第21話 火事の後
二日程したら、だいぶ沈静化してきた。
政府はヘリコプターを総動員して、ヘリコプターの巻き起こす風で、工場から出た有毒ガスを吹き飛ばした。
停電の方も、自殺した人間を変圧器から降ろして、変電所を復旧させた。
電気が復旧したことにより、水道が使えるようになり、生活に問題がなくなった。
道路も信号が復旧した事で、車の渋滞も解消され、電車も運行を再開した。
だが、火災を出した工場を非難する声は広がるばかりだ。
それもそのはずで、火災によって発生した有毒ガスで、30人ぐらいが亡くなったとの報道があったからだ。
工場側は謝罪会見を毎日のように開いていたが、それからしばらくして、火災の原因が放火とされた。
「カナレ、これもあの狐の仕業だろうか?」
「その可能性が高いと思います。どうしますか?狐に直接聞いてみますか?」
「うん、そうだな。あの神社に行って、宮司の女の人に問い質してみるか」
俺とカナレはアパートに戻って、そんな話をしている。
「では、早速、あの神社に行ってみませんか?」
俺とカナレは二人で、稲荷神社に行く。
「あのー、ここに居た女性の宮司さんは、いらっしゃいますでしょうか?」
「ああ、紗江さんですか?紗江さんは、亡くなりました」
「えっ、亡くなった!!」
「ええ、あの工場火災の日に」
「で、でも、この前会った時は、凄く健康そうでしたけど」
「こう言うのも何ですが、一応有毒ガスで死亡となっていますけど、実際は自殺だったんですよ。
有毒ガスを吸って、あまりの苦しさに思わず自殺した可能性が高いと言われています」
神社を後にした俺とカナレは、アパートに帰ってきた。
「カナレ、神社の話をどう思う?」
「有毒ガスを吸っての自殺はないと思います。恐らく他の人に憑くために不要になった身体を処分したと考えるべきでしょう」
「と、すると、今頃は他の人に憑いている可能性が高いか」
「でも、人に憑いてもその人が受け入れてくれないと、その人の身体を自由にできないので、その融合に多少の時間がかかります。
ですが、今は工場火災が発生してから既に1週間以上経過していますから、誰かの身体を乗っ取っていると考えた方がいいでしょう」
「そうすると、また憑いている人を探さないとだめか」
「そうですね」
そんな時にTVの報道で、防犯カメラの映像から放火犯人が「鈴木浩二」と報じられた。
鈴木浩二はカナレの念術で裸で街を歩いて、警察に連れて行かれた男だ。今回、変電所に忍び込んで感電自殺したらしい。
警察は一連の犯人を「鈴木浩二」と断定し、所属していた組事務所を家宅捜査したりとしているが、その動機は不明のままだ。
評論家なんかは、裸で街を歩いて、恥をかいたのが原因ではないとか言っているが、これはあの狐に操られたのに違いない。
そして、この事件は動機不明のまま、鈴木浩二が犯人という事で解決し、街は元のままの静けさを取り戻した。
それから1か月ほどした頃だった。俺がバイト先に行くと、ちょうどお客の途切れる時間があって、店長と香苗さんが話をしていた。
「あの火災があった工場ですけど、結局破産という事になりましたね」
「そうだな、損害賠償もかなりの額に上っているんだろう」
「土地を売って、損害賠償に充てるらしいですけど、それでも足りないって事らしいです」
「でも、放火なんだろう」
「放火した人が亡くなりましたし、元々ヤクザの人だから損害賠償なんて出来ないでしょうし」
「それを考えれば、全員が損をしている訳だ」
「そうですね。最近、お客さまも減ってますしね」
「そうなんだ。あれから外食する人も減っている。しばらくして、元に戻ればいいんだけど」
「他の街からは有毒ガスが発生した街って、風評被害も出ているみたいで、この街で作られた作物なんか売れないそうですよ。
レストランも、そこで作られた食材を使っていると、思われているんじゃないですか?」
「ええっ、そうなのか、うちはちゃんとした所から仕入れているぞ」
「だから、風評被害なんです」
「そうか、今までは他人事だと思っていたが、いざ自分がその身になると迷惑な話だな」
「おはようございます」
俺のバイトは夕方からなのだが、芸能界のように、朝の挨拶をしている。
「ああ、おはよう」
「あら、一くん、おはよう」
「着替えている時に聞こえてきたんですが、工場って無くなるんですか?」
「そうみたいよ」
「工場が無くなっても、風評被害で、この街にあまりいいイメージは持って貰えないだろうし、払拭するのにも何年ってかかるだろう」
「まだ、被害者も多いんですよね」
「うちの子が、あの煙を吸って、体調が悪くなって、今でも定期的に病院に通っているわ」
「香苗さんは大丈夫だったんですか?」
「うちって、工場に近かった所にあったから、最初の頃は酷くて、家族で入院していたんだけど、1週間位過ぎた頃には大分良くなってきたの。
だけど、子供だけはまだ通院中」
「損害賠償とか出るんですか?」
「一応、出るみたいだけど、それも雀の涙程度ね」
そんな話をしていたら、カナレが来た。
「カナレ、どうした?」
「ママさんのお店がまだオープンしてないから、家で待っているのも何だし、お兄ちゃんのお手伝いでもしようかなって」
「おっ、カナレちゃんが来てくれたら、なんだかお客さまも来る気がしてきた」
「店長、俺よりカナレの方が良いって事ですか?」
「あっ、いや、そんなつもりで言った訳じゃないんだ」
俺たちは店の裏で笑い合った。
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