第40話 暴走族と男たち
「何だ、おまえら」
少年たちが言う。
「…」
俺とカナレをつけてきた男たちは無言だ。
「おい、俺のバイクをどうしてくれるんだ」
少年たちは男2人を囲んだが、男たちは動じる様子はない。
「何とか言ったらどうなんだ」
少年たちは今にも掴みかからんばかりの勢いだ。
それを見た男たちは武術の構えを取った。
恐らく、男たちは武芸の心得があるのだろう。争いになったら、少年たちでは歯がたたないのではないか。
「てめぇ、何か言え」
少年の中の一人が殴りかかったが、男は空手の徒手で、その拳を払い、反対に顔面に一発入れた。
喧嘩慣れしていても所詮は素人だ。
一発、入れば相手を戦闘不能にするには十分だ。
「くそっ、こうなれば、黙って帰す訳にはいかねぇ」
少年たちはナイフを取り出し、構えた。
「えいっ」
少年のうちの一人がナイフを振りかざし、男に向かって突っ込んでいく。
だが、男はその手首を掴むと後方に投げた。
少年たちは最初の少年に続いてナイフで突っ込んでくるが、同じようにあしらわれる。
最初に顔面に一発貰った少年も立ち上がって、ナイフを構えている。
「こうなったら、一斉に行くぞ」
「「「おおっ」」」
少年たちは男たちを囲んで、一斉にナイフで襲っていく。
男たちは正面から突っ込んできた少年の腕を取り、後ろの少年に合わせると、正面から突っ込んで来た少年のナイフが後ろから突っ込んできた少年の腹に突き刺さった。
そうやって、瞬く間に2人の腹にナイフが突き刺さっている。
少年たちが茫然としていると、男たちは後頭部を回し蹴りにした。回し蹴りされた少年の頭があり得ない方向を向いている。
腹を刺された少年と、後頭部を蹴られた少年が、地面に横たわる。
襲われた男たちは息も切らせていない。
少年たちは生きているのか、死んでいるのか、ここからは分からない。
俺とカナレをつけてきた男たち2人は、倒れている少年たちを見下ろしている。
俺は懐からデジカメを取り出すと、姿を表して、少年たちを見下ろしている男たちの写真を撮った。
「カシャ、カシャ」
シャッター音と伴にフラッシュが焚かれる。
「待て」
「何だ?何か用か」
「カメラをこっちに寄越せ」
「やだね」
「何?」
「なんなら力ずくで奪ってみなよ」
その言葉を聞いた男たちは、黙った。それはそうだろう。前に俺とカナレを襲ったやつらは、今はあの世に居る。
「その写真をどうするつもりだ」
「それは愚門だな。現代のネットワーク社会の事が分からない、お前たちじゃないだろう」
「そんな事をしても無駄だ。アップしても直ぐに消されるぞ」
「一度、アップされるとそれがコピーされて鼬ごっこになるのは分かっているのだろう。
するとどうなる?そんなに時間も掛からずに、この事は社会全体が知ることになる。そうなると警察も動かない訳にはいかない。
彼らにも親が居るだろうから、行方不明になると、かなり手間になる」
再び、男たちは黙った。
「金か?」
「金なんていらない。貰ってもしょうがない」
「だとしたら、要求は何だ?」
「大臣に例の工場跡地に来て貰おう。もちろん一人でだ」
「何故、大臣をつけ狙う。お前たちは敵国のやつらか」
どうやら、俺とカナレを大陸の国のスパイか何かと勘違いしているようだ。
「大臣は、この国を戦争に導こうとしている。俺とカナレはそれを阻止したいだけだ」
「そんなの信じられるか」
「信じて貰わなくても結構。俺たちは、俺たちのやり方でやるだけだ」
「取り敢えず大臣には言ってみる。だから、その写真はそれまでネットにアップしないでくれ」
「取引成立だな。それでは、大臣が工場跡地に来る日が決まれば連絡をくれ」
「連絡先は?」
「そんなの態々、聞かなくても既に調査済みだろう」
「…、分かった。こちらから何らかの手段で連絡する」
男たちはこの場から去って行った。
それを見た俺とカナレも河川敷を跡にした。
翌朝のTVのニュースで河川敷の少年たちの事が流れている。
原因は、暴走族の仲間割れという事になった。
TVでは上空からのヘリコプター映像が映し出されるが、ブルーシートで事件の現場が覆われていた。
ニュースでは、5人全員が死亡したとの事だ。
警察では、現場から立ち去った仲間が2人居ると見て、行方を追いかけていると言う事だが、その男たちも今頃、死体になっている可能性もある。
狐がミスをした男たちをのうのうと生かしておくとは思えないからだ。
案の定、狐が工場跡地に来るという連絡は、男たちからは無かった。
「カナレ、やはり男たちは狐に殺されたのだろうか?」
「そう考えるのが、妥当と思います」
「すると写真をネットにアップするかどうか難しいな」
「今アップすると、警察がご主人さまをマークするでしょう。狐に加えて、警察のマークが入るとご主人さまも大変でしょう」
「たしかに、カナレの言うとおりだな。しかし、どうしようか?」
「匿名で報道機関に郵送したらどうでしょうか?」
「と、なると、なるべく遠くのポストに入れた方がいいな」
俺は、データをSDカードにコピーし、匿名の封筒に雑誌社の社名を書いた。
その封筒は、カナレがこの街から離れた町にあるポストに投函してくる事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます