第53話 女神さまの我儘

 この頃には外は既に明るくなっており、いつもなら起きる時間だ。

「今日は疲れたから休みだな。美佐江さんのところにも連絡を入れよう」

 俺が携帯電話を取り出して、美佐江さんのところに電話しようとすると、女神さまが静止した。

「ご主人さま、今から治癒しますので、いつもの通りお過ごし下さい。治癒」

 女神さまが呪文を唱えると、あら不思議、身体の疲れが取れ、眠たい欲求もなくなっていった。

「何だか身体が軽い」

「本当に身体が軽くて、眠くもありません」

「それじゃ、これで大丈夫です。いつもの通り過ごして下さい」

「折角、休めると思ったのに」

「ご主人さま、ダメです。ちゃんとしましょう」

 カナレに諭されてしまった。

 結局、俺は大学へ行き、カナレはケーキ屋に行く。

 女神さまは、留守番するそうだ。


 大学から帰り、バイトに行く。しばらくすると、ケーキ屋の勤務が終わったカナレが俺のバイトするレストランの方に来た。

 これからは、カナレもこっちでバイトだ。

 レストランのバイトが終わると二人でアパートに帰る。

 そんな前の生活に戻った。

 だが、今日は部屋の中に女神さまが居る。

「カナレ、今日1日女神さまは何をしていたのだろう?」

「さあ、TVでも見ていたんじゃないでしょうか」

「そうだな、あの女神さまならあり得るな」

 そんな話をしながら家路を急ぐ。


 アパートに帰って、部屋を開けるが、部屋の中は暗い。

 変に思い居間の方に行くと、布団が敷いてあって、女神さまが寝ている。

「スースー」

「カナレ、女神さまはもう寝ているぞ」

「もしかして、ほんとに駄女神なんじゃないでしょうか?」

「うん、俺も同意する」

 カナレとそんな話をしていたが、女神さまが目を覚ました。

「おはようございます。ご主人さま」

「もう、夜ですよ。一体、何時から寝ていたんですか?」

「えっと、ご主人さまとカナレが出て行ってから…」

 俺とカナレがアパートを出たのは8時頃だ。そして今は夜の10時だ、なんと、14時間も寝ていたのか。

「女神さま、14時間も寝ていたんですか?」

「あら、そんなになるかしら。歳を採ると時間の経つのが早くて…」

 俺とカナレがジト目で見る。

「あっ、そうだ、夕食にしましょう」

 女神さまはそう言うと布団を出て、キッチンに向かった。

 俺は店長から貰ったタッパーに入った賄い物を女神さまに渡すと、女神さまはそれを使って料理をする。

 女神さまも最近、料理が上手になってきた。しばらく待っているとちゃぶ台の上に3人分の料理が並んだ。

「女神さま、上手ですね。どうして料理なんて覚えようと思ったんですか?」

「だって、これから一緒に暮らすんですから、それくらいしなきゃ」

「えっ?」

「ダメです」

「どういう事です?」

「私も、一緒に住もうと思って」

「えっー、だめですよ。女神さまは、ちゃんと天界に帰って下さい」

「天界なんて無いわ。あるのは雲の上だけ。あんな寒い所、嫌だわ」

「テラちゃんは女神さまなんだから、一人の人より皆の幸せを考えて下さい」

 カナレも反対のようだ。それはそうだろう。この部屋に3人は狭すぎる。

「大体、女神さまは、どういうつもりでここに住むんですか?カナレが妹だから、姉とでも言うつもりですか?」

「いいえ、ちゃんとお嫁さんにして貰います」

「ダメです。ご主人さまは、私のご主人さまです」


 そんな話をしていたら、TVから工場跡地で、防衛大臣の遺体が見つかったニュースが流れて来た。

 思わず3人でTVに見入る。

「本日、閣僚会議に現れないため、秘書が探していたところ、松並区の工場跡地で遺体となって発見されました」

 TVはそれだけ伝えると、次のニュースに切り替わった。

「大臣が死んだというのに、やけに簡単に済ませたな」

「きっと、毒ガス製造とかの秘密がバレるのが嫌だったのでしょう。

 だけど、今はネットの時代です。そのうち、噂となる日も近いでしょう」

 女神さまが言う。

「さあ。ご飯を食べよう」

 先ほどの事はなかったように、俺たち3人は遅い夕食にした。


 翌朝、起きて準備をしていると、女神さまが我儘を言って来た。

「今日は私も外に行きたい」

「でも、女神さまが来るといろいろ大変だから、留守番していて下さい」

「だって、暇なんだもん」

「そうです。テラちゃんは留守番をお願いします」

「それに、ずっーと寝ているじゃないですか」

「ご主人さま酷い。もう、いいわ。またカナレの中に入るから」

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