魔羅鬼
アリクイ
第1話
「たっ、拓人おおおおぉぉぉ!!!!」
全長二メートル以上はあるヤツの巨体に押し潰され、ついに拓人もやられてしまった。これで生き残りは俺ひとり。これまでは追跡のターゲットを分散させながら逃げていたが、もうその手も使えない。つまりここから先はシンプルな追いかけっこという訳だ。
「畜生、やってやろうじゃねえか……」
ずしんずしんと地面を揺らしながら跳ね回る巨大なチンコにそう吐き捨て、俺は全速力で走り出した。
◆
事の発端は、昨日の昼休みに俺の友人である拓人が語ったとある噂話だった。
「――んで、二丁目の本屋の角を曲がったとこにバカでかい空き家があるだろ?あそこさ、出るらしいんだよ」
「えぇ~、本当!?私よくあの辺の道通るんだけど~!こわ~い!」
「はぁ……そんな非現実的なことがあるわけないだろうが」
わざとらしく驚く梨香の様子に苛立ち、ついキツい口調になってしまう。俺と拓人と、それから隆司。小学校に入ったばかりの頃からずっと一緒だった三人組の中にこの女が混ざるようになって以降、俺はなんとなく居心地の悪さを感じていた。隆司もどうやら最近同じような事を思っているらしく、その表情に三人でいるときのような明るさはない。
「またそんなこと言って~、どうせビビってるんでしょ~?」
「ビビってるのはどっちかっつーと隆司だろ」
「はぁっ!?ビビりじゃねーし!幽霊なんか怖くねーし!!」
唐突なイジりに、曇り気味だった隆司の表情が一変する。まぁいくら怖がりなのを誤魔化そうとしたところで長い付き合いの俺に対しては全く意味がないのだが。そんな俺達のやり取りを見て拓人がひとつの提案をする。
「じゃあさ、試しに俺達四人で見に行ってみないか?ちょっと季節外れだけど肝試しってことで」
「肝試し?」
「あぁ、あの館に行って実際に確かめてみるんだ。幽霊がいるかどうかをさ」
「いや、流石にそれはまずくないか?」
小さかった頃は宝探しと称して近くの森に入ったりしたことなんて一度や二度とじゃないが、今回のは少し訳が違う。空き家とはいえ恐らく誰かの持ち物だろうし、うっかり面倒な大人に見つかった日には大目玉を食らうのは間違いないだろう。まぁ森は森で誰かの土地だし今更何をって話ではあるのだが。
「大丈夫だって、あそこに人が出入りするとこなんて見たことないだろ?」
「確かにそれはそうだけどさ」
「もう、そうやって堅いことばっかり言ってるから修也はモテないのよ」
「うるせえ、余計なお世話だ」
俺は机の天板を指で軽くとんとん叩きながら梨香の顔をひと睨みした。彼女はどうも無神経というか、人の気にしていることをいちいち口に出す癖がある。去年の冬に拓人と梨香が付き合ってるのを知った時も、正直「なんでお前がこんなのと」なんて思ったものだ。流石に本人には言わなかったが。いや、言えなかったという方が正しいか。
「で、どうする?」
「しょうがない、行くよ。隆司は?」
「俺はちょっと……」
やはり幽霊が怖いのか、隆司は肝試しに行きたくないようだった。だが俺としては隆司に来てもらわないと非常に困る。いくらその片割れが俺の親友のひとりとはいえ、カップルと自分という構図は余りにもアレすぎる。
「頼むよ隆司、お前も来てくれないか」
「勘弁してくれよ……」
「やっぱりビビりじゃないの」
「だからビビりじゃねーし!」
「煽るなよ……今度ラーメン奢るからさ、な?」
「……大盛でもいいか?」
「あぁ、トッピングとライスもつけていい」
「それならまぁ……」
かなり高くついてしまったが、わざわざ外出してまで気まずい思いをするよりはよっぽどマシだ。心の中で隆司に感謝しながら肝試しの実行日時について拓人に尋ねた。
「うーん、そうだな。色々と準備もしたいし明日の放課後でどうだ?」
「あぁ、問題ない」
「俺も大丈夫だ」
「私も」
「それじゃあ決まりだな……ってもうこんな時間じゃん!次、科学だったよな!?」
話し込んでいて全く気が付かなかったが、時計を見ると午後の授業まではあと2分かそこらしかない。俺達は慌てて教室を飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます