第39話 しばき隊

 男たちは部屋の中を見渡すが何もないので、どうしたら良いか、戸惑っている。

「引っ越したか?」

「いや、見張りからの報告ではここに入るのを見たということだ。この部屋に居るのは間違いないだろう」

「では、何でここには何もないんだ」

「それは分からない。もしかしたら、隣の部屋に通じる穴があるとか?」

 そう言うと、男たちは押入れの中を探し出す。

「やっぱり、穴らしき物はないぞ」

「あとは、天井から行ったとか?」

 天井に通じる穴を探していたが、

「いや、やっぱりない。一体、どこに行ったんだ?」

「どうする?このまま手ぶらで帰ると叱責されるぞ」

「だが、本当の事だ。証拠に写真を撮っておこう」

 そう言うと、男たちはスマホを取り出すと、写真を撮り出した。

「よし、引き上げだ」

 男たちは部屋を出て行ったが、ちゃんと鍵をかけて、留守の際に入った形跡が残らないようにしていった。


 その録画をカナレと見て、対策を考える。

「取り敢えず、人間では空間の狭間の部屋は見つからなかったけど、狐が乗り込んできたらどうだろう?」

「狐でも無理です。この空間は私の創った空間なので、狐でも入る事はできません」

「カナレ、そんな事もできるのか?」

「いえ、そっちはテラちゃんの方です」

「あっ…、そう」

「ご主人さま、私の能力だと何か問題でも?」

「いや、ありません。逆に感謝しています」

 カナレの身体の中に二人住んでいるので、まったく、ややこしい。

「ですが、またウィルスを作りませんか?」

 今度はどっちだろう?

「作ると思うが、以前それを作った斎藤と一緒に居た男でなければ作れないだろう。

 その男は東南アジアで行方不明の状態だから、そいつを探し出すか、代わりになる人物を連れて来るかということになり、時間がかかるのじゃないか。

 今直ぐに、どうこうという事もないだろう」

「ですが、いつかは出来ます。早急に決着をつける方がいいと思います」

「そうだな。狐が一人になるなら、決着をつける事が出来るが、そうでないと、近衛隊みたいなのがいるから、なかなか大変だぞ」

「今は、狐の動向を見張っているしかないと言う事ですか?」

「そうだが、見張るのも大変だ。カナレに一日中、見張って貰う訳にもいかないからな」

 俺とカナレは手詰まりになった。


 俺とカナレが、手を拱いているのとは反対に、狐の方はいろいろやってくる。

 まずは俺の跡を監視する人が、ついて来るようになった。

 家を出てから大学に行き、そして大学が終わってからバイトまでついて来て、最後は家に入るまで跡をついてくる。

 そして、家に入ると夜中は交代で見張ってくる。

 向こうも俺に分からないようにしている訳ではなく、跡をつけていることを知られても構わないといった感じだ。

 反対にこっちから相手側に接触しようとすると、今度は距離を置く。

 そんな事の繰り返しなので、精神が参ってくる。


「カナレ、相手は精神的な攻撃を仕掛けて来るようになったな」

「私のお店の方も、ずっと見張っています。さすがに、四六時中ついて来られると疲れます」

 カナレの方も、だいぶ精神的に参っているみたいだ。

「どうしたもんだろうか?」

「いっそ、誘い出して、しばきますか?」

「えっと、今のはカナレか?」

「違います、テラちゃんです。私はそんな乱暴な言葉は使いません」

「なによ、私がガサツみたいじゃない。ちょっと、女神に対して失礼じゃない」

「だって、しばくって女神さまが言ったじゃないですか?」

「身体は一人なんだから、同じよ」

「違います。私じゃありません」

 どうも身体が、一つだと本当にややこしい。

「えっと、どっちでもいいから…」

「ご主人さまが、カナレかって聞くからです」

「そうよ、ご主人さまが悪いんです」

「あっ、いや、つい聞いてしまうんだよ。それより、どうするかって事だよ」


「やっぱ、しばきますか?」

「えっと、今のは…、あっ、いやなんでもない。でも、どこでやる?」

「河川敷ってどうでしょうか?あそこは殺人があってから、人が寄り付きません」

「そうするか。では早速、行動しよう」

 俺とカナレは部屋を出て、河川敷の方に向かって歩き出した。

 すると、俺とカナレの後ろを男が二人つけてくる。

 俺とカナレはそのまま河川敷の方に行く。

 河川敷の土手の所に来ると、改造バイクが置いてあった。

 河川敷の方からは、若い男の声がする。


「ここで、殺された男の亡霊が出るんだろう?」

「ああ、ここから川の所まで行って帰ってくる訳だ」

 どうやら、肝試しに暴走族の連中が来ているみたいだ。

「カナレ、姿を消して、バイクを倒して、暴走族と後ろの男たちを衝突させようか」

「なるほど、いいかもしれません」

「暴走族は何人ぐらいだろうか?」

「5人ですね。5種類の声がします」

 カナレの聴力には暴走族の声が聞こえているみたいだ。


 俺とカナレは、つけている男たちからちょっと見えなくなったところで、カナレの能力を使って姿を消した。

 俺とカナレの姿が見えなくなったので、男たちが慌てて駆けて来た。

 その間に俺とカナレは、暴走族の改造バイクの所に行って、バイクを蹴り倒す。

「ガッシャーン」

 その音が暴走族の少年たちにも届いたのだろうか。少年たちが慌てて駆け寄って来た。

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