第22話 パワーアップ

 カナレがホールに出ると、たしかに客足が良いような気がする。

 最近、お客の入りがあまり思わしくなかったように感じていたが、それが今日はほぼ満席になった。

 正直、客が少なく、カナレが来ても手持ちぶたさかなと思っていたのが、嬉しい誤算だ。

 店長も今日はなんだか張り切って調理をしている。


「「お疲れさまでした」」

 店のバイトが終わった俺とカナレは、店の裏口から帰宅のために外に出た。

 カナレと二人、アパートに向かって歩く。

 そして、いつもの公園を通るが、ついこの間まで、避難所として使われていた公園も今はその痕跡は無い。

 二人で並んで歩いていると、カナレが手を握ってきた。

「どうした?」

「手を繋いでもいいですか?」

 もう手を繋いでいるのに、後から聞くなんて変なやつだ。

「ああ、いいけど…」

「フフフ、一度はご主人さまと手を繋いでみたかったんです。前にケーキ屋さんにきたカップルが手を繋いでいて、とっても幸せそうだったので、私も手を繋げば幸せになれるのかなって思って」

「それで、カナレは幸せになったのか?」

「はい、幸せです」

「安い、幸せだな」

「えー、いいじゃないですか、お金がかからなくて」

「まあ、そうだな」

「ご主人さまは幸せですか?」

「ああ、幸せだよ。カナレと一緒に居るのは幸せだ」

 カナレが居る事が小さな幸せである事には間違いない。

「ほんとに?嬉しい」


 そんな話をしていると、前から男性が歩いて来たが、いきなり包丁を取り出すと、こっちに向かって突っ込んで来た。

「カナレ、危ない」

 よそ見していたカナレを突き飛ばす。どうやらカナレは無事なようだが、俺は右腕を切られ、血が流れ落ちている。

 右腕に力が入らない。

 男はまた包丁を振りかざし、切りかかって来るが、今度はカナレがそれに反応した。

 回し蹴りで男の包丁を叩き落とし、今度は反対の足で、男の鳩尾に1発入れた。

 よろめく男の顔面に更に回った脚で、1発入る。

 それでノックアウトだ。男は地面に横たわった。


「カナレ、大丈夫か?今、警察に電話するから」

「ちょっと待って下さい。まずは、ご主人さまの治療をしないと…」

 そう言うと、カナレは怪我をしている俺の右腕を舐めだした。

 すると傷が徐々に塞がっていき、最後には血も止まり、元に戻った。

「カナレにはこんな能力もあるのか?」

「猫は身体が怪我をすると舐めて治します。私の唾液には治療効果があります。

 それと、ご主人さまの血を頂きましたので、私はこれで能力が一つ使えるようになりました」

 何だって、俺の血でカナレはパワーアップ出来るという事か。

「それはどういう事だ?」

「ご主人さまから命に係わるものを貰えると、それを力に使える能力が増えるのです」

「今のでどんな能力が使えるようになったんだ?」

「防御能力です」

 防御能力、それはバリアみたいなものだろうか?


 俺がそんな事を思っているとカナレが言って来た。

「それでは、ご主人さま、警察に連絡して下さい。

 私は猫になって遠くから見ていますから、ここはご主人さまが倒したことにして下さい」

「何でだ?カナレが倒したんだから、それでいいんじゃないか?」

「警察が来て、私の事を調べられると、妹がいない事がバレてしまいます。

 それは都合が悪いと思います」


「なるほど、それもそうだな。では、カナレは猫になってくれるか」

 カナレは公園の人目の付きにくい所で猫になった。

 俺は、携帯電話で警察に電話をすると、ものの10分程で警官が駆けつけてくれた。


「それで、この男ですか、いきなり襲って来たというのは?」

「ええ、そうです。それでは、お引渡しするので、後はお願いします」

「ああ、ちょっと待って。君は怪我はしていないのか。

 それと、これは立派な犯罪だから後から署の方で、いろいろ聞かせて欲しいと思っているんだが…」

「分かりました」

 駆けつけて来た警官と話をしていたら、パトカーが3台ほど駆けつけて来た。

 襲って来た男は既にもう一人の警官に拘束されており、駆け付けたパトカーに乗せられて行く。

 俺はその後、簡単に状況と住所を聞かれただけで、帰っても良いと言う事になった。

 後で、警察から連絡が入るという事だ。


 その翌日、早速俺の携帯に警察から電話が入ったので、最寄りの警察署に行く。

「石田くん、大学生という事ですね。それで状況だが、アルバイトの帰りに近道としているあの公園を通りかかったところ、いきなり襲われたということで良いかな?」

「はい、その通りです」

「それで、襲ってきた 男に心当たりは?」

「いえ、全然ありません。見た事もない人です」

「実はね、襲って来た男も何故自分が人を襲ったか、分からないと言っているんだよ。

 それと、その前の記憶がなくてね、記憶があるのは、就職のために面接に行ったところまでという事だ」

「そこの面接した会社が変ですね」

「我々もそう思って、その会社を探したんだが、実在していない会社だったんだ」

「それは変ですね。その人はどこで、その会社を知ったのでしょうか?」

「知人の紹介らしい。だが、その知人というのも、誰だか名前も思い出せないということだ」

「ますます、訳が分からないですね」

「そうなんだ。何故、君が襲われたのか、単なる通り魔なのか。今のままだと、通り魔という事にしかならないだろうな。

 君は人に恨みを買うような事は?」

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