第26話 どこでもドア

「では、聞きに行きましょう」

 そう言うと、カナレは再び猫の姿になった。

 俺はカナレの背中に乗ると、カナレの体毛が俺に絡んできて、カナレの身体に固定される。

 それを確認したカナレは、今度は都庁の壁を下り出した。

 登る時は上を見ていれば良かったので、それほど怖くなかったが、下に向かうのは、まるで落ちているようで、とっても怖い。

 だが、カナレはそれが当然というように凄まじい勢いで降りている。いや、落ちていると言った方が適切かもしれない。

 地面に激突すると思った瞬間、カナレが横に飛んで、今度はビルの上を駆けて行く。

 都庁に比べれば低いが、それでも10階建てのビルの上をピョンピョン跳ねて行くのは、別の意味で怖い。

 俺が恐怖に駆られているいると、目的のビルの屋上に着いた。

 カナレが人の姿になる。

「ここからでは、良く聞こえないな」

「いえ、人の話し声が聞こえます。私が聞いて伝えます」

 カナレが耳を澄ますようにしたが、直ぐに止めた。

「すいません、気付かれたようです。直ちに撤退しましょう」

 カナレが猫の姿になった途端、屋上に繋がる階段の扉を開けて、拳銃を持った男たちが出て来た。

 俺は慌てて、カナレに飛び乗ると同時にカナレの体毛で、カナレに固定された。

「パンパン」

 男たちが撃って来たきたが、俺とカナレに弾は当たっているのだが、痛くもなんともない。もちろん、身体に傷もつかない。

 これはカナレの能力の防御の効果があるからだろう。


 カナレはビルの屋上から駆け出した。男たちは、それ以上は追って来れない。

 家に戻るとカナレと話をする。

「狐は俺とカナレに気が付いたという事か?」

「そうでしょう。狐も聴力が優れているでしょうから、私たちが来たのも察知していたとしても不思議ではありません」

「相手も俺とカナレの居所は掴んでいるだろう。するといつまでもここに居るのはまずいかもしれない」

「そうですね。だけど、襲って来るでしょうか?」

「どういう事だ?」

「襲ってくると警察とかが当然出てきます。そうすると、財団にも捜査が入りますので、結局は狐の方が不利益となります」

「なるほど、だがテロのように爆弾を仕掛けられるとかあるかもしれない。実際、放火とかがあったし」

「では、ご主人さま、キスをして下さい」

「はっ、なんでこんな時に…」

「それで新しい能力を得ます。それでどうにかします」

 俺は、カナレにキスをした。

 最近は、カナレとのキスも大分慣れて来た。

「ご主人さま、それでは、今からこの部屋を空間の狭間に避難させます」

 カナレはそう言うと、能力を使ったようで、窓の外の空間が歪みだした。

「カナレ、これはこの前、狐が使った能力と同じか?」

「同じですが、私だけの空間になりますので、狐は入って来れません。

 それと、この空間は絶対安全ですし、時間も過ぎません」

「それは歳を取らないと言う事か?」

「そういう事になります」

 ええっー、ここに居るといつまでも、今のままか。俺はオヤジにならないのか。

「それで、ここから出るにはどうすればいい?」

「普通にドアを出れば、元の世界に戻ります。反対に入ってくれば、この世界に入れます」

「ちょっと試してみる」

 俺は玄関のドアを開けて外に出てみるが、そこはいつものアパートの外だ。

 今度は、ドアを開けて中に入るといつもの部屋だが、窓の外の景色が歪んでいる。

「なるほど、理解できた。だけど、ここから外が見れないのはデメリットだな」

「では、カメラを付けましょう」

「へっ、カメラ?そんな能力もあるのか?」

「ホホホ、カメラといっても能力を使うだけです」

 するとTVにアパートの外の景色が映った。

 すると、ちょっと先に車が止まっているのが映し出された。

「カナレ、あの車、どう思う」

「早速、監視を付けてきましたね。では、もうひとつ出口を作りましょう」

 カナレは押入れから布団を全て出すと、その押入れに向かって手を出した。

 今度は押入れの中の空間が歪む。

「これで大丈夫です。何かあれば、こっち側に逃げて下さい」

 俺がその空間に入ると、バイト先のロッカーの中に出た。ちょっときつい。

 そのロッカーの扉を開けて外に出ると、見慣れたレストランの控室だった。

 今は店長も帰宅したのか、店には誰も居ない。

 俺が控室に居ると、カナレも来た。

「カナレ、ここは店の控室だ」

「ええ、ここに繋がっています。だけど、秘密にするために、いざという時以外、この通路は使わない方がいいと思います」

 頻繁に使うと相手に気付かれてしまうし、店長なんかも不思議に思うだろう。

「そうだな、緊急時以外は使わないようにしよう」

 俺とカナレは自分たちの部屋に戻った。

 だが、これって、未来から来た猫型ロボットのアニメに出て来るタイムマシーンみたいなものではないか。いや、ドアの方だろうか。


「もし、敵が押し入って来たら、どうなる?」

「私たちは別空間に居るので、敵にはもぬけの殻に成ります」

「それは店のロッカーも同じか?」

「そうです。他の人がロッカーを使っても普通のロッカーです」

 カナレとキスする事で、こんな能力が備わってきたのか。

「あと、ご主人さまにも防御の能力をかけます」

「そんな事も出来るのか」

「ええ、成人になってきたので、いろいろ使える能力も増えてきましたし」

 猫でも成人って言うのだろうか?

 たけど、カナレは俺の所に来てからそろそろ1年だ。この1年でカナレはとっても大人になったと思う。

 そして、色っぽくもなった。

 それは俺だけでなく、店長や香苗さん、そして美佐江さんもそう言っている。

 カナレは最初の頃は化粧もしていなかったが、最近は香苗さんや美佐江さんから化粧のやり方を教わって、化粧をするようになったので、店に出ている姿は本当に煌めている。

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