第27話 敵地

 俺とカナレには、平和財団の監視が付くようになった。

 向こうも俺とカナレが就けられていることを知っているのだろう。最近は平然と俺とカナレの後をつけて来る。

 まさにストーカーだ。

「カナレ、警察に届けてみようか」

「警察にですか?」

「届けると平和財団に手入れが入らないかな?」

「うーん、どうでしょうか?」

 俺とカナレは家を出て、警察に行く事にした。

 俺とカナレの後ろを平和財団の連中がつけてくる。

 俺とカナレは交番に入った。


「妹の後をつけてくるストーカーが居るんです。今も就けて来ています」

 警官が外を確認する。

 すると、ビルの陰からこちらを見ている二人組が居る。

「あれはストーカーというより、何かの組織だと思うが、心当たりは?」

「平和財団だと思います」

「平和財団か」

「何かありますか?」

「いや、あそこは警察でもちょっと問題になっていてな…、あっと、今の話はなかった事で」

「警察ではどうにもならないと言う事ですか?」

「単刀直入に言うとそうだが、その平和財団に何か目を付けられるような事をしたのかね?」

「いえ、何も心当たりがないです。以前も妹はストーカーに狙われた事があったので、それと同じ事だと思ったのですが…」

「いや別の目的があると思うが、ストーカーの名前が分からないと、通達も出せないな」

 そこに居た他の警官も困った顔をしている。

「本庁の方で家宅捜査が出来ればいいが、我々下っ端の方じゃそこは分からないから」

「分かりました。仕方ないですかね」

 俺とカナレは交番を後にした。


 俺とカナレの後ろを平和財団の財団員と思われる人がついてくる。

 俺はそのままレストランへのバイトへ、カナレは勤務先のケーキ屋に行くと、平和財団の財団員も俺とカナレに別れてついて来る。

 カナレはケーキ屋の仕事が終わると俺が働いているレストランに来て、帰りは二人で帰るが、その間もずっと就いて来ている。

「何も手出しをしてこないと分かっていても、こう24時間就けられるとあまり気持ちのいいものではないな」

「例の通路を使いますか?」

 レストランのロッカーに出る通路の事だろう。

「そうだな、一回、脅しておこうか」

「どうするのです?」

「ロッカーから出て、例のビルに行く。当然、狐も気付くだろうが、今度はつけている財団員に連絡が入るだろう。

 だが、俺とカナレはアパートから出た形跡がなければ、相手は混乱するだろう。

 ちょっと混乱させてみようかと思う」

「では、アパートに帰って早速、やってみましょう」

 アパートに帰った俺とカナレは、押し入れからレストランのロッカーに移動した。

 既に店長も帰ったようで、店の中は静かだ。

「外に財団員の見張りは居ないよな?」

「ちょっと待って下さい」

 カナレは外に耳を澄ましているようだったが、

「大丈夫みたいです」

 俺とカナレは裏口から出た。

 カナレが猫の姿になったので、俺はカナレの背中に乗る。

 俺が乗った事を確認したカナレは、ぴょんと屋根の上に乗ると同時に姿を消して、屋根の上を駆けていく。

 新宿の高層ビル街を抜けると、目的のビルがあった。

 平和財団の屋上に着くと、拳銃を持った財団員が出て来ると思ったが、今日は何も起こらない。

「カナレ、何か分かったか?」

「今日は狐は居ないみたいです」

「他に誰か居ないか?」

「部屋には誰も居ないようです」


 俺は屋上から階下に繋がるドアを開けると、鍵がかかってなかったので、そのまま中に入れた。

 カナレも人の姿になって、階段を降りて来る。

 最上階に来た。ここには、例の狐の部屋があるはずだ。

 俺がドアを開けようと、ノブに手をかけようとしたところ、カナレがその手を取って、首を振った。

 何かマズイ事があるようだ。

 俺とカナレはその下の階に行く。そこにも通路に出るドアがあった。

 カナレを見ると、今度は首を縦に振っている。どうやら開けてもいいようだ。

 俺はわずかにドアを開けて、通路を覗くが、電気は点いていても人は誰も居ない。

 さらに監視カメラがどうかも確認するが、カメラも見当たらない。

 俺とカナレは通路に出る。すると、いくつかの部屋があるが、その部屋には電気が点いていない。そのうち、一つの部屋に入ってみるが、そこは普通の事務所だ。

 白板には、本社ビル建設工程表なんてのが掲げてある。

 どうやらここは、火事で倒産した後に本拠地を作るビルの設計を担当している部署らしい。

 俺とカナレはその部屋を出て次の部屋に向かう。だが、そこも普通の事務所で、特に変わった事はない。

 他の部屋も同様だった。

 そして、その下の階に行こうとした時だ。カナレが腕を引いてきた。

 俺とカナレは通って来た階段を上って屋上に出る。

「カナレ、どうした?」

「あの下の階には人が居ました。しかも、何か呪文のようなものを唱えていました」

「そこで何か行われているようだな」

「ええ、集団催眠にでも、かけているのかもしれません」


 カナレは猫の姿になって、俺はその背に乗る。

 カナレは姿を消して、下の方に行き、壁に鉄爪で張り付く。

 俺はカナレと一体になっているので、カナレの耳を通して、中の話声が聞こえるが、ほんとに呪文のようだ。

 その人々を指導している声は、女性の声がする。

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