第7話 放火
その日、俺はバイトが休みだったので、カナレのバイト先のケーキ屋に寄って、一緒に帰って来た。
いつものアパートへのショートカットする公園を通っていた時だ、俺とカナレの前に一人の男が立った。
この男は、この前までストーカーをしていた「佐藤」とかいう男だ。
「カナレさん、俺と付き合ってくれ」
「お断りします」
カナレはしっかりした口調で断った。
佐藤は、ナイフを取り出すと、
「お、俺と付き合え、こ、これが見えないのか」
「バカな真似はやめろ。そんな事をするヤツと付き合える訳ないだろう」
俺はカナレを守るように、佐藤とカナレの間に入っていく。
「う、うるさい、これは俺とカナレちゃんの問題だ。兄さんには関係ない」
「カナレは家族だ。関係ないということがあるか」
そう言うと、佐藤は俺に向かってナイフを突き出してきた。
その時、カナレが前に出て、佐藤のナイフを叩き落とした。
「何をするんです」
「く、くそー」
ナイフを叩き落とされた佐藤は殴りかかってきたが、カナレはそれをひょい、ひょいと躱して佐藤のボテーに一発入れた。
「ぼ、暴力を使ったな。訴えてやる」
最初に殴りかかった来たのはそっちなのに、なんと言う言い草だ。
「最初にナイフで脅してきたのはそっちじゃないか。警察とかに言ってもこっちは正当防衛だ」
佐藤は落としたナイフを拾うと、
「こっちだって、正当防衛だ」
もう、訳が分からない。何を言っているのだろう。
気が付くと、既に周りは静まり返っており、公園の中に人はいない。
「死ねー」
再び、佐藤がナイフを振りかざし、こっちに向かって来た。
カナレが佐藤のナイフを持った右手の手首を掴んで、締め上げた。
「い、痛い、は、離せ」
俺はここで、ブラフを装う。
「カナレは武術の使い手だ。お前なんて足元にも及ばないから潔く諦めるんだな」
カナレが手を放してやると、佐藤は悔しそうにしていたが、ナイフを掴んで去って行った。
「ふう、どうやら諦めたようだな。さて、帰るか」
「これで、諦めたでしょうか?」
「諦めてくれればいいが」
俺はカナレを連れて、アパートへ向かった。
寝ていると、消防車のサイレンの音で目が覚める。どこかで火事があったようだ。
朝、大学に行く途中にカナレのバイト先のケーキ屋さんの前を通ると、警察と消防が規制線を張っていた。
「あのー、どうかしましたか?」
俺は近くに居た、野次馬に聞いてみた。
「なんだか、放火らしいよ。裏に置いてあっった資材に火を点けられたらしい。
「えっ、放火ですか」
その時に俺の携帯が鳴った。
「もしもし、はい、一です」
「美佐江ですけど、お店が放火されちゃって、申し訳ないんですが、数日はお店を休みます。
カナレちゃんにも、そう言って貰えないですか」
「今、お店の前に居ますので、アパートに帰って、そう言ってきます」
「えっ、そうなの、ちょっと待ってて」
しばらくすると、美佐江さんが裏から出てきた。
「一くん、来ていたの?」
「ええ、大学に行く途中で、お店の前を通りかかったら、こうなっていたのでびっくりして。それで、怪我とかはなかっですか?」
「放火だったんだけど、発見が早かったので、ボヤ程度で済んだけど、それでも現場検証なんかで、2,3日は片付けも出来ないみたいで…。
片付けとかも考えたら、1週間位は閉店ね」
「そうですか、カナレにもそう言っておきます」
美佐江さんとそんな話をしていたら、カナレの方からやって来た。
「噂をすれば影というか、カナレいいタイミングで来たな。
美佐江さんのお店が放火されたようで、1週間位休みになるそうだ」
「そうなんですか、現場を見させて頂いてもいいですか?」
俺とカナレは美佐江さんに連れられて、放火現場の方に行く。
「ここがそうよ」
美佐江さんが指差した所はまだ規制線が張ってあって近くには寄れないが、規制線の外から見たところでは、外壁に黒く燃えた跡がある。
「酷いですね。でも燃えるような物は置いてなかったですよね」
「それが良かったみたいで、もし置いてあったらボヤ程度ですまなかったわ」
「犯人は灯油を撒いて、火を点けたみたいです」
「えっ、なんで分かるの?」
「えっと、灯油の臭いがしたので」
「え、私はしないわ」
「僕もしないです」
「えっと、私は鼻が利くので、それで灯油の臭いが分かりました」
「だとしたら、恨みがある人ですかね?」
「私のお店に恨みを持っている人なんて、思いつかないわ。恨みを買うような事をした覚えもないし」
俺も美佐江さんの店が恨みを買うとは思えない。これが放火だとすると別の目的があるんじゃないだろうか?
「何か別の目的があって、火を点けたのでしょうか?」
「別の目的って?」
「そこまでは、分からないですけど」
俺とカナレは美佐江さんの店を後にした。
「ご主人さま、お話があります。あの放火現場にあの佐藤という人の臭いが残っていました」
「何だって、それじゃあ、火を点けたのはあの佐藤って事か、何のために火を点けたんだ」
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