第3話
「ふふふ。」と猫は笑う。
僕は恐る恐る聞いた。
「なんで笑うんだよ。」
猫は僕にはっきりと言った。
「人間って面白いよね。終わってしまったことを後悔する。もう戻らないのに。後悔したって遅いのに。後悔するだけで、その後悔を今に活かそうとしない。君の気持ちはわからないな。だって僕は後悔なんてしないんだ。したことがない。なぜか知りたいかい?」
猫は焦らすように自慢気に話す。
「僕たちは過去に戻れるからね。」
僕の顔が歪んだ。
「は…?過去に戻れる?そんなバカなことがあるわけないだろ。」
「バカなこと?君がそれを言うの?君は今、人間と話してるんじゃない。僕と話してるんだ。それとも君には僕が人間に見えるって言うのかい?」
そう言われると僕は口をつぐむしかなかった。だって僕が話しているのは紛れもなく猫だったから。
「今、君が見ていることが真実だよ。」
猫は僕の核心をついてくる。
「過去に戻りたいかい?」
「え…それは戻れるなら戻りたいに決まってるだろ。あいつにもう一度会えるなら会いたいし、助けてやりたい。」
「じゃあ、過去に戻るかい?」
「本当に戻れるんだな?」
「んもう。質問を質問で返さないでよ。
あぁ。でも本当に戻れるよ。ただし、代償はしっかり貰うけどね。過去に戻すのは疲れるんだよ。それなりの御礼を君から貰わないと。」
「御礼?」
僕は確かに嫌な予感がした。その予感は見事に1秒後に的中する。
「あぁ。御礼は君の寿命なんてどうかな?君の生きる時間。命ってところかな。まぁ、ほんのちょっと貰うだけだよ。」
猫の発言に僕は驚かなかった。むしろ、想定通りといったところだろうか。当たって欲しくはなかったけど。僕の命を猫にあげることで君にもう一度会えるなら。
「どう戻る?」
僕は少し震えながら、その猫の問いにその震えを悟られないように猫を見下して
あぁ。と答えた。その時僕は初めて猫の満面の笑みを見たのだ。
「契約成立だね。」
「何年前に戻るの?」
猫は僕に聞く。
「あいつが死ぬ一週間前。あの時僕に話そうとしてたことを聞くんだ。」
「ふーん。」
猫は自分から聞いたのに、まるで興味無さそうに返した。そして、なにかを思い出したように僕に尋ねる。
「あ、そうだ。まだ、君の名前を聞いてなかったね。」
「立川伊吹。お前は?」
猫はその質問を待ってましたと言わんばかりの顔でこう答えた。
「そう伊吹か。僕はルア。いつか世界を滅ぼす悪魔だよ。よろしくね。」
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