第6話 ストーカー
アパートに帰ってきて、落ち着いたら、今日の事をカナレに聞いてみる。
「俺が出ていくときに入って来た男の人だけど、男の人が一人で来るなんて珍しいな」
「ああ、あの人は毎日来てくれて、一個だけ買って行くんです。
甘党かなと思っているんだけど、私が接客しないと機嫌が悪いみたいで、何だかあまり好きじゃない」
「ふーん、なんか変なやつだな」
その時はそれで終わったが、数日経った時にカナレがその男性の事を言ってきた。
「あの男の人、仕事が終わった後の私の後を付けて来るんです。
アパートまで来られるのも困るので、ママさんに言って、裏口から帰らせて貰ったんですけど、それもいつまでうまく行くか、分からないです」
「良く後ろを付けて来るのが分かったな」
「猫は嗅覚と聴覚は人より優れているので、人の匂いとかで分かります。
それで、帰る時に後ろをつけてきたのが分かったので、一旦お店に戻ってから裏口から出たんです」
最近、カナレは美佐江さんの事を「ママさん」と言うようになった。
「美佐江さんは何と言ってる?」
「お客さまだし、あまり事を大げさにしたくないけど、もし変な人だったら、警察に言おうって」
小さな店だと、それぐらいしか対応がないだろう。
数日が経過した日、またカナレが言ってきた。
「今日、手紙を渡されました。電話番号を教えてくれって」
「カナレって携帯持ってないだろう」
「ええ、それで私は携帯持ってませんって言ったんです。だけど、今時、携帯を持ってないって信じて貰えなくて、しつこく聞かれたんですけど、その時はママさんが仲に入ってくれて納まったんです」
翌朝、俺が大学へ行くため、アパートから出て道路に出た時に、前に男が立ち塞がった。
たしかこの男は、カナレのバイト先にケーキを買いに来るという男だ。
「聞きたい事がある。お前はカナレちゃんの何だ?」
「いきなり失礼なやつだな。俺がカナレの何だろうが、あんたには関係のない事だろう」
「いや、関係がある。俺はカナレちゃんの彼氏だ」
「は?何、言ってる。カナレは最近、田舎から出てきたばかりだ。彼氏なんている訳がない」
「どうして、田舎から出て来た事を知っている?」
「それは、兄だからだ」
「えっ、兄さん」
「なんだ、何か問題でも」
「い、いや」
「それで、カナレの彼氏ということだが…」
「えっ、あっ、失礼した」
男はそう言うと、去って行った。
とうとう、アパートも知られてしまった。カナレに何か問題が起こらなければいいが…。
その夜、カナレに今朝あった事を話した。
「その人、今日も来ました。あの人、毎日、しかも開店からずっーと店の中を見ているんです。仕事とか何をしているんでしょう」
「うーん、あまりしつこいようだと本当に警察に届ける事も考えるか」
「今も、外からこちらを見ています」
「そんな事も分かるのか?」
「ええ、猫は聴覚と嗅覚は優れていますから」
「こちらだけ、名前と家を知られるのは不公平だな。ヤツの名前と家ぐらい分かればいいが…」
「調べましょうか?」
「どうやって?」
「猫になって調べてきます」
「出来るのか?」
「はい、出来ますよ。あっ、彼が動き出しました。どうやら帰るようです」
「じゃ、ちょっとお願いするか」
「えっと、私の服はありますか?」
俺は最初にカナレと会った時に来ていた白い服を出してやると、カナレはその服に着替えた。
「その服は何か特殊な服なのか?」
「ええ、この服は身体能力を最大に出来る特殊な服なんです」
カナレが猫の姿になると、服もそれに合わせて小さくなっていき、最後には身体に纏わりついて、猫の姿のカナレと一緒になった。
俺が、玄関のドアを開けると猫の姿のカナレは外に出て行った。
1時間ほど経過しただろうか。ドアの方からガサガサと擦るような音がする。
俺は、玄関のドアを開けると猫の姿のカナレが入ってきた。
カナレは居間に来ると、人間の姿に戻った。
「分かりました。大通りを通った先の住宅街にある『佐藤』という家の息子みたいです。
どうもこの前まで、引き籠りみたいだったらしく、家の人たちも困っているようです」
「もし、明日の朝も居るようなら名前を言って、びっくりさせてやるか」
「それだと、こっちがストーカーしたみたいになってしまいます」
「うーん、それもそうだな。だけど、困ったな。どうしようか」
「今は見られているだけなので、取り敢えずこのままにしておきましょう」
翌日、バイト先から帰ってきたカナレが俺に言って来た。
「今日、例の佐藤って方から付き合ってくれと言われました。
だけど、私はあの人は好きじゃないので、断ったらなんだか怒っちゃって…」
「それで、何かしてきたのか?」
「いえ、今のところは、今日は跡をつけて来る事もなかったですし」
ストーカーはどうやら、カナレに振られた事で、一段落したようだ。
俺とカナレの生活も普段の生活に戻って、俺は大学とバイト、カナレはケーキ屋でのバイトで、日々が過ぎて行く。
ケーキ屋の美佐江さんもストーカーの件が落ち着いたので、一安心したと言ってくれた。
だが、毎日1個は確実に売れていたケーキが、売れなくなったのは仕方ない事だろう。
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