第41話 休日の過ごし方
SDカードを投函した翌々日に、俺の撮った写真が新聞の1面に掲載された。
この写真はTVにも流れ、暴走族5人を殺した相手を警察は必死になって追いかけているようだ。
俺はSDカードの指紋とかは消してあるので、そう簡単に分からないと思うし、かなり離れた町からポストに投函もしていないので、アリバイもある。
大学に行くと、朝からまたこの話題で持ち切りだ。
「おい、石田、この前、暴走族が殺された河川敷ってお前の住んでいる所だろう。その前にもたしか人が死んでいるよな。
お前の住んでいる街って、治安が良くないんじゃないのか?」
「いや、強盗とかは少ないし、殺人が起こっているのは事実だけど、それほど、治安が悪い訳ではないと思う」
「そうかなあ、俺なら別の所に引っ越してしまうけど。そう言えば、化学工場の火災で有毒ガスも発生したよな」
「それと殺人事件とは関係ないだろう」
「それもそうか。そう言えば、前の殺人も人ではなくて野犬だったっけ。ところで野犬って捕まったのか?」
「いや、まだだ」
「そうか、もしかしたら、今度のやつも野犬かもしれないな」
友人は一人でそう納得してしまった。
本人が納得したのであれば、俺がそれを否定する必要はない。
暴走族の写真がメディアに出てから、俺とカナレの跡をつけてくる人物はいなくなった。
最近は狐の方も手詰まりになったのか、俺とカナレに手は出して来ないが、反対に俺とカナレも手詰まりになっている。
カナレが議員宿舎に様子を見に行くが、なんら怪しい所はない。
話だけだと、普通の議員活動をしているように見える。
「カナレ、狐が最近大人しいが、何かやるつもりなんだろうか?」
「たしかに静かにしている分、不気味ですね」
「今のまま状況を伺うとするか。さて、今日は久々の休みだから、俺が何か作ろう」
「あ、私も手伝います」
二人で台所に立って、料理をする。
久しぶりにひき肉を買ってきたので、ハンバーグを作る事にした。
ハンバーグはカナレが捏ねている。
「カナレ、なかなか上手いな。それも美佐江さんに教わったのか?」
「そうです。ママさんには色々お世話になっています。料理も教えて貰って、私もなるべく、ご主人さまに料理を作ってあげたいです」
「ちょっと、それぐらいなら、私だって出来るわ。なんたって身体は一つなんだから」
これは女神さまか。カナレと料理を作っているのだから、大人しくしておいて欲しい。
「テラちゃんが出てくるとややこしいので、出て来ないで下さい」
「いいじゃない、私にもやらせてよ」
「あっ、だめです。身体を勝手に乗っ取らないで下さい」
「へへん、こうすればいいのね」
カナレの身体を女神さまが乗っ取ったようだ。
だが、カナレの手際が急に悪くなった。
「おい、なんだかおかしいぞ。テラちゃんがやると下手だな」
「おかしいわ。身体が覚えているから、猫と同じように出来るはずなんだけど…」
「やっぱ、駄女神だからじゃないのか」
「…ご主人さま、酷い」
「だって、ほら」
カナレが捏ねていた時はちゃんとしたハンバーグだったのに、今ではおにぎりなのか何なのか分からない状態だ。
「うっうっうっ、いいもん。女神には料理なんて科目はないのよ。そうよ、料理が出来なくても生きていけるわ」
「でも、料理が出来ないと、将来の旦那さまは可哀そうだ」
「うっ、えーん」
女神さまが泣いたようだ。
「ご主人さま、それは言い過ぎだと思います」
今度はカナレが出てきた。
「そうか、それは悪かった。テラちゃんごめん。
ところで、テラちゃん、さっきお嫁の事を言ったら気落ちしていたけど、誰か好きな人がいるのかい?」
「ご主人さまは、鈍感です」
「ええっ、そうかなあ?、天照大神さまの旦那さんって誰だったっけ?」
「もういいです。さっさとハンバーグを作りましょう」
俺はカナレに促されて、料理を続けた。
「「いただきます」」
カナレと二人、ちゃぶ台に並んだ料理を食べ始める。
「まあ、美味しい」
「カナレが作ったから、美味しいな」
「もう、テラちゃんはこういう時だけ出て来ないで下さい」
「えっ、今のはテラちゃんか?」
「もう、直ぐに私の身体を乗っ取るんだから…」
「いいじゃない。私だって美味しい食事をしたいわ」
「身体は一つなので、二人分食べると太りますよ」
「…」
「…」
「カナレが作ったので、カナレが食べればいいと思います」
「しょうがないわ。今回は、私は引っ込んでいるけど、次は私にも食事させてね」
「さあ、ご主人さま、テラちゃんの了解も得ましたので、仕切り直しにしましょう」
カナレはそう言うと、食事に箸をつけた。
食器を片付けてもいつもよりは早い時間なので、二人でまったりとしているが、逆に何もすることがない。
「何もする事がないなあ」
「そうですね、狐の監視にでも行ってみましょうか?」
「そうだな、散歩を兼ねて、行ってみるか。それと工場跡地にも行ってみよう」
俺とカナレは、バイト先のロッカーから出ると、カナレが猫の姿になり、俺はその背に乗った。
カナレは姿を消して、屋根の上を飛び越えて行く。
やはり、俺を乗せている時はスピードを落としているのだろう。念話の能力で見る映像と、後ろへ飛んでいく景色の速度が違う。
議員宿舎に行くと、狐の姿はなく、部屋に灯りもついていない。
「カナレ、狐はどこかへ行ったみたいだな」
「では、工場跡地の方へ行ってみましょう。以外とそこに居るかもしれません」
カナレと俺は工場の跡地へ向かった。
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