで一本終了。夏タイヤを助手席マットに仕舞う。
「さあ、ネジ巻いてこうかっ!」
一本終わると感覚が戻ってきたわね。
残り三本、過去最高タイムで換えちゃったよ。
ビシャっ!
うわととと・・・って別に慌てない。
このための雨合羽だ。
「すみません! 濡れませんでしたか!」
あら。
イケメンね。
「いーえー」
ミニバンから降りてきたビシッとしたスーツの中年男性に愛想をふりまくわたし。
「ほんとすみません。これ、お詫びです。お嫌じゃなければ」
「いえいえ。かえってすみませんねー」
・・・って、ロリポップ?
・・・・・
ああ、今日も働いた。
わたしのホームタウン、せっちゃんの『ダイナー』に今日も無事帰り着いたよ。
「ただいまー。あー、疲れたよー」
「あら、エンリちゃんお帰り。雪道の運転は疲れたでしょう」
「せっちゃん、今日は車でお客さん回りはなかったんだけどさー、営業車のタイヤ交換やってねー」
「わ、エンリさん。自分でタイヤ交換できるんですか?」
「ボン。アンタも雪国の住人なら自分でやれるようにしときなよ。あ、そうだ」
ポケットから戦利品を取り出した。
ボンに、ぷいっ、と手渡す。
「あ。ペロペロキャンディーだ」
「違う! ロリポップ!」
「どうしたんですか、これ?」
「ふふん。イケメンのエリートサラリーマンからプレゼントされたのよ」
「なっ!?」
思いっきりフカしちゃった。まあ、品物がロリポップじゃ流石に冗談だってわかるよね。
「な、なら、僕はこれを上げますっ!」
ん?
何、この直方体の箱。
「キシリトール入りガムですっ!」
「えーい、アホかっ!」
ボン・・・アンタ純粋だしいいヤツだけどさ。
もうちょっと大人になってよ。
恋が始まんないじゃん。
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