第25話 カナレの能力

 最近、カナレがちょっと色っぽくなってきた。

 それをカナレに言うと、

「ご主人さまのキスのおかげで大人になりました」

 なんて、言っているが本当だろうか。

 背もわずかに伸びている。思うに、俺が公園で見た時はまだ子猫だったので、それが大人の猫になってきただけではないだろうか。

 それをカナレに言うと、

「えーと、そうかもしれません」

 なんて、答えている。

 ここに来た時はまだ幼かったのが、今では幼さが完全に抜けている。


 しかし、それによって、カナレの勤めるところが大変な事になってきた。

 美佐江さんのケーキ屋では、いままでは女性客が多かったのが、最近は若い男性客が多くなったということだ。

 そして、ケーキ屋が終わった後に俺がバイトをしているレストランでも、カナレは短時間ながら、ウェートレスのバイトをしているので、そこでも客が増えている。

 店長なんかは、

「カナレちゃんが来てくれるようになってからら、店が繁盛するよ」

 なんて言って、まったく呑気なもんだ。


 そんな、日常を過ごしていた時だ。店長から火災があった工場の事を聞いた。

「一くん、あの工場だが、倒産して他の人の手に渡ったようだ」

「損害賠償だけでも凄い額になるでしょうから、倒産は仕方ないですね」

「それでだな、その金額が4億円らしい。現金輸送車から奪われた金額も4億円だったろう、なんだか、変に思わないか?」

 たしかに、現金輸送車から奪われた金額も4億円だった。それが、そのまま工場を買い取ったとなったら、辻褄が合う。

「その買い取った会社は何という会社ですか?」

「ああ、平和財団という財団だ」

「財団ですか?財団にそんなお金があるとは思えないです」

「だから、その現金輸送車疑惑なんだ。それにその財団は表向きは世界平和に貢献すると謳ってはいるが、裏では宗教団体、ヤミ金融、投資会社を持っているらしい」

「何だか、余り良い財団とは言えないみたいですね」

 俺はスマホを取り出して、財団を調べると、出るわ出るわ、良からぬ事がずらっと出て来た。

 しかし、財団のホームページらしき物は見当たらない。

「店長、財団のホームページが見当たらないんですが…」

「今時、ホームページを持ってないらしい。それはどうも会長の意向らしいぞ」

 今時ホームページが無い財団なんて、いかにも怪しい。

 ホームページが無いと、会長の顔とか分からない。


 それでも、何人かが書き込んだSNSとかで、いくつかの情報は得る事が出来た。

 それによると、財団設立はかなり前からあったようだが、会長が代わってから、異状に力をつけてきたらしい。

 それと同時に、裏の仕事も増えて、金回りが良くなったみたいだ。

 その会長が代わったのはそんなに昔の事ではなく、つい最近の事だと言う。

 あの狐がその会長に取り憑いたあたりと考えても良さそうだ。

 財団の本部は都内にあったが、そこを売り払って、購入した工場の跡地に70階建てのビルを建て、貸しビルと本部にするらしい。


 バイトが終わってアパートに帰ると、早速カナレとその話をする。

「俺とカナレを襲って来たのはその平和財団というところの会長だろう。いや、会長に取り憑いた狐だろう」

「その財団の現在の本部は分かっているんですか?」

「ああ、どうやら新宿にある10階建てのビルの最上階らしい」

「では、そこに行ってみます」

「今からか?」

 今は午後10時だ。今から行くとなると夜中になる。

「はい、今から行ってみます。このまま指を咥えていると、また襲ってくるかもしれません。今度はこっちから行ってみます。先手必勝です」

「カナレが行くなら俺も行く。カナレ一人を危険な目に合わせる訳には行かない」

「それでは、二人で行きましょう。ご主人さま、私の背に乗って下さい」

 俺はアパートから出て、裏路地の人気のない所で猫になったカナレの背に乗った。

 カナレは背中の俺を見る。恐らく、「行くぞ」と言っているのだろう。

 俺は首を縦に振ると、カナレは家の屋根に飛び乗り、華麗に屋根を飛び越えて行く。

 俺はカナレの背中にしがみついているが、その背中から見る風景はあっという間に後ろへ流れて行く。

 新宿が見えてきたが、この街は夜でも明るい、このままだとカナレの姿が見つかってしまう。

「カナレ、このままだと、カナレの姿が人に見られてしまう。どこかに降りてあとは歩いていくか?」

 カナレには聞こえたハズだが、カナレはそのまま屋根を駆けて行く。

 だが、しばらくすると、カナレの姿が見えなくなっている。

「え、えっ」

 驚いていると、俺の手足も消えているが、感覚はある。

 しかし、そのうち、俺の姿も完全に消えた。


 カナレは新宿のビル街に来ると、平和財団のビルを確認するため、都庁の壁を登り始めた。

 身につけた能力である跳力と鉄爪で、ビルの側面を登って行くのは俺としては、とっても怖い。


 都庁の屋上に出て、下を見ると先の方に10階建てのビルがある。

 都庁の屋上から見るので、そのビルはけっして高くはないが、電気は煌々と点いていて、たくさんの人が居ると思われる。

 カナレは人の姿になった。猫のままだと、話せないからだ。

「ご主人さま、あの最上階にこの前の男が居ます」

 俺も見てみるが、あまりにも遠く、良く分からない。

「俺には見えないが…」

「私は夜目が効きますし、遠くを見る能力もありますので、良く見えます」

「それで、狐はどうしている」

「はやり会長のようで、部下に何か指示しています」

「こんな夜にか?」

「ええ、もしかしたら操っているのかもしれません」

「もしかしたら、またどこかから金を調達する算段でもしているかもしれないな。ビルを建てるとなると金が必要だからな」

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