第42話 警察

 工場跡地に着くと、敷地の片隅に2階建ての建物が建っているが、それ以外には変な所はない。

 本館ビル建設のための足場や重機はあるが、まだ着工には至っていないみたいだ。

 夜なので、当然従業員はいないが、重機の隣には黒色の高級車が1台止まっていた。

「カナレ、あれは狐の車じゃないか?」

「たしかに大臣専用車ですね。でも、誰も乗っていません」

 運転手さえもいない。

「みんな、どこに行ったんだろう?」

「臭いは、あの建物の中に続いていますけど」

 俺とカナレは姿を消して、建物の方へ行ったが、建物には窓がない。

「カナレ、中から何か聞こえるか?」

「いえ、壁が厚いのか何も聞こえません」

「窓もないな。中に入るには、正面玄関しかないみたいだ」

 その正面玄関もガラスの自動ドアではなく、鉄製の重い扉になっている。まるで、何かのシェルターみたいだ。

「狐はこの建物で何をしているのだろう」

「さあ、そこまでは…」

「中に入れないだろうか?」

「屋上に行ってみましょう」

 俺とカナレは屋上に行くが、そこにはエレベータ機械室しかない。

 だが、エレベータ機械室には、換気口があった。

 その換気口にカナレが耳を近づける。

「ご主人さま、何か機械音がしますが、何の機械音かは分かりません。

 空調用の換気口だから、空調機の機械音じゃないのか?

 だが、ここに居てもそれ以上何も分からない。屋上からの出入り口も見当たらない。

 屋上から見ていると、分厚い鉄扉から、大臣と近衛隊と思われる男4人が出てきた。

 男たちは黒い車に乗ると、その場から立ち去って行った。

 大臣一行が去ったので、俺とカナレも家に帰る事にする。

 だが、新しく建てたビルに何かあるのは間違いない。


 翌日、バイト先の店が終わって閉店しようとしていた時、男性2人が入って来た。

「すいません、今日はもう閉店です」

「いや、客ではないから」

「どうか致しましたか?」

 店長とその横にはカナレも来た。

「石田くんだね、我々はこういう者だが…」

 男たちが出したのは、警察の身分証だ。

「警察の方ですか?それで何の用でしょうか?」

 店長も不安そうな顔をしている。

「実は君も知っていると思うが、この近くの河川敷で暴走族が殺された事件があっただろう。

 その時の犯人を撮影した写真が、報道機関に匿名で送られてきたんだ。

 そして、SDカードは岐阜県内で発売された事は分かっていて、そこにこの街に住んでいる岐阜県出身の人を当たったら、君の名前があったという訳で、何か知っている事があれば、教えて貰いたいと思ってね」

「いえ、俺は何も知らないです。それに岐阜県出身で、この街に住んでいる人も俺だけじゃないでしょう」

「そのとおりだ。だから、虱潰しに当たっている」

 ここは下手におしゃべりして変な事を言わない方がいい。

「確認するが、1週間前の日は何をしていたか覚えているか?」

「えっと、大学に行ってから、いつものようにここでバイトしていましたが…」

「バイトが終わるのは、大体この時間かね?」

「ええ、そうです」

 バイトが終わるのは11時になる。

「車とかは?」

「車は持っていません。自転車ならありますが…」

「先輩、自転車ではあの街までは、とうてい行けませんよ」

 後ろに控えていた若い刑事が言う。

「そうだな。ちなみに翌日は?」

「いつものように大学に行って、それからここでバイトです」

「なるほど、大学に行ったかどうかは、調べれば分かるということだな」

「ええ、そうです」

「そうか、それでは失礼した」

 刑事たちはそう言うと、店を出ていった。

「警察も大変だな。だが、SDカードひとつで、どこで売っていたかまで分かるんだな」

 店長が感心したように言う。

 だが、俺は心の中で「しまった」と思っていた。

 まだ、高校生の頃、親に買って貰ったデジカメ用の予備として、実家の近所の電器屋で買ったSDカードだった。

 それが、ここで足がつくとは思っていなかった。

 俺とカナレはアパートに帰って、警察の事について話し合う。

「カナレ、失敗したな」

「SDカードの事ですか?どうしますか?」

「警察がどこまで、押さえているか知りたいな。俺が警察の捜査線上に上がっているならなんとかしたい」

「では、探って来ましょうか?」

「カナレ、頼んでいいか?」

 万が一、警察が見張っている事も考えて、レストランのロッカーから出て、殺人事件の本部が置いてある、警察署に偵察に行くことにした。

 カナレが猫の姿になり、外に出ると、屋根の上に飛び乗る。

 そして、屋根をかけて行くのが、カナレとの念話の能力を使って伝わってくる。

 カナレはそれほど時間もかけずに、警察署に着くと、捜査本部の置かれている部屋の近くに行き、中の話し声に耳を傾ける。


「現在、有力な容疑者はいない。あの映像を撮影したと思われるので一番可能性が高いのが、この『石田』という学生だ。

 だが、この石田がSDカードをどうやって投函したか証明できなければ、やつを引っ張って来れない」

 この前来た刑事の先輩と呼ばれた方が、発言している。

「ですが、投函日には石田は自分の街に居ましたし、そこから投函した街へ行く事は不可能です」

 今度は、この前来た若い刑事が言う。

「誰か、友人に頼んだというような事は?」

 二人の上司だろうか?二人に聞いている。

「そんな様子はありません。バイト帰りも遅くそんな時間はないと思います」

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