第4話 ふたり暮らし

 翌朝、目が覚めると、既にカナレは起きていて、布団の中からこっちを見ている。

「おはよう、眠れなかったか?」

「いえ、そんな事はありません。ご主人さまが起きたので、私も起きました」

「ああ、そうなんだ。では、顔を洗って、食事にするか」


 敷いた布団を片付けて、横にどけてあった、ちゃぶ台を持って来た。

 俺はいつものパンと目玉焼き、それとサラダにするが、カナレは何がいいんだろう。

 既にソーセージはない。

「カナレ、パンと目玉焼きでもいいか?」

「はい、いいです。でも、パンは焼かないで下さい」

 俺はカナレ用のパンにバターだけ塗って出してやった。


「この後だけど、俺は大学に行くけど、カナレはどうする?」

「このまま、ご主人さまに養って頂く訳にもいきません。私もアルバイトをして、お金を稼ぎたいと思います」

「お金は使った事がないのだろう」

「使った事はありませんが、そういう基本的な知識は女神さまから貰っているので、お金の重要性は分かります。

 人間社会での基礎的な知識は習得済です」

「でも、どこで働く?忙しいところなら『猫の手も借りたい』ってところが、あるだろうけど」

「私の手で良ければ、お貸しします」

「いや、そういう諺だから…」


「ところで、服は乾いただろうか?」

 部屋の中に干してある、カナレの服を触ってみたが、見事に乾いていた。

「昨日の夜に洗濯したばかりなのに、もう乾いているぞ」

「その服は、私の毛から作られているんです。なので、その服は汚れても簡単に汚れが落ちますし、水に濡れても乾くのが早いです」

「へー、なんだか、マジックアイテムみたいだな」

 太陽の下で見ると、真っ白のフリフリスカートでワンピースのようになっている。


「でも、この服の下に下着は穿いてないんだよな?」

「ええ、女神さまからの知識にも下着ってなかったです。もしかしたら、女神さまも下着って、穿いてないのかも」

 俺もそのノーパン女神を見てみたいもんだ。

 カナレの話を聞くと、駄女神の感じを受けるが…。

「今日は大学が早く終わるので、一旦ここに戻ってくる。そしたら、必要な物を買いに行こう。

 だけど、夜はバイトがあるので、また出かける。

 そうだ、カナレって字は読めるのか」

「はい、そこは女神さまが、ちゃんと知識を下さったので、こちらの18歳程度のレベルはあります」

 どうも、カナレの話に出てくる女神さまは、やる事が完璧なのか、手落ちなのか良く分からん。

 俺は、カナレに部屋から出ないように言い残すと、大学に向かった。


 3時過ぎにアパートの部屋に戻ると、カナレは窓から差し込むお日さまの所で猫の姿で丸まって寝ていた。

 こういう姿は猫そのものだ。

「カナレ、起きろ、買い物に行くぞ」

「ニャー」

 カナレは起きると、人間の姿になった。

 俺は帰りの途中にあるATMで、3万円ほど引き出してきた。

 カナレと二人、国道沿いにある服の量販店に行く。ここは、下着から服まで全て揃うし、しかもお値打ちなので、とっても便利だ。

 カナレと二人、下着や洋服を購入していく。


 レジに持って行くと、2万円ぐらいになった。

 早速、家に帰って、カナレに下着を着けさせ、服も着させてみる。

「まあ、どうにかサマになってきたな」

 カナレは自分の姿を見て、ちょっと驚いている。

「それじゃ、俺はバイトに行って来るから、ちゃんと大人しくしているんだぞ」

「私もバイト先を見つけたいと思います」

「えっ、出来るのか?」

「はい、そこの所の知識は大丈夫です」

「鍵の扱い方とか分かるか?」

「はい、分かります。人間世界で生きていくには必要な知識ですから」

「それじゃ、このスペアキーを預けるが、無くすなよ」

「はい、分かりました」

 カナレは俺から鍵を受け取った。


 二人で部屋を出る時に、カナレに鍵を掛けさせると問題なく、鍵を掛ける事が出来たので、あながち、駄女神さまの与えた知識全てに問題がある訳でもなさそうだ。

 二人で近道となる公園を通って、大通りをしばらく歩るくと、俺のバイト先に来た。

「それじゃ、俺はここでバイトがあるので、後は任せるからな。夕食は俺が帰ってからでいいか?」

「はい、それでいいです。それでは、お仕事、頑張って下さい」

 俺はバイト先の店の前で、カナレと別れた。


「石田君、店の外で可愛い女の子と一緒だったけど、彼女か?」

 店のマスターが聞いてきた。

 大学生だし、女の子と一緒だとそう思われるのも仕方がない。

「いえ、田舎から上京したきた妹です。今度、こっちの専門学校に通う事になったのですけど、一人暮らしだと、家賃もかかるし、女の子だと心配だと両親も言うもんですから、俺のアパートで面倒を見る事になったんですよ」

「そうなのか、石田君の妹さんにしては可愛いじゃないか」

「マスター、それはどう受け取ればいいですか?」

「ははは、悪気はなかったんだ。勘弁してくれよ。だけど、一人で大丈夫か?」

「バイト先を見つけるって言ってましたから、しばらくしたらアパートに戻るでしょう」

「バイト先か、そう言えば、ケーキ屋の美佐ちゃんが人手が欲しいって言ってたな」

 ケーキ屋の美佐ちゃんとは、この店にデザートを納入してくれている近所のケーキ屋の美佐江さんだ。

 家族でケーキ屋さんを営んでいるけど、お義母さんが入院したので、人手が欲しいのだろう。

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