第29話 平和財団の最後
アパートに帰って、今日あった事をカナレに話すと、
「ご主人さまに防御の能力をかけていて良かったです」
と、言ってくれた。
たしかに、それがなかったら、今頃俺はここに居なかったかもしれない。
狐はだんだんと俺とカナレにも脅威になって来た。
このままでは、バイト先の店長や美佐江さんにも何かしてくるかもしれない。
「カナレ、どうしようか?」
「マスターやママさんに迷惑がかかると困ります。早いうちに、何かしらの対応をした方がいいかもしれません」
そのうちに店長から工場跡地で平和財団が、ビル建設のための地鎮祭をやるという事を聞いた。
「カナレ、平和財団が工場跡地に来るそうだ」
「地鎮祭ですね。その時、会長も来るでしょうか?」
「来るだろうが、その周りの連中も来るだうな」
「俺とカナレも野次馬を装って行ってみるか?」
「でも、仕事もありますよ」
そうだった。カナレはケーキ屋で仕事、俺はレストランでバイトがあった。
「あ、ああ、そうだったな」
仕方ないので、その夜に行ってみる事にした。平和財団が何かしら残しているかもしれないからだ。
地鎮祭があった夜、俺とカナレは工場跡地の地鎮祭を行った後に来た。
既にテントとかも片付けられていて、今では、その跡ぐらいしかない。
カナレは人の姿に戻って、俺の横に居る。
「特に変わった事はありませんね」
「カナレの嗅覚でもそうか」
「ちょっと、待って下さい人が来ます」
俺とカナレがそのまま立っていると周辺から、黒い服を着た男たちがやって来た。手に武器を持っている。
「カナレ、このまま猫の姿になると見られてしまうぞ」
「でも、ここはそれしかありません。彼らは操られているのなら、私が猫の姿になった事も忘れてしまうでしょう」
カナレは猫の姿になると、男たちの中に突っ込んでいった。
男たちはカナレに向かって、拳銃を発砲するが、カナレには防御の能力があるので、影響はない。
男たちは俺にも拳銃を発砲してくるが、俺も防御の能力のおかげで何ともない。
だが、俺はカナレのように戦闘能力がないので、ただ逃げるだけだ。
危なくなるとカナレが来て、助けてくれる。
しかし、カナレと男たちの力の差は歴然で、そのうち、男たちの数が少なくなってきた。
「よし、そこまでだ」
その言葉で男たちの攻撃が止んだ。
男たちの後ろから以前会った事のある男が出て来た。これは例の平和財団の会長だ。
「俺が相手になる」
そう言うと、男は四つん這いになった。そして、狐の姿になっていく。
カナレと狐は睨み合っていたが、まるでそれが当たり前のように組み合った。
以前と同じように上と下が入れ替わる戦いになって来た。
こうなるとまるで獣同士の戦いだ。
「グルル…ル」
「ガルルル…」
カナレと狐が離れた。
どちらも身体から血が滴り落ちているが、カナレはその血がだんだん少なくなってきている。回復の能力が働いているのだろう。
再び、カナレと狐が組んだ。また上と下に入れ替わり戦いが続く。
だが、それも長く続かず、カナレが狐の喉に喰らいつき、喉を引き千切った。
「ガウッ」
狐が叫び、その場に倒れた。
だが、男の身体からは黒い煙が出て、上空に登って行く。
「カナレ、上だ」
カナレも上を見るが、カナレもそれを追う力は残っていない。
カナレは人の姿になって、肩で息をしている。
「ハア、ハア」
見ているとカナレも立っているのがやっとだ。
ここで、男たちに襲われると命の危険があるが、男たちは襲って来ない。
見ると、お互いを見て、憑き物が盗れたような顔をしている。
男たちもどうやら、狐に操られていたようだ。
男たちは、俺とカナレにも目もくれず、工場の跡地から逃げ出して行った。
恐らく、俺とカナレの姿も既に覚えていないだろう。
男たちが居なくなった工場跡地に俺とカナレは立っていたが、俺とカナレも引き上げる事にして、俺はカナレをおぶって工場跡地から、アパートに向かった。
しばらく歩くとカナレの傷も治ってきたので、地面に降ろすと、立って歩けるようになっている。
「カナレ、大丈夫か?」
「ええ、傷も塞がってきましたし、もう大丈夫です」
「狐はどうしただろうか?」
「また、他の人に憑くでしょう。だけど、それが平和財団の人かどうかは、分かりません」
「平和財団もどうなるだろうか?」
「さあ、どうでしょうか。あの女性が教主になるのでしょうか」
それから数日が経ったときだ。TVの放送で、平和財団に家宅捜査が入った事を知った。
財団の幹部は銃刀法違反などで逮捕され、化学工場跡地を購入した4億円も現金輸送車強奪の金と判明した。
だが、財団の会長の行方は不明で、海外逃亡とかいろいろな噂が流れたが、工場跡地で獣に襲われた腐乱死体が発見され、一人工場跡地に来た時に野犬に襲われたということになっている。
会長が工場跡地に来た理由は分からずだっだか、恐らく下見に来たのではないかという結論に収まった。
あの時、工場跡地に居た男たちも当然の如く、捜査対象になったが、誰も俺とカナレの事を覚えている男は居なかった。
そして、俺とカナレはいつもの生活に戻り、平々凡々とした生活を送っている。
いつの間にか季節は1年が過ぎ、カナレとの生活も当然のようになっていた。
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