第2話

 このゲームは故郷の村から始まる。

 年に一度、成人の儀式として、十五歳になった子供たちは街へ行く。正確には、街の中心にある城への旅となる。そこで成人になったことを王様に報告。無事に村に帰ると成人祝いを兼ねた年一回の村祭りが行われる。

 というのが序盤に説明されるストーリーだ。


 いくら成人の儀式とは言え、モンスターのいる村の外に子供だけで出すなよ、とか。成人の報告なんて街の役人で十分じゃねーの、王様に直接報告って王様暇すぎるだろ、とか。いろいろと言われてはいるが。

 村でストーリーを説明されたからと言って、その通りに進まないのがRPGのお約束。


 序盤のイベントはこうだ。

 同い年で村の幼馴染のフィーナと二人、モンスターと戦いながら城まで辿り着く。王様との謁見を待っている時に、王城は魔物に襲撃される。戦う兵士達に協力し魔物との戦闘の中、フィーナが強力な魔法を使ったことでなんとか魔物を撃退。

 しかし、そのことで魔物たちにフィーナが王女だと誤解されてしまい。というのが後々のフィーナが浚われる発端となるのだが、今はそこまでの展開は必要ない。


 魔物を撃退するイベントの最中、ここにバグ発生のポイントがあるらしい。


 魔物との戦闘イベントのため、街に辿り着いてもすぐには城に向かわず、街の宿で回復しながら手に入る中で一番強い武具を買い、レベルを飽きるほど上げる。それが序盤のセオリーだ。

 今回も武具を揃え、レベルを上げてはラストダンジョン対策に素早さにガン振りをして備えた。ブラウザで情報も再確認したし、あとは城でイベントを発生させたらバグの再現を目指す。


 入っていた宿の部屋から出ると、そこはもう宿のカウンターになっている。

 客室が一つとカウンターしかない宿屋。

 RPGには有りがちな間取りだが、他の宿泊客なんて存在しないのでこれで十分なのだろう。カウンターに立つ宿のお姉さんはいつもニコニコ、二十四時間フルタイムで受け付けをしてくれる。


 服は麻っぽく、胸元は大胆なVカットを紐で止めており、そのまま谷間が鑑賞出来る素敵仕様だ。布は少しごわごわしているが、胸元を止めている紐を解けばあら不思議、やわらかい双丘を直触りで堪能出来てしまう。

 宿の受付という、セリフも1つしかないモブキャラで、衣装も一つしかない。それなのに、紐が解ける。これは素晴らしい作り込みだと言わざるを得ない。

 しかし、こんなゴワゴワした服なのに下着も付けていないとは、擦れてしまわないかとても心配で仕方がない。


 宿のお姉さんの肌の無事を確認したら、城へと移動を開始する。

 宿の部屋と違い、フィーナは俺の後ろをついて歩いてくる。


 街中には何人ものNPCが歩いている。ほとんどは街の住人らしく、宿のお姉さんと同じように少しごわごわしてる服を着ている。皆、胸元は紐とじだ。男女比は半々くらいだろうか。たまに旅人っぽい人が鎧を着て歩いている。


 城へと続く通りには、武器屋と道具屋が仲良く並んでたり、向かい側にはパン屋があったりとお店が続いている。すでに必要なものは全て購入済みなので、寄る必要はない。道具屋のお姉さんにはちょっと惹かれる。武器屋のおっさんや、パン屋のおばちゃんには用がない。多分ね。


 城への入口には、左右に兵が控えている。

 城門、というには小さいが、それでも人が3人は並んで通れる門。

 アポなしで村から出て来たばかりの平民が通れる、というのも難癖をつけてみたいユーザーに取っては定番の話題だ。


 一応、門番の兵に話し掛けると、よく来た、城の奥の文官と話せ、的な会話を返してくれる。俺は分かってるから、わざわざ話しかけたりはしない、挨拶代わりにブレストプレートをコンコンと叩くだけだ。

 この女性兵士の鎧も実は外せたりする。留め金が別のパーツの影にあったりと、とても面倒臭いので今は外さないけどね。


 ちなみに、鎧を脱がせても、城の襲撃イベントの際にはちゃんと着ている。襲撃中は、城の中に壊れたオブジェクトや、炎のオブジェクトもあるし、普段の城マップと、襲撃中の城マップは全然別のマップなのだろう。

 兵士も同じモデルを使ってるだけの別キャラになってるんだと思う。


 最も、街の出入りなんかのマップ移動でもリセットされるので、今脱がしても襲撃イベント後にはちゃんと着ているし、脱がした鎧を持ち歩いても、持ち物としてカウントされない。襲撃イベント開始でなくなってしまう。

 序盤で金属鎧が手に入るかも、と思ってがんばって全部脱がせてみたんだが、残念だ。ああ、女兵士は黒のブラジャーをしていたので、NPC全員が下着をつけていないわけではない、ということを付け加えておこう。


 城は西洋的と言っていいのだろうか。石造りのアーチが通路の上部を形作り、足元には絨毯が敷かれている。白を基調とした石造りの視界に、暗い赤の絨毯がいろを添えている。


 玄関ホールから見えるのは、正面の通路と、左右にある開かれたままのドア。

 中の人が落ち着かないんじゃないかと思うくらいに、表開きの扉は開け放たれている。右側の部屋の奥には机や椅子が、左側の部屋には武器や防具が並べられている。


 右側の部屋に入れば、文官が話しかけてきて控室へ通される。

 文官と話さずに廊下を進もうとすると、フィーナが話掛けてきて奥に行くのを止めようとする。それを無視して進んでも、廊下の突き当りにあるドアは兵士が守っていて開かない。

 初めて来たときには、いろいろと歩き回ったり、武具が手に入れられないかと試したりしたが、今更やることもない。


 大人しく、右側の文官の部屋に入り、そこから更に奥の控室に入る。

 ほどなく、部屋に走る赤いエフェクト。扉の向こうから聞こえる敵襲の声

 さて、検証の時間だ。


 あ、文官はおじさんなので対象外です。

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