文化祭は恋の予感💖💔🖤???

「サクラになって」


ロマンティックな意味じゃない。

頭数揃えたい、って意味のサクラよ。


「いやー。いいですねー、女子高生・・・」

「ボン。頼むから不審な行動は取らないでよ。存在が不審なのは仕方ないとして」

「なんて言い草・・・」

「あのね。ここでアンタが何かやらかしたらクルトンちゃんに迷惑かかるんだからね」

「はいはい」

「ああ・・・でもクルトンちゃんも勇気あるわね。ボンまで招待するなんて」

「僕は紳士ですから」

「はあ・・・」


ここはクルトンちゃんが通う高校。で、今日は文化祭の最終日。

ちょっと気にかかってたのは以前せっちゃんの『ダイナー』に一緒に来た意地悪な同級生の女の子のことだけど、クルトンちゃん曰く今日は大丈夫らしい。


『わたしずっと‘総合文芸部’ のブースに居るから』


要はクルトンちゃんが入っている部活の展示教室であれやこれやと仕事してるってことらしい。

でも、‘文芸部’の頭についてる‘総合’ってなんなんだろ。


「あ、ここね。こんにちはー」


ああ。それっぽい部屋ね。

通常教室をまるごと一個使って入り口には意味不明の温泉マークの暖簾かけてて・・・


「あ! エンリちゃん、ボン、ありがとー!」

「いいわね。なんだか楽しそうね。本棚いっぱいだし」


ふーん。さすが文芸部の部屋。スチールの簡単な本棚をいくつも置いて本が山ほど。


「あ、部長に紹介するね。グラさーん」

「ほいほい」


ん?


「やあ、ウチのクルトンがいつも世話になってます。部長のグラサンです」

「ちょ、ちょっとアナタ」

「はい、なんでしょう」

「学祭だから雰囲気でかけてるのかもしれないけど挨拶する時ぐらいサングラス外したら?」

「う・・・これは」

「エ、エンリちゃん、ダメなの」

「え? ダメって、何が?」

「わたくしは極端なまぶしがりなものですから」

「はい? 何、冗談言ってんのよ。まぶしがりって何よ?」


もう。取っちゃえ!


「ぐ、ぐわあああっ!」

「グ、グラさん! 大丈夫ですか!?」


え?

ちょっと・・・ホントに?

え!? ええっ!?


「ぼ、僕がもう1人居る・・・」

「ほ、ほんとだわ・・・ボンがもう1人・・・」


まぶしがり、っていう属性も驚きだけど、それよりもサングラスを外したら・・・ボンと顔が寸分たがわずそっくりだった。


「サングラスかけてるからグラサン?」

「エンリちゃん、グラじゃなくて、グラ。部長なので一応敬称的な・・・」

「ご、ごめんねグラさん。ほんとにそんなまぶしがりって思わなかったから」

「いえ。いいのです。それよりもボンさんはわたくしの兄弟のようです」

「うーん。ホントだねえ」

「兄とお呼びしても?」

「ああ、もちろん構わないよ」


わたしはこっそりとクルトンちゃんをこっちに呼んだ。


「ク、クルトンちゃん。もしかしてボンも呼んだのって・・・」

「うん。グラさんと並べといたら2人して拮抗しておとなしくならないかなと・・・」

「あちゃー。この感じはそうじゃなくって、相乗効果でトラブルが2倍になりそうだよ」

「わたしが軽率だった・・・」


そうこう言っていると、グラさんが講釈を垂れ始めた。


「なぜ、‘総合文芸部’なのか? ご存知のように今の小説の置かれた環境はラノベを中心としてかつての王道小説以外の分派に分かれてしまい、そもそも小説とは何なのかということがボヤけてきている時代です。異世界モノしかり。そういう群雄割拠するあらゆる分野を部員が切磋琢磨しつつクロスオーバーして天下統一を果たそうと・・・ですので‘総合’なのです!」

「エッチ系も?」

「ゴホッ。ボンさん、それは各人の嗜好と個人的な鑑賞に任せるところです」


・・・鑑賞?


「と、とにかくエンリちゃんとボンにはサービスするからね」

「ありがとう・・・ってクルトンちゃん」

「な、なに? エンリちゃん?」

「サービスって?」

「それは・・・」

「わたくしから説明いたしましょう!」


そう言ってグラさんがキャスターをガラガラと引っ張ってきた。

ハンガーに服がいっぱい釣られている。


「小説の主人公になりきるのです!」


ぽかん。


「では、この甘美な恋愛小説でやってみましょう!」


あん?


『僕のPVが最弱なのは決して自己責任じゃなくて世の中のシステムが間違っている件・Ver. Lemonade!!!』


なんだこれ。


「では、主人公のワナビ・ネット投稿作家をボンさんに! ヒロインで彼のフォロワーでスター★を投げまくるネット文学少女をエンリさんに!」

「グラさん、わたしは?」

「クルトンは薄幸の美少女を、僕はその彼氏」

「いやいやいや!」


わたしは生理的な嫌悪で否定の言葉を繰り出したもんよ。


「ボンのワナビ作家はいいとして、なんでわたしがそのフォロワーなのよ! それにクルトンちゃんとグラさんのキャラ設定は小説のストーリーになんの繋がりがあんのよ! そもそも『僕のPVが最弱なのは決して自己責任じゃなくて世の中のシステムが間違っている件・Ver. Lemonade!!!』って、読んだこともタイトル聞いたこともないし一体全体どう展開したら甘美な恋愛小説になりうるタイトルなのよ! それに文化祭の文芸部の模擬店がどうして小説のコスプレやるアブないアングラ・シアターみたいな趣向なのよ! 大体他の部員や客がどうして1人もいないのよっ!!」


・・・・・・・・・


結論からいうと、わたしは今ゴスロリの衣装を着てる

いえ・・・ゴスロリというよりはハードコア・パンクのあっち系のバンド少女という感じの全身黒で鋲がいっぱい付いててウエストが強制的に絞られてる服というよりは装置のような衣装を着ている。


クルトンちゃんのために止むを得ず。


『エンリちゃん、実はわたし・・・グラさんに片想いしてるの!』

『え?』

『とても不本意だろうけど、わたしとグラさんがカップルになるシチュに協力して!』


と、クルトンちゃんがわたしに告白したのよ。

どうして今までグラさんの話をダイナーでしなかったのかって訊くと、


『ボンのそっくりさんを好きになったなんて到底言えなかったの』


だって。

別にいいんだけど、クルトンちゃんは自ら幸福と反対方向に行きたいのかしら?


まあそれはさておき、クルトンちゃんとグラさんはまったくノーマルな服装のごく普通のカップル。そういう設定らしいわ。

グラさんがサングラスかけたままだからシュールさは相変わらずだけど。


そんでねえ・・・

ボンがねえ・・・


「おお! エンリさん!」

「ボンさん、『シリー・グレイトフル』です」

「あ、そうだった。おお! 愛しのシリー・グレイトフル!」


ああ。

リーゼントのウィッグにスパンコールバンバンの金色の上下にフリンジがこれでもかという風に垂れてる。

いにしえのロック・スター?


ねえ、教えてよ。

どうしてワナビのネット投稿作家がこんなファッションなの? で、わたしはなんなの?


世界観が崩壊してるわ。


「では、小説のエンディングのシーン!」


はい?

グラさん、いくらなんでもいきなりそれ!?

クルトンちゃんも完全に置き去りにされてるし。


「ボンさんの『文学・ワールド・ノーベルっぽい賞』の授賞式のシーン! シリー・グレイトフル、駆け寄ってキスをっ!!」


この作者、狂ってるわね。

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