デートとデパートと物産展🏬
「デートですね!」
「違うよ」
わたしはボンの言葉をコンマ以下の速度で否定したよ。まあ、照れもあるっちゃああったんだけどさ・・・
わたしがメンバーズカードを持っているデパートの物産展開催案内がLINEで届いた。そして知り合い1人誘ってくると特別ご優待があるという情報も。
「ボン、週末付き合ってよ」
「えー、デパートなんてやですよー。人混み嫌いですしめんどくさいですしー」
「そっか。じゃあ、入社3年目のネリキリくんを誘うよ」
「ちょっと待ったあーっ!!」
と、どういうわけかボンが急に焦り出して付き合ってくれることになったのさ。わたしの中ではご優待のための『知人』であって、デートでは断じてない・・・んだけども、まあ、秋深しに男女がデパートへ繰り出すというのはちょっといい感じかもね、ぐらいの感覚はあるよ。
おっと。それよりも物産展に対するわたしの見解を述べるよ。
まず、デパートで開催される各都道府県の物産展において、ある北の方のでっかい地方が『覇者』であることは疑いようのない事実だよね。
まあ、各県の担当者以外どころか担当者本人も心の底ではそう思ってるだろうから。
でも、わたしは敢えてそこにも抗いたいのさ。
なぜなら、それがわたしが『エンリ』たる所以だから。
「エンリさん、北のでっかい地方のブース行きましょうよ」
「ボン、焦らない焦らない。まずは南から攻めるってのはどう?」
言葉巧みにボンをだまくらかして南のでっかい地方のブースを最初に訪れた。
「うーん。目移りしますねー。鶏、豚、牛。スイーツもいいなー」
ボンの余りにもざっくりした感性は置いといて、たしかに南のでっかい地方のブースだけでも日本中の食べ物が網羅されているのではないかというぐらいのバリエーションだわ。
「ボンって魚介類平気だっけ?」
「回転寿司は好きですよ」
「じゃあ、これどう?」
キ◯ナゴのお刺身配送セット。
「あ、これ忘年会に常連さんたちと一緒にお店で食べたらサイコーですよね」
「でしょう?」
「じゃあ、エンリさん。それ人数分お願いします」
「はあ?」
「え。だってエンリさんのメンバーズカードですよね?」
「ボン。アンタは期待を裏切り続けるってことで首尾一貫してて、それこそ『期待を裏切らない男』だわ」
まあ自分も食べたいしいつもお世話になってるせっちゃんや常連のみんなのためだ。お歳暮も兼ねて忘年会の季節指定で『ダイナー』の住所宛て発送を注文した。
「さ、次こそ北のでっかい地方のブースですよね」
「ちょっとその前に本州あたりの地方のブース見ない?」
今度はわたしの『本州』なんていう余りにもざっくりした括りで見て回る。
「ふーん。焼きそばかあ」
「あ。エンリさん、焼きそば好きなんですか?」
「うん。この漢数字の付いた地区の焼きそば、B級グルメっぽいけど美味しそうだよね」
「おー、いいですねー。じゃあ、それも・・・」
「これはわたし用だからね!」
「はいはい。じゃあエンリさんの部屋に大切にストックしといてください。ひもじくなったら僕も食べに行きますんで」
なんてヤツだ・・・とことんわたしに依存する人生かい?
でも・・・まあ、こう言っちゃなんだけど、母性本能みたいなもんのくすぐり方が絶妙なんだよね、ボンは。『ま、いっか』って思わせる天才だよな・・・
結局ボンに食べられるかもしれない漢数字の入った地区の焼きそばもお買い上げ。
「さあ、今度こそ北のでっかい地方のブース行きましょうよ」
「うん、分かったよ」
そう行ってブースに近づこうとするけれども、一角というかかなりの面積のエリアの空気が違う。
熱気を通り越して、殺気。
「押さないでくださーい! お一人様一個ですよー! ホラそこ、割り込んじゃダメーっ!」
「はいはいはい、最高級のウ◯が一割引だーっ!」
「へいらっしゃいらっしゃいっ! イ◯ラはいくらでもあるよーっ。て、このギャグ分かるかいー!?」
わははは、と失笑が鳴り響く。けれども会場の温度は
しかし殺気以上の殺意が芽生えているような戦場が『試食コーナー』だった。
「くぉらあっ! 誰が鷲掴みにしていいって言ったああ!?」
「ちょっと、アタシが先に並んでたのよぉっ!」
「えーい、食わせないなら訴えるぞっ!」
「・・・ボン、ほんとにあそこに行く?」
「うーん。はっきり言って生きて帰る自信がないです」
2人で遠巻きに躊躇してると、
「お二人様、カップルさんですか?」
と地元から出張してきた売り子さんだろうか。スタッフのハッピを来た可愛らしい女の子から声をかけられた。
「カップルですっ!」
「カップルじゃないですっ!」
とボンとわたしが同時に相反するリアクションをすると女の子はとてつもなく戸惑いながら、それでもこう言ってくれた。
「あの・・・もしカップルさんならイベントに参加してくださったら『ロ◯ス』の限定チョコを無料でプレゼントする企画があるんですけど・・・」
「カップルですっ!!」
2人同時に叫んだよ。
なにせこのイベントの目玉とも言えるチョコレートの限定版だ。それを並ばずに、しかもタダでゲットできる。これはわたしの信条を曲げてでもカップルだと言い切るしかないでしょ?
「えー、では参加されるカップルさんはこの3組でーす!」
女の子がそのままイベントの司会をする。ゲームの内容を説明し始めた。
「はい。この『じゃがいもをスライスして油で揚げたヤツにチョコをコーティングしたお菓子』(まわりくどい描写ですみません(^^;))の両端をカップルさんで口に加えてください。後はポ◯キーを両端から食べるのと同じ要領でーす! 落とさずに一番早く食べ切ったカップルさんにだけ限定『ロ◯ス』の詰め合わせプレゼントでーす!」
な、なんというハードルの高さ!
両隣のカップルも引いてるよね・・・と思って見て見たけど・・・
高校の制服を着たなぜか女の子同士のカップル(?)は
「やだー、顔近いよねー!」
とノリノリだし、もう一方のご夫婦だろうか、熟年カップルは、
「年季を見せてやるか!」
と、こちらもものすごい気合いだ。
そして、ボンは、
「これは事故ってもやむを得ないですよねー」
おい! 事故ってなんだよ! ボン!
「では、レディ・・・ゴー!」
心の準備もできない内に司会の女の子が叫んだ。
「あはは、やだー!」
とじゃれ合うようにスピードの出ない女子高生カップルは一部の男子たちの注目は集めているけど、敵じゃない。
熟年カップルの方は、
『いち・に、いち・に!』
という『じゃがいもをスライスして油で揚げたヤツにチョコをコーティングしたお菓子』(重ね重ねすみません(>_<))を口にくわえてるので喋れないけれども無言の息ぴったりの掛け声が聞こえてきた。
『ヤバい! 負けちゃうよ!』
わたしは心の中でそう思って正面を見る。そしてまたも心の中で叫んだ。
『わ・わ・わっ!』
ボンがものすごいスピードで
そのまま勢いを止めずに、
ブチュウ!
という音がしたかと思うほど激しくボンとわたしの唇と唇がぶつかった。
「おーっ、おめでとうございまーす! 優勝でーす!」
司会の女の子が優勝コールの次にコメントも続けた。
「いやー、チョコより甘くて濃厚ですね〜!!」
ああ。
もうどうでもいいよ。
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