第77話 異世界の秘密

「つまり今回の件は、カリスマ教が霧崎を利用していたつもりが、逆に利用されていたって事で、事態がややこしくなったって訳で……」


 螺旋階段をぐるぐる降りて行く、雹河と雪姫を加えたノーテンキ冒険隊。

 満月に浮かび上がる、島内の絶景を見ることが出来る状況だが、彼らにその余裕はない。

 クラウドは走りながら、その場にいなかった雷也に、それまでの一部始終を説明していたが。


「山瀬殿を助けに来たら、山瀬殿がかりすま教の支部長で、戦いが終わったら、らすぼすに大変な変態の科学部が出てきて……?」


 雷也は、普段は頭突きにしか頭を使わないので、プスプスと煙が出ているようである。

 なので、晴海は簡潔に。


「今からあたしたちがやる事は、ド変態の霧崎をやっつけて、玲華さんを助け出すことだよ!」

「なるほど、承知したでござる」

「雹河くんは、霧崎が消滅計画の黒幕だって事を知ってたんだね?」


 先頭を行く雹河は、振り向きもせずに走りながら答える。


「征服計画と消滅計画の両方が錯綜していたからな。カリスマ教に関わる奴らを片っ端からブチのめしていたら、最終的に科学部の霧崎に辿り着いた」

「相変わらず、乱暴な人ですわ」


 雪姫は、雹河のセリフに鼻を鳴らす。


「白鳥さんって、氷室にはけっこう辛辣だな」

「普段はあんな娘じゃないんだけど……。あ、でも、ちょっと前にボディーガードについた人がすごく嫌な感じの男の子だったって話してた事があったよ。雹河くんのことだったのかな?」


 ひそひそと言葉を交わすクラウドと晴海。


 さらに話を聞けば、雹河はノーテンキ冒険隊とは別ルートから、既にこの島に先回りしていたとの事である。

 道中でサバイバル同好会の一隊をやり過ごす必要はあったが、それ以外は特段何も無く、クラウドたちが乗ったようなトロッコなども無かったとの事である。


「白鳥、この島は何なんだ? ボクが使ったルートの入口に『関係者以外立入禁止スタッフ・オンリー』と書いてあったが、この島はスワン・コンツェルンの管理下にあるのか?」

「それ、あたしも知りたいな。ねえ、雪姫。この島って一体何なの?」


 すると、雪姫は戸惑いながら、非常に言いにくそうに。


「実は……、この島は、晴海ちゃんへのプレゼントなのです……」

「トランプ大統領?」

「それはプレジデントです。まだ完成はしていないですけれど、この島は晴海ちゃんの高校入学の祝いに、差し上げようとしていた物なのですわ」

「あたしの、島? ………………えーっ!?」

『なにーっ!?』

「昔から晴海ちゃんは、冒険したーい冒険したーいと、常々おっしゃってたので、いつでも冒険が出来る場所を作ろうと、ずっと前から、わたしが計画を進めていたものですわ」

「島をまるまる1個プレゼントって……」

「さすが、スワン・コンツェルン……。スケールがデカいなあ……」


 走りながら驚き呆れる周囲に、雪姫は気まずそうな雰囲気で。


「本当は入学式の時に、晴海ちゃんにあげようとしていたのですが、東京オリンピックの開催が決まった事で、工事の部材の調達が難しくなって、工期が遅れて……。そうこうしてるうちに、わたしがさらわれたり、カリスマ教に乗っ取られてしまったり、てんやわんやになってしまったのですわ」

「じゃあ、あたしたちが聞いていた『異世界』の伝説っていうのは……」

「おそらく、地下洞窟の鍾乳洞や地底湖の事です。上沢市の昔の文献には、この世界の物とは思えない景色、との記述があったような記憶がありますわ」


 ノーテンキ冒険隊がこの島に行き着くまでに見た、洞窟内の様々。それが、本来の異世界の正体というわけか。


「そこから、トンネルを掘り進めて、トロッコを設置して、この島まで到達させたのです。最終的にはネズミーランドみたいなテーマパークにする予定ですわ」

「聞けば聞くほど……」

「やっぱ、すごいんだな、スワン・コンツェルンって……」


 走りながら愕然とする、クラウドたち。

 だが、晴海は。


「本当に貰っていい物かどうかはともかく。雪姫、ありがとう。あたしとっても嬉しいよ♪」

「晴海ちゃん……」


 幼なじみ同士の友情を、深め合う晴海と雪姫。


「あ、そういえば。あそこの吊り橋、ちょっと壊れてたよ」

「すぐに修理しておきますわ」


 自分で壊しておきながら、しゃあしゃあと言う晴海。


「それで、島の名前を晴海ちゃんに決めてもらいたいのですけれど……」

「うーん、そうねー。『インディ・情熱大陸ジョーねつたいりく』か、『夏山名人の冒険島』かな?」

「センス!」


 思わずクラウドは鋭くツッコむ。

 7人は階段をかけ降りて、地上の広場に到達した。


「ぐるぐる降りてきて、目が回ってしもうたー……」

「わたしもですわ……」


 そう言って息を弾ませ、胸をぽよんと弾ませる雪姫。


「くそっ! あいつ、どこに逃げやがった!」

「早く探さないと、玲華さんが変な事されちゃうよ……」

『はっはっはっ! 待ってたぞ!』


 聞き覚えのある舌足らずな声が、スピーカーを通した音声で響き渡る。

 その瞬間、クラウドの危険察知アンテナが警鐘を鳴らした。


「走れ!」

『!』


 クラウドの合図に、その場にいた者は各々回避行動を取る。

 だが。


「え?」


 雪姫だけ反応が遅れ、月影が射したその瞬間。


 ドズンッ……!


 彼らが今までいた場所に、空から黄色い塊が降って来る。

 地響きが鳴り渡り、その衝撃で風圧が襲う。


『これが天才科学者・霧崎丞機が誇るバトルスーツ。その名も『幻影の悪魔ブロッケン・スペクトル』だ!』

「雪姫ーっ!!」

「わたしは、大丈夫ですわ!」


 晴海からは死角になっていたが、潰されたと思われた雪姫は雹河に救い出され、横抱きに、すなわちお姫様抱っこをされていた。

 雹河はパッと手を離すと、雪姫はドスンとしりもちをつく。


「痛っ!」

「大丈夫なら、とっとと離れろ。いつまでもくっつくな」

「勝手にくっついて来たのはそっちの方ですわ! でも、助けていただいてありがとうございます」

「……怒るのか礼を言うのか、どっちかにしろ」


 憤慨しながらも深々とお辞儀をする雪姫に、雹河は調子狂うぜ……とつぶやきながら、そっぽを向く。


「あれ? あの2人、なんかいい感じじゃない?」

「そうは思えないけど、そうかあ?」

『お前ら、僕を無視するなーっ!!』


 巨大な機械の腕が振り下ろされるが、クラウドと晴海はそれを避ける。

 ブロッケン・スペクトルと名付けられた、その機体を見ると、黄色の卵形ボディに腕と足が生えた様な体型。

 体高5メートルの巨大さを誇り、様式美より機能美を重視したフォルムである。


「なんか、初代ロックマンのイエローデビルみたいなやつだなー」

「なんだか、可愛いらしいですわ」


 丸っこい見かけに、ずれた感想を述べる雪姫。

 突然、ブロッケンの右腕の上部からマシンガンが顔を出し、弾丸を連続で打ち出す。

 狙われて、吹っ飛んでよけるブラザーズ。

 巨大なガラス張りのコクピットから、霧崎が傲慢な態度で語る。


「僕の才能を結集したこのメカは、お前たちごときには絶対に倒す事はできないよ」

「ほう、面白い。ボクが相手になってやるぜ」


 左手に蒼いグローブ、右手に黒いレザーのグローブを装着し、雹河はゆっくりとマシンに近づいて行く。


「氷室、力貸すぜ」


 背中のリュックから、メガ正宗を抜いてみせるクラウド。

 その足元はふらついていたが、困ってる女性は見捨ててはおけない。

 だが。


 ドムッ!


 雹河はクラウドの鳩尾にショートフックを入れた。


「氷室……、何を……」

「てめえの出番は、ここで終わりだ」


 ドサッと地面に倒れ伏すクラウド。驚愕に目を見開く仲間たち。


「クラウドくん!」

「雨森! こいつをどこかに連れて行け。目障りだ」


 ブラザーズは近寄ると、くたっとなったクラウドを担ぎ上げ。


「こいつ、これ以上戦ったら死んじゃうとこだった。やり方はアレだけど礼を言うよ」

「ありがとうダライアス」

「分かる奴にしか分からないボケをするな、レトロゲーマー共が……」


 雹河は、そそくさと引き上げるブラザーズを呼び止め。


「起きたらそいつに言っておけ、『今度会った時は、必ず殺す』とな……」

パードゥン?もう一回

「てめえらはいちいちボケないと死ぬ病気か? 何度も言わせるな」


 ブラザーズのボケを素っ気なく流し、雹河はブロッケンに向き直る。


「邪魔者は消えた。そろそろ始めようぜ……」

「1人で僕に挑む気か? ずいぶん自信過剰な奴だな……」


 鼻で笑う霧崎に対し、雹河は不敵に薄く笑った。


「スクラップにしてやるぜ。かかって来いよ、ガラクタ……」

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