第40話 いかさまマスター

「あれは積み込みだなー」

「だから、麻雀じゃねえって」

「まあ、奴の手口はバレバレなんだけどなー」

「どうしたの? 次は南斗くんよ」


 晴海の呼びかけに、南斗はいそいそと席に着く。

 青い水族館の魚たちが見守る中、ポーカー第3戦が始まる。


「南斗、頼むぜ」

「まかせときなー」


 いつになく、頼もしげな南斗のセリフ。

 だが、自分の前にカードが配られると、南斗は手を触れようともしなかった。


「オレはこのままでいいぜー」

「南斗くん! カードを見てもいないじゃない、どういうつもり?」


 ミラージュはいぶかしそうに南斗の顔を見ると、チェンジをする。

 勝負の時。ミラージュは、♣5、♣6、♣7、♣8、♣9のストレートフラッシュ。

 南斗が手札を1枚ずつめくると、なんと♢10、♢J、♢Q、♢K、♢Aのロイヤルフラッシュ!


「ふふん、オレの勝ちだなー」

「あなた……、イカサマをしてますね?」

「それはどうかなー。手口がバレなきゃイカサマじゃないしー、手口をバラしたら困るのはお前だぜ?」


 南斗はにやぁ~と笑い、意味深な台詞ことばを吐きながら席を離れる。


「よーし、これで2勝1敗! 北斗くん、次で決めてね!」


 席に向かう北斗。カード配布の行程をこなし、勝負に入る2人。

 ミラージュの手は、♠A、♡A、♢A、♣A、Joker。


「ファイブカード!?」


 ポーカーで最強を誇る役。中でもAのファイブカードは、他のどんな手でも勝つ事ができない最強中の最強。のはずだが。


「オレの方がもっと強いぜー」


 北斗が見せた札は、Joker、Joker、Joker、Joker、Joker。


「ジョーカーのファイブカードだー!」

『イカサマ!』


 敵味方全員から、指をさされる北斗。


「うそーん、何でバレたんだ?」

「あたりまえじゃない! 北斗くんのばか、ばか、ばかーっ!」


 北斗の頭をポカポカ叩く晴海。水槽の魚たちも心なしかバカにしているように見える。

 だが、北斗は敵の方を向いてニヤッと笑う。

 額の汗を拭うミラージュ。なぜか、彼に焦りの様子が見えた。


「よ、北斗お疲れ」


 普通なら真っ先にツッコむクラウドなのに、平然と北斗の労をねぎらっている。

 どういうこと? と、クラウドたちを見る晴海に。


「心配すんな、最後はオレだな」

「何だかよく分からないけど、クラウドくん、がんばって!」


 晴海の声援を背中に受け、テーブルに向かうクラウド。

 配られたカードに目を通すと、2人とも手札の交換も無しに、同時に手札を広げる。


 ミラージュは、♠A、♡A、♢A、♣A、Joker。

 クラウドも、♠A、♡A、♢A、♣A、Joker。


 2人が見せたカードは、5枚ともすべて同じ札。


「奇遇だな。同じAのファイブカードじゃねーか」

「イカサマです!」


 立ち上がるミラージュ。対するクラウドはイスに腰かけたまま。


「それはこっちのセリフだ、お前のネタはすでに上がってるぜ」


 クラウドは、奇妙な絵柄のカードをちらつかせて見せる。

 絵柄が斜め半分で食い違っており、上半分は♠のAなのに、下は♡のAである。


「なぜ、そんな所に……」


 ミラージュが、一瞬だけ懐に手をやったのを見逃さない。雷也は後ろに回り込むと、その体を羽交い締めにする。

 クラウドはミラージュに歩み寄ると、タキシードの内ポケットから、バラバラバラとイカサマのタネカードを引っ張り出した。


「でっちあげです! あなた方は私をハメようとしてますね!」

「お前はこのカードを、千円ジャストの良心特価で買ったはずだ」

「違いますね。ちょっと特殊なカードが入っているからって、税込み五千五百円はボリ過ぎです…………あっ!」


 クラウドはミラージュの目を見据えて、ニヤリと笑う。


「あなた達は一体……」

「そうよ、何でマジックのタネを知ってるの?」


 驚く晴海に、クラウドは種明かしをする。


「ああ、これは三雲雑貨店の商品で、うちの親父の発明品なんだ」


 三雲雑貨店特製『イカサマ用カード』。

 通常52枚のトランプに、イカサマ用にさらに52枚、そして先ほどのような特殊カード30枚+ジョーカー10枚入りのビッグスケール。


「カードの裏の模様が、見たことあるやつだからすぐ分かったんだ」

「よくまあ、そんな変な物考えつくわね……」


 晴海は半ば呆れ顔で、クラウドの手の中のカードを見つめる。


「イカサマ勝負でオレらに勝とうなんて、百万年早えーんだよ」

「さあ、あたしたちの勝ちよ! 約束通り、カリスマ教について話してちょうだい」


 ミラージュに詰め寄る晴海。


「ふふふ、お見事です!」


 ミラージュは雷也の羽交い締めからスルリと抜け出ると、自らの手札に息を吹きかける。

 無数のカードが冒険隊に襲いかかり、クラウドは瞬時に中華ナベを振るって晴海を庇った。


『痛ってー!』


 振り向くと、カードがなぜか尻に集中して突き刺さっているブラザーズ。


「ううう、ケツが割れてしまったー」

「最初から割れてるだろ」

「2つじゃなくて、4つか8つに」

「ピザじゃねーんだから」

「あ! みらあじゅが、いなくなってるでござる!」


 すでにミラージュの姿が無く、テーブルには部屋のカギだけが残されている。

 どこからともなく、聞こえて来る声。


「なかなか、楽しい時間を過ごさせて頂きました。また会う日までごきげんよう……」

「待って! 雪姫は無事なの!? 玲華さんは!?」


 だが、それ以上の言葉が返って来る事は無かった。

 肩を落とす晴海。クラウドは重い雰囲気を振り払う様に。


「あんな奴が張ってたって事は、カリスマ教の奴らはここにいる。きっと白鳥さんも、山瀬さんもな」

「そうだね……」


 そう言うと、晴海はテーブルのカギを拾い上げ、強く握り締めた。


「ところで、クラウドくんたち。イカサマカードは分かったけど、なんで3人ともカードのスリ替えがそんなに巧いの?」

「そりゃあオレら、このカードを使って荒稼ぎをしてたからな」

「クラウドくんたちって、極悪にーん……」

「そう言うなって、親父に商品モニターを頼まれてたからな。それに賭けてたって言っても、せいぜいジュースを奢ってもらうくらいだってば」

「イカサマシリーズは他にもたくさんあるよー。麻雀牌に、百人一首とか」

「イカサマ将棋は失敗作だったよな。『第六天魔王』って駒があったもんなー」

「それ、どんな動きをするの!?」


 三雲雑貨店の間抜けな商品に、驚き呆れる晴海。

 だが、クラウドたちの知らなかった一面を知る事ができ、嬉しく思って笑顔がこぼれる。

 そして、元気が戻った晴海を見て、ほっと安心したクラウドであった。

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