第45話 伝言

 俺とカナレは河川敷の方に向かっている。

 男たちはその10m位後ろを付いて来る。既にどこに行こうとしているか、彼らも分かっているハズだ。

 河川敷の奥の方に入ると、草も高くそう簡単に人の目に触れない場所がある。

 最もここは獣に襲われて死んだ男や、暴走族の殺人事件があった場所だから、今では誰も寄り付こうとしない。

 俺とカナレは立ち止まり、後ろを振り返えるとついて来た男たちはギョっとした顔になった。


「さてと、ここでいいかな。では、改めて聞きたい事がある。答えてくれるかな?」

「…」

 相変わらず男たちは何も言わない。

「相変わらず無視か。それでは、実力行使に出るかな」

 そう言うと、俺は二人のうちの一人に攻撃の能力を使って、素早く近寄ると、目にも止まらぬ速さで、ボディに1発入れた。

「ぐっ…」

 そのまま、もう一人の男の背後に回って腕を絡めとる。

「くっ」

「さてと、誰に頼まれて見張っている?」

「…」

「そうか、では腕の1本は覚悟して貰おう。お前たちが死んでも殺人事件にならないのは知っているだろう。

 そうなると、悲しむのは家族や両親になるんだぞ」

 俺は男の腕を締め上げる。

「わ、分かった。言う。俺たちに見張りを依頼してきたのは防衛省だ」

「防衛省?依頼?」

「依頼とはどういう事だ?」

「俺たちは、ただの探偵だ。そこに依頼して来たんだ」

「ほう、ではその依頼してきた相手の名前は?」

「名前は知らん。そういう契約で仕事を受けた」

「では、どうやって相手と連絡を取っている?」

「この携帯電話を渡された。これで連絡するようにと…」

「相手が防衛省だと何故分かった?」

「俺たちだって仕事に対する担保はほしい。依頼してきた男の後をつけたら、市ヶ谷の駐屯地に入っていったから、防衛省の人間だと思った」

「さては、自分たちで手に負えなくなって、民間に依頼したきたという訳か」

「そこまでの事情は知らない。ただ、浮気調査なんかより、かなり調査費が良かったのは確かだ」

「うーむ、お前たちは捨て駒って訳だな。防衛省にとってはどうでもいい人間って訳だ」

「どういう事だ?」

「それは自分で考えるんだな。それでは、防衛省宛に伝言を頼もうかな」

「だ、誰に伝えるんだ?」

「もちろん、防衛大臣さ。

 さて、大臣、いつまでもこうやっていてはもお互いに精神的に参ってしまうだろう。

 そこで、決着をつけようじゃないか?例の工場跡地に今度の日曜日の夜10時に待っている。

 もちろん、大臣一人で来て貰おう、とね」


 俺は男たちを解放した。

「もう、つけて来ても無駄だから、さっさとその携帯電話で連絡してくれ。

 それとここは、前に殺された男たちの幽霊が出るらしいから、いつまでもぐずぐずしていると、呪われるぞ」

 俺とカナレはそう言うと、河川敷を後にした。男たちは、早速、携帯電話をかけているようで、カナレには男たちが電話をする話し声が聞こえているようだ。

 そして、その話し声はカナレとの念話の能力で、俺にも伝わって来る。

「山本興信所の山本です。今、対象者から伝言を頼まれました。今度の日曜日の夜10時に工場跡地で待つとの事です」

 伝言を聞いた俺とカナレは河川敷からアパートに向かった。


 日曜日の夜10時に工場跡地に来た。

 工場跡地と言っているが、今では防衛省の土地になっている。

 バイトが終わった俺とカナレはアパートに帰る途中の公園で、人目に付かない所で、カナレが猫の姿になると、その背に俺が乗って、民家の屋根の上を駆けて来た。

 工場跡地には、車が1台あり、そこから山本興信所の山本という男が降りて来た。

「大臣は、あの建物の中で待っているということだ。

 俺はこれでこの仕事から解放されるんで後の事は知らないが、あんたたちは防衛大臣相手に何をしているんだ?

 いや、そんな事を聞くのはルール違反だな。それじゃ、これでおさらばだ」

 山本はそれだけ言うと、車で去って行った。


「カナレ、行くか」

「「はい、ご主人さま」」

 どうやらカナレは肉声で、女神さまは念話で一緒に返事を返してくれたようだ。

 火事のあった建物の中に入って行くが、あの火事から修復はしていないのだろう。中は真っ暗だが、カナレは猫目なので、暗くても中は見える。

 俺はカナレの能力を使って、暗闇でも同じように見る事が出来る。

 変圧器が焼けて電気が通電されていないので、エレベータも当然動かない。そのため、エレベータ横にある階段を使って下に降りる。

 防火用扉を開けて一歩、一歩階段を降りて行くが、足音しか階段室に響かない。

 この前、忍び込んだ時に見たエレベータには地下20階までボタンがあった。と、いうことは、地下20階までは行かないとだめだろう。

 そんな事を考えながら、まずは1階降りてみる。

 地下1階の廊下に出る扉を開けるが、やっぱり廊下は暗い。

「カナレ、何か聞こえるか?」

「いえ、ここには何もないようです」

「取り敢えず、調査してみよう」

 俺とカナレは廊下の両側にある部屋の扉を開けるが、そこは単なる事務室だ。事務用の机が整然と並んでいるのは、高校の職員室を思い出す。

 別の部屋はロッカー室だったり、会議室だったりするが、ひとつだけ違っていた部屋は通信室だった。

 恐らく、大臣や他の仲間との連絡用に使っていたのだろう。

 俺とカナレはその部屋を離れ、さらに1階降りて、地下2階に来た。

 そこも地下1階と同じように真ん中に廊下が1本あり、両側に部屋がある。

 カナレの聴力を持ってしても、やはり何も聞こえてこない。ここにも人はいないようだ。

 廊下の両側の部屋を調査すると、ここは個人用の個室や風呂、キッチンがあったので、恐らくこの建物で生活できるようになっているのだろう。

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