第41話 洞窟探険行2

「で、元気になったら、すぐこれだ」

「さあ、そろそろ大きな岩の玉が転がって来てほしいところね」

「いや、何を期待してんだよ」

「それか、無数のヘビとかクモとか、うじゃうじゃシリーズが出てこないかな~」

「インディ要素、大好きすぎだろ……」


 晴海のとめどない妄想に、ツッコミを撃ちまくるクラウド。

 カリスマ教の刺客、ミラージュを退けた冒険隊は、少しの休憩の後、洞窟探検を再開する。

 ただ、しばらく同じような岩の景色が続くと、刺激が欲しくなるのが人間ひとさが。というより、冒険家はるみ性質タチ

 すると、その望みを聞き届けたかのように、クラウドたちは地下の中の大渓谷に遭遇した。


「うわ、すっごーい!」

「洞窟の中に、こんな場所もあるんだな」

「なんか、違う世界に来たみたいだなー」


 視界が一気に広がり、目前は切り立った崖になっている。

 岩肌は永年の歳月を感じさせるマーブル模様で、水流が造形をしたような、滑らかなえぐれが刻まれている。

 背筋が凍るような高さから見下ろせば、目下には美しさとうすら寒さを感じさせるような、緑青色の池が湛えられている。

 どこからか吹き抜ける風は涼しく、いっそう恐怖感を高める効果をもたらしていた。

 そして、数十メートル先の対面側に渡るために、木製の吊り橋が掛かっている。

 晴海の望みどおり、スリル満点の空中散歩が満喫できそうだ。


「そうそう、こういうのが欲しかったのよね」

「おいおい、1人でさっさと行くなよ」


 晴海は嬉々として、吊り橋に向かう。


「後がつかえてるでござるよ、早く行くでござる」

「いやいや、急かすなっての」

「おほほー、高いなー」


 後を追うクラウドたちだが、しんがりの雷也はともかく、他の3人はどうにもへっぴり腰である。


「えー、クラウドくんたち、もしかして怖いの?」


 晴海はUターンしてくると、うぷぷっと口を押さえて、ニヤニヤ笑いを見せつける。


『べ、別に、怖くなんてないんだからねっ!』

「そんな、3人声を揃えて否定しなくてもいいのに~」


 晴海はゆさゆさと吊り橋を揺すってみる。


「うわっ、こらっ、マジでそういうの止めろよ!」

「あははっ、たーのしいねー♪」


 調子に乗った晴海は、ぴょんこぴょんこして吊り橋を揺らす。

 だが、その瞬間。


 バキッ!


「きゃっ……!」


 乗っていた橋板が割れ、落下する晴海。


「危ねえっ!」


 とっさの反応で、晴海の腕を掴むクラウド。

 宙ぶらりんの足がプラプラ状態になる晴海。

 だが、力が入りづらい吊り橋の上、クラウド1人で持ち上げるのは難しく、ともすれば引きずり込まれそうになる。


「ぐおおおお、ヤバい、雷也頼む!」

「まかせるでござる!」


 晴海のもう一方の腕を、雷也がつかみ、力任せにグイッと引っ張り上げる。

 なんとか、晴海は吊り橋の上に復帰し、九死に一生を得ることが出来た。


「はぁ、はぁ、あ、あっぶねー……」


 いらんことするからバチが当たったんだぞと、クラウドは晴海に文句を言おうとしたが、さすがの彼女も恐怖のあまり声も出ない様子なので、それを言うことができなかった。

 そのかわり、クラウドは割れた板をひょいっと飛び越え、晴海に向かって手を伸ばす。


「ほら。こんな危ないとこ、とっとと渡っちまおうぜ」


 晴海は一瞬戸惑ったが、クラウドの手を掴むと、谷底が見える割れ目を飛び越える。

 ブラザーズと雷也も、続いて跳ぶ。

 クラウドは晴海の手を外そうとしたが。


「あの……、このまま一緒に渡ってもらえないかな……」


 小さな声で言うと、晴海はその手を握ったまま離そうとしない。


「だめ……?」


 怯えた子猫のような瞳で嘆願する晴海。

 クラウドはドキッとしながら、ブラザーズたちを見ると、3人は下手な口笛を吹きながらそっぽを向いて見てみぬフリをする。

 クラウドは何も言わず、手ちっちぇーなあ、柔らかいなあと思いながら、晴海の手を引いて先頭を歩く。

 晴海もうつむいたまま、促されるままに歩みを進める。

 無言のまま、吊り橋を渡る冒険隊。

 ようやく、最後まで渡りきると、5人は安堵の溜息を漏らした。


 クラウドはなんとなく手を離すのが惜しいので、晴海の方から手を離してくるのを待つ。

 だが、晴海も同じように思っているのか、一向に手を離そうとする気配がない。

 そうこうしているうちに、視線が絡み合う2人。

 それでも、お互いの手を離そうとしない。


「おっ、特殊スキル『吊り橋効果』発動か?」

「もうそのまま、お前ら付き合っちゃえよー」

「んなっ!?」


 ブラザーズの挑発に、クラウドは思わず晴海の手を邪険に振りほどく。

 すると、晴海は少し傷ついた様な表情を見せた。


「あっ……、ごめん……」

「ううん、大丈夫。あたしもいろいろ面倒かけてごめんね」


 よしっ! と晴海は自分に気合いを入れ直し、再び隊の先頭に立つ。

 クラウドは、その背中がなんとなく寂しそうに見え、悪い事をしたような気になっていると、ブラザーズがへらへらっと寄って来て。


コクれば、絶対にOKのタイミングだったのにー」

「あー、もったいなーい、もったいない」

「ああん? そんな事するわけねーだろ!」

「しっ、声が大きいでござるよ」


 洞窟の中なので、ちょっとの声でも大きく響く。

 雷也にたしなめられて、声をひそめる3人。


(お前らの前で、告白なんかするわけねーだろ)

(じゃあ、2人きりならコクってたのか?)

(あ、いや、そういうわけじゃねーが……)

(ヘタレのクラウドが無理すんなよー、あうち!)


 クラウドはムカついたので、ブラザーズの尻に蹴りを入れた。



 *



 次に訪れたのは、見た事の無い花や植物が、部屋一杯を飾っている、蒸し暑い部屋。


「わあ、これってラフレシアじゃない?」


 腐った様な匂いを放つ、巨大花がドドーンと道の真ん中に鎮座している。


「クラウドー、助けてくれー」

「へるぷ、へるぷ」

「何だよ……うわ!」


 めんどくせーなあ、と思いつつ後ろを見ると、ブラザーズが巨大ウツボカズラに食われている。

 ドロリとした粘液の中から、なんとか助け出す。


「いやあ、ハエの気分だったなー」

「水族館に植物園か……。次はもう何が来たって驚かねーぞ」


 その舌の根も乾かない内に、クラウドは仰天することになる。

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