第28話 事故
「私たちは、ご教主さまの指示のもと、一致団結して進まねばなりません。
私たちには敵が多いですが、そのような障害を乗り越えて、ご教主さまに従えば、必ず天国に導かれます」
なんだ、これはカルト集団じゃないか。
すると、カナレの声が頭の中に響いてきた。
「ご主人さま、これは洗脳されているようです」
「カナレの声が頭の中に響いてくるのだが…」
「今、念話の能力で話しています。直接会話しなくても、相手と話をする事ができます」
「分かった、それで今は集団洗脳しているというのか?」
「そうです。人数までは分かりませんが、かなりの数が居るようです」
カナレと念話をしている間も、その女性指導者の声が聞こえる。
「我々は財団ビルが完成した暁には、全員でこの世界から人々を救わねばならない。そのために力をつけるのだ」
「「「はい」」」
財団ビルが完成すると何かするつもりのようだ。
恐らくテロ行為か何かだろう。
「カナレ、どうしようか?」
「あの女性指導者は何者でしょうか?狐に操られているのでしょうか?」
「恐らくそう考えた方がいいだろう。操られた者を元に戻す事はできないのか?」
「狐が取り憑いている宿主から出れば、元に戻りますが、それは宿主が死ぬ事になります」
「だけど、宿主が死なないと、狐は宿主から出ないのだろう。それは仕方無い事ではないか?」
「そうです。宿主が死ぬか、操られている者が死ぬかだと思います」
その部屋の中の会話を聞いていたが、ピルの地下駐車場に黒い車が入って行くのが、ビルの側面に貼りついている俺とカナレの目に入った。
どうやら狐が帰ってきたようだ。
「カナレ、今日はこれぐらいにしよう」
「分かりました。また、バレるとどこから抜け出たという事が問題となりますから、さっさと撤退しましょう」
カナレは俺を背に乗せたまま、隣のビルに移り、そこからピョンピョンとビルの上を駆けて行く。
俺のバイトするレストランの裏口に来ると、カナレは元の猫の姿に戻り、二人でロッカー室に入る。
ロッカーから不思議な空間を通って、自分たちの部屋に戻った。
TVで外を確認すると、平和財団の車がまだ止まっている。
俺とカナレをずっと見張っていたようだ。
次の日、俺は大学へ、カナレは勤務先のケーキ屋に向かったが、平和財団の財団員は相変わらず俺とカナレの後をつけてくる。
途中で撒いてもいいのだが、行先はバレているし、時間の無駄なので、そのまま尾行させておく。
大学に着いて、カナレに念話を送ってみる。
「カナレ、聞こえるか?」
「はい、ご主人さま、良く聞こえます」
カナレの勤務しているケーキ屋と俺の大学では、かなりの距離があると思うが、それでも良く聞こえる。と、言うより頭の中に響くのだが。
だが、これは便利だ。授業を受けながらでも会話する事が可能だ。
普通、二つの事は耳で聞けないが、耳で聞くことと、頭の中に響くことは別なので、これが一辺に出来る。
もしかしたら、聖徳太子さまも念話が出来たから、複数の人の話を聞けたのかもしれない。
「カナレ、そっちはどうだ。変わった事はないか?」
「特にありません。今でも外から見張っていますが、ただそれだけです。そこから何かするということはありません」
「俺とカナレだけならいいが、美佐江さんの店に迷惑がかかるような事があってはならない」
「はい、そこは分かっています。何かあったから、私が対応します」
カナレと念話で会話が出来る事を確認した俺は、授業が終わった大学を後にした。
大学から出て駅前に歩いている時だ。
「キャー」
後ろの方から声がする。
振り向くと、車がこっちに突っ込んでくる。
そんな時、咄嗟に行動に移れない。俺が立ちすくんでいると車はもう目の前だ。
俺はその車に手を出すと、車の方向が変わった。
車はそのまま、歩道を横切って、ビルの中にあるガラスを打ち破って止まった。
周りに居た人たちが゛、集まってくる。
警官も走って来た。
「君、大丈夫か?」
「はい、直前で車の向きが変わったので、助かりました」
車の中から老人が出されている。怪我はしているようだが、命に別状はないようだ。
「爺さん、あんたアクセルとブレーキを踏み間違えただろう」
車の中から老人を出した男の人が言っている。
だが、老人はその言葉が理解できないようだ。顔からは血が出ている。
しばらくすると、パトカーのサイレンと救急車のサイレンの音がした。
誰か通報したようだ。
「おーい、こっちだ」
救急隊員が老人に駆け寄ると、ストレッチャーに乗せて運んで行った。
その頃になると、レッカー車も来て、車の搬出を始めている。
「君、状況調査に協力してくれないか?」
警官が話しかけてきた。
「はい、分かりました」
その場で事情聴取に応じるが、こちらは車が突っ込んできただけなので、それ以外の説明は出来ない。
「それで、直前で車が方向を変えたのは何でだろうか?」
「さあ、運転している方が、咄嗟に変えたのでないですか?」
「まあ、そうだろうな」
警官は自分自身でもそうだと思ったのか、頷くと他の警官の方へ行ってしまった。
俺は事情聴取が終わったので、その場を後にして、バイト先に歩き出した。
その時に、いつもつけてくる平和財団の財団員の姿があった事を確認した。
恐らく、この事故は平和財団の仕業だろう。
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