シネマでえーがな!🎥

「ではこれより恒例の映画鑑賞会を行います! 今夜のプレゼンターはクルトンちゃん! では映画の紹介をお願いします!」


わー・パチパチパチ、とボンが珍しくカッコつけて進行する中、常連だけが早仕舞いの閉店後にせっちゃんの『ダイナー』に集って行う映画鑑賞会。

わたしがこの店に来るようになってからだけでもかれこれ20回超やってると思う。

さあ、クルトンちゃんのプレゼンだわ。


「えーと。今夜わたしが選んだのはアメリカの青春映画、『プリティ・イン・ピンク』です」

「おー」

「ボン、アンタ知ってんの?」

「いえ、知りません」

「僕は知ってるよ。でもこれ随分昔の映画だよ?」


ハセっちがそう言うとクルトンちゃんがニコニコ(^^)と解説する。


「わたしのお父さんとお母さんが初デートで見たそうです。で、2人は今もラブラブでレンタルしてきたDVDをわたしも一緒に観て・・・当時ティーンの女王と呼ばれたモリー・リングウォルド演じるアメリカのダウンタウンで高校に通う女の子が主人公です。そしてその貧しい女の子が卒業のダンスパーティー、『プロム』で着るドレスを自ら縫い上げていくというシンデレラ・ストーリーです!」


うーん。プレゼンに熱がこもるのはいいけど映画愛がすごすぎて内容が伝わってこないなー。


「更にこの映画のすごいのはそのサウンドトラックです! ザ・スミス、インエクセス、ニュー・オーダー、エコー・アンド・ザ・バニーメン、サイケデリック・ファーズ、それからスザンヌ・ヴェガ!」

「あ、そうなの!? スザンヌ・ヴェガ!?」


もともとわたしが勝手にこの店を『せっちゃん’s ダイナー』と脳内で呼んでるのは、スザンヌ・ヴェガのTom’s Dinerという美しいアカペラ曲が大好きだからなんだよね。


「あ、エンリちゃん、スザンヌ・ヴェガ好き?」

「うん、大好きさっ! でもこの映画は知らなかったなー」

「あのね、Left of center っていうカッコいい曲が流れるの! この映画の監督は単に自分が好きなアーティストを集めて自分が聴きたいサントラを作りたいだけだったんじゃないかって言われたぐらいでねー」


そうこう言いながら上映会が始まった。


なるほど。

クルトンちゃんの選んだ映画らしく、モリー・リングウォルド演じるアンディは本当にキュートで共感できるわ。


貧しくもレコードショップでアルバイトしながら勉強を続けるアンディ。心優しき幼馴染のダッキー。レコードショップの同僚イオナ。

わたしとしてはアンディのシンデレラストーリーの相手となるお金持ちたちよりもこういうキャラたちの方がお気に入りだな。


ストーリーとしてはシンプルでストレートだけれども、お金をかけないおしゃれとか音楽のセンスがとてもいい。そして、上映後にクルトンちゃんが語った言葉が、もう最高!


「わたしが海外の大学に行きたいって思ったのはこの映画を観たからなんです。主人公のアンディがハイスクールの通学に使うピンクのフォルクスワーゲン。ああ、いいな、って素直に感じたんです。10代の女の子が車を実用の道具として大人の振る舞いとして自然に扱っている。それでなおかつそれがピンクのフォルクスワーゲンっていうのがとってもよくて・・・浮ついてるかな、わたし?」

「そんなことない。さすがクルトンちゃんだよ」


アベちゃんがにっこり笑ってクルトンちゃんを励ましてくれる。


「クルトンちゃんは実生活に裏打ちされた本当の『学問』を目指してるよ。それはアメリカに行きっぱなしの留学じゃなくて、この映画の主人公の女の子や幼馴染たちみたいに優しき人生を生きようという思いだよね」

「クルトンちゃん、ロンドンじゃだめなの?」


アベちゃんのコメントに続いてお父さんがロンドンっ子の帰国子女・せっちゃんがクルトンちゃんに問いかける。


「えと。ロンドンはパンクで怖いから」


思わず、みんなで笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る