第34話 激闘! vsアクアリーグ(後編)

「はーっはっは! どうだ、これが我々の最終陣形、無敵の『リヴァイアサン』だ!」


 昔の特撮映画の怪獣を思わせる、三つ首竜のフォルム。

 だが、銭湯効果で強化ブーストしていたはずのブラザーズの南斗を、一撃で屠ったパワーは伊達ではないだろう。

 頑強なリヴァイアサンの背中の上で、腰に手を当てて高笑いをする、アクアリーグのリーダー・高塩。

 頭の悪いマッチョなブーメランパンツ男に見えるが、意外にも各部の部員達の特性を生かし、状況に応じて使いこなせる頭脳派であった。


「はっはっはっ、リヴァイアさんじゃなくて、むしろリヴァイア様と言うべきかな?」

「波平さ~ん、リヴァイアサンの『サン』は、ササエさんとかの『さん』じゃないですよー」

「バッカモーン! 下の名前で呼ぶなーっ! ……って、敬称じゃなかったのか!」


 訂正、やっぱり頭は悪かった。


「くそっ。だけど、そんな無茶な態勢がいつまでも持つ訳がないだろ!」

「確かに、この陣形で動けるのはせいぜい3分から5分くらいだ。だが、お前たちをプールの藻屑にするには十分だ!」


 高塩がそう言うと、三つ首竜はプールの中央から、じわりじわりと冒険隊が陣取るプールサイドに近寄ってくる。


「北斗くん! プールの栓を探して、水を抜いて! 水から揚げてしまえば、あいつらは戦えなくなるはずよ!」

「よしきたー!」


 晴海の指示に、ブラザーズ北斗は水中に潜る。

 だが、数秒後には。


「ダメだー! プールの中から水を抜くようになってない!」

「はっはっはーっ、プールの水抜きは建物の外から操作するようになっているんだ。そんな所を探しても無駄だ!」


 高塩の言葉に、ギッと歯噛みする晴海。

 すると、山瀬が。


「じゃあ、玉手箱を奪い返して逃げるのが上策ね。三雲くん、あなたカギ縄を持ってるって聞いたけど」

「簡易的なやつならありますが、どうするんです?」


 クラウドが抹茶色のリュックから、傘の先をロープで縛ったものを山瀬の白い手に渡す。


「こうするのよ」


 山瀬は玉手箱を握った高塩に向けて、カギ縄を投擲する。

 そして、玉手箱に引っかけようとしたのだが、そううまくは行くはずもなく、的から外れる。

 だが、運の良いことに、傘の持ち手のJ型の部分が高塩のパンツに引っかかった。


「うわ、やめろ、パンツが脱げる!」

「古文書は返してもらうわ」


 山瀬の一引きで、高塩は見えそうな尻を隠し、手からこぼれた玉手箱はプールに落ちる。


「今だ! 北斗、玉手箱を確保だー!」

「うおおおおおー!」


 北斗は、プールに落ちた玉手箱に向かって飛び込んでいく。

 だが、リヴァイアサンのあぎとが、それ以上のスピードで北斗を捕らえる。

 リヴァイアサンは、北斗の身体を天井近くまで持ち上げると、冒険隊がいるプールサイドに叩きつけた!


「ぐわあああああー!」

「北斗ーっ!」


 これで、水中戦の最大戦力である、雨森ブラザーズが2人とも倒されてしまった。

 結局、玉手箱は水泳部の少年が回収し、再びアクアリーグの手に落ちる。


「そんな、雨森くんたちが……」

「こしゃくな真似を……。リヴァイアサン! その白い女を狙え!」


 高塩の号令でリヴァイアサンの首の1つが、プールサイドの縁まで出ていた山瀬を横薙ぎにする!

 だが、そうはさせじと超反応でクラウドが、そして晴海が、寸前で攻撃を受け止める!


 ドゴォ!!


『ぐうっ!』


 2人がかりで防いだものの、力負けしたクラウドたちは、3人もつれながらゴロゴロと転がる。


「いてててて……。くそっ、女の子に手を出しやがって……」

「大丈夫ですか、玲華さん……」

「私は全然平気よ。あなたたちこそ……」

「あたしも、平気です……」


 ちっとも平気そうではない様子で、ふらふらと立ち上がる晴海。


「玲華さんは、きっと、あたしが守りますから……」


 そういうと、晴海はぺたりとへたり込む。


「わーっはっはっ、とどめだーっ!」


 そこへ、振り下ろされる竜の首。

 ダメージが抜け切れないクラウドは動く事が出来ない!

 そんな晴海をかばい、山瀬は白い両手を広げて、リヴァイアサンの前に立ちふさがる。


「だめ……。玲華さん、逃げて……」


 無慈悲な竜の一撃が、2人を捕らえようした瞬間、山瀬の瞳が赤く輝いた!


《堕ちなさいっ!!》


 耳朶の奥底に響く声で、山瀬は意思のある言葉を放つ。

 すると、今にも襲い掛からんとしていた竜の首が、先端からバラバラと崩れて行き、それを形成していた男たちは、ドボドボドボンとプールに落ちていく。

 その様子を凝視し、山瀬はふうと息をつく。

 その場にいた誰もが、何が起こったのか分からず、呆然と山瀬のいる方を見つめた。


「おい、今の見たか、インディコ?」

「う、うん……」


 目の前で起きた現象に、動揺を隠せないクラウドと晴海。


「何だ、今のはっ!? リヴァイア3から、リヴァイア2になってしまったじゃないかー!」

「波平さ~ん、リヴァイアサンの『サン』は、首の数の『3』じゃないでーす」

「バッカモーン! 下の名前で呼ぶなーっ! ……って、数字でもなかったのか!」


 思わぬ反撃を食らい、慌てふためく高塩とアクアリーグ。

 だが、リーダーの高塩は冷静さを取り戻すと。


「相撲部! 奴らを挟み撃ちにしろ!」

『どすこーい!』

「水球部は砲撃を再開! 相撲部を援護だ!」

『おう!』

「男子シンクロ部と水泳部は、リヴァイアサンの陣形のまま前進! 全員、突撃だーっ!!」

『うおおおおおーっ!!』


 対する、冒険隊隊長の晴海は。


「雷也くんとナギナギさんは、左右に分かれて相撲部を迎え撃って! あたしとクラウドくんは玲華さんを守って、正面からの攻撃を防ぐよ!」

『了解っ!』

「でござるっ!」


 プールサイドの両側から、押し込もうとする相撲部。

 それを二手に分かれて、迎撃する雷也と草薙。

 だが、そこに水球部の砲弾が襲う。

 通常なら、相撲部など軽く蹴散らせる雷也だが、妨害が入って思うように戦うことが出来ない。


「雷也! 今行くぞ!」

「拙者よりも、草薙殿を頼むでござる!」


 見れば、草薙も同様の状況に陥っている。

 ダッシュで助けに向かうクラウド。

 だが、多方向からの攻撃にジリジリと防衛線が狭まり、クラウドたちは一かたまりの状態になってしまう。


「はーっはっは、この時を待っていたぞ! リヴァイアサンの同時攻撃で、お前たちをまとめて倒してやる!」


 リヴァイアサンの双頭が鎌首をもたげて、冒険隊の一団に照準を合わせる。


「さすがに2本いっぺんに来られたら、私でも無理だわ……」


 先ほどの現象にクラウドは期待をしたが、一斉攻撃には対応しきれないのだろう。

 リヴァイアサンの威容の前で、立ち尽くす山瀬。

 さらに勢いづく、アクアリーグの攻撃。


「くそーっ! もう、ダメだー!!」

「あきらめないで、みんな! 最後まで諦めなければ、可能性はあるはずだから!」


 だが、晴海の檄は空しく響き、今まさに最後の一撃を放とうとするリヴァイアサン。


 晴海と雨森ブラザーズ・・・・・・・の3人を除いて、そこにいた全ての人間がアクアリーグの勝利を確信し、ノーテンキ冒険隊の敗北を覚悟した。

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