第2話

 翌日、一通り授業を受け終えた俺達は件の空き家の前に集まっていた。ところどころ塗装の剥げている古い木造の建物はかなり大きく、家というよりは屋敷とか館といった感じの風貌だ。


「よし、切れたぞ!」

「でかした!」


 隆司が家から持参したチェーンカッターを自慢げに掲げる。流石は工具屋の息子といったところだろうか。


「それじゃあ入るぞ」

「あぁ」


 重い扉を拓人と二人がかりで開けると、広い玄関ホールが現れた。見たところ、正面には上の階へと続く階段があり、通路は左右に真っ直ぐ伸びている。


「拓人……怖い……」

「ははは、大丈夫だって。俺達がついてるんだしさ」


 腕にぎゅっと抱きつく梨香に対し、拓人は満更でも無さそうな顔をしている。くそ、イチャイチャしやがって。そう思いながら俺は拓人に声をかける。


「で、まずはどこから見ていく?」

「そうだな、とりあえずは――」


 その時、離れたところで何かが割れたような音が響いた。


「わあああぁぁぁっ!!!!」

「ビビり過ぎだよ、隆司」


 あまりにも出来すぎたタイミングだとは思うが、まぁ偶然ということもなくはないだろう。この程度で怖がっていては肝試しにならないだろう。そういって隆司を宥めようとした、次の瞬間。


「きゃああああ!!」

「地震か!?」


 ずうううぅぅん、と先程よりもかなり重く大きな音が響き、建物全体がわずかに揺れた。


「なぁ拓人、やっぱりなんかおかしいって!」

「あぁ、一旦外に出よう!」

「あれ……なんで……」

「どうした梨香!!」

「開かない!ドアが開かないの!!」


 先程の揺れのせいか、扉にはいつの間にか鍵がかかっていた。なんとかぶち破ろうと四人で体当たりをかましたりしてみたが、かなり頑丈な作りのようでびくともしない。


「くそっ!開けっ!開けよっ!!」


 拓人がドアをガンガンと蹴っている。この肝試しを提案した張本人とはいえ、このような状況は想定していなかったのだろう。


「ここで狼狽えてても仕方ないし、他に出口がないか探してみようぜ」


 このような状況下で最初に建設的な意見を発したのは、以外にも一番怖がりな隆司だった。彼の言葉に俺を含む残りの三人は頷いた。


「それもそうだな……俺と梨香は上を見てくるから、二人は下を頼む」


 そう言うと、拓人は梨香を連れて階段を上っていった。


「よし、俺達も探索するか」

「じゃあ俺は右に行くわ」

「わかった」


 残った左の通路を見てみると、そこには左右に四つずつ、それから突き当たりにひとつ木製の扉があるのが見える。俺はまず、右手前の部屋を調べる事にした。部屋はだいたい八畳くらいの広さで、大きな本棚に四方を囲まれており、その真ん中にはシックなデザインの机と椅子が置かれている。どうやらここは書斎らしい。


「ん、これは……」


 机の引き出しを開けてみると、中には鍵が入っていた。持ち手の部分に『図書室』と書かれている鍵は、部分的に錆びているものの使うのには問題なさそうだ。


「図書室、どこにあるんだろうな」


 一度書斎を出て残りの部屋を調べてみたものの、ベッドとクローゼットの置かれた部屋があるのみで、特に気になる箇所もなかった。つまり、図書室は他の誰かが見に行ったエリアにあるということだろう。ひとまず隆司と合流すべく、俺は一階の東側へと向かった。

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