ネタが尽き果てる時🥀

「ネタをおくれよ〜」


リーマン女子としての1日の激務を終え、せっちゃんの『ダイナー』に辿り着いた瞬間、わたしはクルトンちゃんに縋っていた。


「え? ネタ?」

「うん〜。小説のネタ〜」


以前わたしが某小説投稿サイトのワナビ底辺投稿家であることは述べている。

そして、そのわたしが小説のアイディアを全く思いつかないという無限ループに陥っている。


「スランプだわ〜」


ははは、とボンが笑う。


「エンリさん、スランプっていうのは浮上したことがある人の・・・」

「シュッ!」


秒殺した。

デコピンでカウンターに顔を埋め苦悶の表情を見せるボン。


「あ」


クルトンちゃんが思い出したように一声。なんだろ? ネタ? 期待していいの!?


「エンリちゃん、こういうのってネタになるかな」

「うんうん! なになにっ!?」

「今日のお昼の時間に発覚したんだけどね。クラスで一番美人だってみんなが暗黙で了解してる子がね」

「うんうん!」

「実は猫アレルギーだったの」

「・・・それだけ?」

「う、うん。それだけ・・・」

「うーーーーん」

「ご、ごめん、エンリちゃん。却って悩ませちゃった? でもね、その子って何しても話題になってさ。今日もその時男子たちが、『かわいー!』って大盛り上がりで」

「うーーーーーーーーん」


と、いう訳で書いてみた。


・・・・

‘CAT’

作者:エンリ


わたしがひた隠しにしてきた事実。

それをとうとう今日、白日の下に晒すこととなった。


「なあ、ネッコ。今日で良かったのか」

「うん。今日しかあり得ないから。ピンポイントで、選んだ」

「そうか。ネッコの立場が悪くなるかもだぞ。それどころかカーストのランクが下げられるかも」

「構わない、よ」


午前最後の授業が滞りなく終了してみんなの緊張が弛緩する。

さわさわと談笑するクラスメートたちにどう切り出そうかと、椅子から腰を浮かせたまま立ち上がれずに数秒ずつ時間が経過していく。


「アツシ・・・」


わたしはすがるようにアツシの顔を見上げた。うん、とアツシが頷いてくれた。


「みんな、聞いてくれ」


立ち上がり、アツシがみんなに呼びかけてくれた。


クラス中がなんだなんだ? と心待ちにしていた給食の時間を遮られたことに苛立つ雰囲気が感じてとれた。

それでもアツシはわたしのために語りかけてくれた。


「ネッコが話があるんだ。大事な話だ、と思う」


机をくっつけて給食を配膳しようとしていた動作を一旦止めて全員着席してくれた。


わたしはツ・ツ・ツ、と教壇に歩み出て、やや猫背気味に立った。


「実は・・・」


ふう、と息をひとつ吐いた。


「キャットフード・アレルギーなんです!」


言った!


教室がざわついてる・・・


「おいおいおい、ネッコ!どうしてこのタイミングなんだよ!」

「そうよ!今日から食料の配給がキャットフードに一本化されるってその日になんて!」


だからだよ、という言葉をわたしは飲み込んだ。


「お願いがあります。わたしはキャットフードを食べるとアナフィラキシーショック症状が出てしまいます。ですので、備蓄の白米をわたしに食べさせてください!」

「ふざけるなっ!」

「俺らだって白米が食べたいんだよっ!」

「キャットフードなんて、誰が好き好んで!」


教室のざわめきが、止る気配がなかった・・・


・・・・・・


「・・・・ひどいね」

「・・・・うん、ひどい。エンリちゃん、気を悪くしないでね?」

「う、うん・・・」

「多分、ネタの問題じゃないと思う」


ク、クルトンちゃんまでダメ出し・・・。


「あら。わたしはいいと思うけどね」

「せ、せっちゃ~ん!」

「で、なんでドッグ・フードじゃないの?」


もう小説、やめようかな。


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