ボーナス、要る?💰
師走のある夜。せっちゃんの『ダイナー』にて。
「うーーーん。年末までの資金繰りがー」
「エンリちゃん、苦しそうね」
「まあね。本来なら姪っ子のクリスマスプレゼントととかもう注文するぐらいの時期なんだけど、先立つものがなくって」
「ボーナス?」
「うん。ボーーーーナース!」
「今年は出そうなの?」
「いや・・・実はね、厳しいのよ」
「あら、そうなの」
「会社のみんなして、頑張ってんだけどねー。売り上げが前年比で落ち続けてんのよー」
「大変ねー」
「せっちゃん」
「なに、ボン?」
「ウチはボーナスは」
「欲しい?」
「頂けるならば」
「そうね・・・ボンは頑張ってくれたからねー。現物支給でもいいかい?」
「も、もちろん! バイトの僕が頂けるのならなんでも!」
「じゃあ、洗剤と柔軟剤ね」
「え? ええ? ・・・もうちょっと夢のあるものがいいなー」
「あら、一番使いでがあると思ったんだけど」
「まるで町内運動会の景品じゃないですか」
「ボン、なら、わたしがボーナスあげるよ」
「えっ! エンリさんが!?」
「うん。ボンには世話になってるからねー」
「なんですか? なんですか? 現金なら尚いいですよ!」
「んなわけないじゃん。まあ、お金じゃないけど気持ちのこもったものあげるよ」
ということでしばし希望を胸に日々を働いて寝てまた働いて寝てご飯食べてを繰り返したのさ。
「せっちゃん!」
12月の初旬、一応みんなで『ボーナスの日』と決めていた週末。タイミングよいことに、わたしの会社のボーナスがなんとか出たのさ!
「エンリちゃん、よかったわねー」
「うん・・・これでスカポーの年会費払える。映画、観れる」
「じゃあ、これ、わたしからエンリちゃんへ」
「え? わたしに!?」
おおー、とボンと2人で盛り上がる。
「南アのワインだ! 今流行ってるもんねー♡」
「まあ、ありきたりだけどね」
「ううん、これは貴重! せっちゃん、ありがとー」
「じゃー、早速飲みましょうよー」
「あほ。ボンはまだ仕事中でしょ」
「あ、そうでした。ところでエンリさんから僕へのボーナスは?」
「仕事が終わったらね」
心なしかボンはこの日、異様に仕事に身が入ってたようだ。
まあ、前職のサラリーマン時代から仕事に関してはまじめに一生懸命やる子だったから、その辺は何も変わってないんだけど。
でもなあ。
ボンのご両親は会社辞めたこととか知ってんのかな。
「あー、今日も働いたー」
「はいはい。ボン、お疲れ様。じゃあね、これはわたしからね」
おっ!?
せっちゃん、その封筒は・・・
「え? せっちゃん、これ・・・お金?」
「ああ。ボン、前の会社もあんなことになって大変だったけど、ウチでほんとによく頑張ってくれてるよ。少なくて申し訳ないけど、わたしの心ばかりの感謝の気持ちだよ」
「あ、ありがとう、せっちゃん!バイトの僕なんかに・・・」
「ボン。バイトとか正社員とか関係ないよ。アンタはウチの大事なスタッフなんだから」
せっちゃん。
さすがこのダイナーの
「じゃあ、これ、わたしからね」
わたしは大小の水玉パターンのきれいな包装紙で包まれた正方形の小さな箱をボンに手渡す。
「開けてもいいですか?」
「どうぞ」
ボンが糊を丁寧にはがしながら破けないように開けていく。
そうなんだよね。
ボンって、時折丁寧で、なんか不思議なんだよね。
掴みどころのないヤツだ。
「お!?」
ボンが好奇の目でもって蓋を開ける。
「わあ・・・」
あ。
喜んでる。
「ウイスキーボンボンだ!」
「正確にはブランデー・アソートだけどね」
ボトル型じゃなくって、トリュフのような丸いチョコ。
少しきつめ、正真正銘大人のチョコレートだよ、ボン。
「高かったんだからね」
「ありがとうございます。感激だなあ」
「じゃあ、飲もうよ。せっちゃんのワインと一緒に」
「ワインにボンボン?」
「ワインとチョコは合うんだよ。多分ブランデーも」
「ほんとかなあ」
チン、と3人でいつもより洒落た感じでグラスをぶつけてみた。
ああ。
働いて。
疲れて、寝て。
働いて疲れて。
そして眠る。
時にダイナーでくつろぎながら。
コーヒーと。
特別のワインやチョコと。
なんか、いいな、こういう日々も。
ボンも、いいな。
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