第7話 じめじめじめ……

「はぁ……はぁ……」

私達はなんとか落ち着きました。

「……はーぁ、助かった!もうイノシシは追ってきてないよね!?」

「はい。追ってきてませんが……これはまずいことに……。」

「え……?」


「……どうやら迷ったみたいですね」


「あれ!?あ、確かに鎌田さんもわたさんもいない……。」

お腹をおさえる雫さん。

でもすぐに痛みはなくなったようですね。

胃薬を飲んだとはいえ心配です。もしかしたら効果がなくなったり……。

……いえ!今はそんなこと考えている場合じゃ!

「取り敢えず、助けを!」


「そ……そうね!誰か!誰かー!」


大きな声。

そのおかげで。

「……何?」

どこからか声が聞こえてきた。雫さんの声とは正反対。小さな声だった。

でも……

「誰かいるってことが分かったのは雫さんのおかげです。ありがとうございます!」

「えぇ!?そんな……そんな笑顔で……」

少し戸惑う雫さん。褒められるのには慣れていないのでしょうか?

「いやぁ……ありがとうって……えへへ」

あ、でもそんな浮かれてると……


「何って訊いてんだけど」

「ぎゃあああああ!出たあああああ!!!」

「……誰がお化けよ」


暗くてじめじめしたヒトに脅かされますよ!

それよりこのヒトも……雲族かな?

わたさんとは違う、少しもこもこだけどじめじめしていて……

あ、色も違います。わたさんは真っ白ですが、この娘は暗い灰色です。

「えっと……あなたは?」

「あ、私は乱層雲。『あめ』とでも呼んでね。じめじめするの好きだから。」

「それで森に?」


「うん。だからこの森に住んでるの。そうして暮らしていくうちに森で迷わなくなって。この森で迷った雲族を助けようってパトロールしてるのよ。」


乱層雲……。『雨雲』と呼ばれているだけあって、やっぱりじめじめしていますね……。落ち着いています。

「じゃあ出口までつれていってくれるのかしら?」

「まあそれなら出来るけど。」

「あれ?でもそれだと京さん達と入れ違いになっちゃうんじゃ……。」

「そっか!どうしよう……!」

「きょうさん……?」

そっか、あめさんは知らないんでした。


ってかこれ、本当にどうしましょう……。


「……雫さん、もう1回大きな声出せますか?」

「えぇ!?あ、さっきの声そんな大きかった!?」

「それもそうですが、イノシシに出会った時の悲鳴!あれ絶対森中に響き渡りますよ!」

「あ、私もそれは100%そうだと思う。私の所まで聞こえた。その声の悲鳴。」

やっぱりです!

「でもあれは驚いたからであって……」

「……。」

「……えっ?あめさん!?えっと無言で近づかないで……圧!無言の圧!」

「……。」


「……あ、あ……怖ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」




「……今の声!」

「あっちからですね!」




「ご苦労様」

「あめ……あめさん!本当にびっくりするじゃない!」

「ごめんごめん」

あ、初めて笑いました……。微笑ですけど、それでも可愛い……。


「……おーい!」

「あ、京さん達!」

やっと来ましたか……。

「はぁ、再会出来ましたね!……でもこれは雫さんのおかげでもありますし、翼さんのおかげでもありますよね?」

「え?わたさん?それ、どういうことですか……?」

「翼さんから懐かしい匂いがして、私はそれを辿っていったんですよ。」

え……?

「何だ、私が彼女を脅かす必要なかったじゃない」

「うお!?で、出た!?」

「……誰がお化けよ」

って京さんともこのやりとりするんですね……。


「……でも良かったですね!さあ、積乱搭まで急ぎましょう!時はどんどん進んでいるんですよ!地上より進みは早いらしいです……!」


「マジか!」

じゃあすぐ1ヶ月になっちゃうの!?

「……後はあなたに任せていいかしら?」

「あ、はい!私も多少は道分かるので。」

「じゃあね。困った時はまた呼んで。」

あめさんの可愛い微笑。私と雫さんは声を重ねてこう答えた。


「「……はい!」」


そしてあめさんと別れた私達は、森の出口へと進むのであった。

乱層雲のあめさんとの出会い。

大切にします!




「……あの娘、やっぱりもしかして……。……そりゃ『ハネイ様』も興奮するわよね。」

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