第3話 お風呂

「風呂、入ってないのか?」

「ええ、嫌いなので」

「もしかして、ノミとかシラミとか居るんじゃないだうな」

「私を汚ギャルみたいに言わないで下さい」

 俺はジト目でカナレを見た。

「風呂に入る事。さっき、俺の言う事は聴くって言ったよね。嫌なら出ていって貰うだけだ」

「わ、分かりました。お風呂に入ります。でも、お風呂に入った事がないので、入り方が分からないんです」

 ええっー、俺がこの子をお風呂に入れてやらないといけないの?

 いや、それって、もしかしてラッキーかも。

「よし、俺が風呂に入れてやる」


 風呂を沸かし、脱衣場で服を脱ぐ。

 カナレの服は今着ている物しかなかったので、取り敢えず、俺の短パンとTシャツを出してやった。

 カナレの服は洗濯することにする。

 カナレが服を全部脱いだが、その身体を見た俺はびっくりした。

「カ、カナレ、乳房が8つある」

「えっ、人間は8つじゃないんですか?」

「人間は左右に1つずつの2つだ。ほら、こんな風に…」

 俺は自分の胸を指差した。

「えー、あの駄女神、完全に人間になってないじゃん」

 カナレの胸からお腹に掛けて左右4つずつ乳首が並んでおり、人間として見るとそれは異状な光景だ。

 期待していた俺の心は、それを見て萎えてきた。


 しかし、そんな事を今更考えても仕方ない。俺とカナレは二人で風呂に入って、カナレの頭と身体を洗い出した。

 カナレは目を閉じて、俺からされるままになっている。

 シャワーで、泡を洗い流すと浴槽に入れたが、カナレの顔はあまり満足している顔ではない。

 それでもどうにか髪や身体を洗って、濡れた身体を拭いてやる。

 脱衣場で俺の短パンとTシャツを着せて、髪をドライヤーで乾かしてやる。


「ご主人さま、この暖かい風が出るのはいいです。身体も乾かして下さい」

「これはドライヤーといって、髪を乾かす物だ。身体を乾かす物じゃない」

 俺はそう言ったが、カナレは身体を小さくして猫の姿になった。

「ニャーニャー」

 どうも猫の姿になると、人の言葉は話せないみたいだ。

 カナレは猫の姿で、ドライヤーの風の所に来るので、俺はしょうがないと思いつつもカナレの身体を乾かした。

 だが、身体が小さくなったので、短パン、Tシャツから出てしまった。

「おい、身体は乾いたから人の姿になってくれ」

 俺がそう言うと、カナレは人の姿になった。

「ほら、早く服を着ろよ」

 短パンとTシャツを手渡すと、カナレはそれを身に着けた。


 風呂の残り湯で、洗濯機を回す。夜も更けているが、都会人は時間がない。

 他の部屋の人も洗濯する人も居るので、構わずに洗濯機を回した。

「ピーピー」

「洗濯が終わったみたいだな」

 俺は洗濯機の所に行って、洗濯槽の中に入っている服を取り出す。

「カナレ、下着は洗濯しなかったのか?」

「下着って何ですか?」

 えっ、下着を着けていない。

「いや、パンツとかブラとかだよ。そういう知識も女神さまから貰ったんじゃないのか?」

「いえ、貰ってないです。女神さまも全て、教える事はできないので、後はご主人さまから教えて貰えって」

 俺は開いた口が塞がらない。

 ほんとに駄女神じゃん。


「分かったよ。明日、必要な物を買いに行こう」

 俺は洗ったカナレの服を部屋の壁のハンガーに掛けた。

「カナレは布団でいいか」

「えっと、猫の姿になれば、湯たんぽの代わりも出来ますが…」

 この時期、まだ冬ではない。なので、湯たんぽなんていらない。

「まだ、寒くないから、湯たんぽは要らないな」

「えー、そんな酷いです。私はご主人さまの役に立ちたいと思っていたのに」

「いや、それ以外で役に立ってくれ。それでは布団を敷くからな」

 ちゃぶ台を片付け、布団を2組敷く。

「それじゃ、おやすみ」

 俺は部屋の電気を消した。


「ゴソゴソ、ゴソゴソ」

 寝入ったと思ったが、目が覚めた。

 カナレの方を見ると、布団の山が動いている。

「カナレ、何をやっている」

「えっと、なんだか眠れなくて…」

 そう言えば、猫って夜行性だったんじゃないか?

「昼間にお陽さまの下で、昼寝したんじゃないだろうな」

「丁度、ポカポカしてて、眠くなったので、つい…」

「分かった、起きててもいいが、俺を起こさないでくれないか。明日も大学とバイトがあるんだ」

「分かりました、ご主人さま」

 カナレはそう言ったが、その後もゴソゴソしていた。

 しかし、ゴソゴソする音は静かな部屋に響くので、寝ているとかなり耳障りだ。

「カナレ、ちょっと静かにしてくれないか。カナレが動くと眠れないんだ」

「すいません。なんだか寝付けなくて。そうすると、身体を動かしていないと落ち着かないんです。

 でも、大人しくします」

 カナレはそれ以降、大人しくしたようで、音はしなくなった。

 しばらくすると、俺は連日の疲れもあって、眠りに引き込まれていった。

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