第33話 激闘! vsアクアリーグ(中編)

「発射台準備!」


 アクアリーグのリーダー、高塩の号令が轟く。

 その高塩が乗っている塔を守るかのように、同じ組体操のタワーが、4本追加で組み上がる。


「砲撃、開始ーっ!」

「うおらぁ!」「そおらぁ!」「どおおおりぁ!」


 搭をよじ登った水球部員が、その頂点からボールを投げつけてくる。

 水の中ですら、威力を持った球を投げる事が出来る水球部員。

 それが、重力加速度を味方に付けて、さらに破壊力を増した砲撃を放つ。

 複数の弾丸が冒険隊を襲うが。


「おらよっ!」「ふん!」「せいっ!」


 ボコッ、ドガッ、バキッと、クラウド・雷也・草薙の3人が盾となり攻撃を防ぐ。

 だが、長篠の戦いの織田の鉄砲隊のように、休みなしに砲撃を放ってくる水球部員たち。


 それもそのはず、アクアリーグは総勢60人以上、対するノーテンキ冒険隊側は、非戦闘員の山瀬を含めても7人しかいない。

 たとえ、一騎当千の精鋭揃いだとしても、数の暴力には抗えず、時間が経つほど戦力差が顕著になるだろう。

 それを懸念した晴海は。


「あたしがなんとかするよ!」


 言うが早いか、プールに飛び込み、泳いで敵の本陣を目指す。


「わっ、バカ! 戻れっ!」


 クラウドが慌てて叫ぶが、時すでに遅し。

 プールの水が大きく渦を巻き、晴海の身体を大きく押し流す。


「きゃあああああっ!」

「インディコーっ!」

「はーっはっは! 早速、網にかかったな! これぞ、水泳部名物『メイルシュトローム』だ!」


 水泳部が反時計回りでプールの外周を泳ぐことで、発生させたる凶悪な大渦。

 鳴門海峡を思わせる奔流に、晴海はなすすべもなく飲み込まれて行く。


「インディ娘ちゃん、いま助けるぞー」

「おりゃー!」


 だが、雨森ブラザーズがプールに身を躍らせると、カッパのように泳ぎ、暴れる水流もなんのその。

 晴海を担ぎ出すと、何事も無かったように冒険隊が陣取るプールサイドに帰還を果たした。


「はあ、はあ……、ありがとう、ブラザーズくんたち……」

「いやあ、どういたしましてー」

「こら、インディコ! 水泳部に水中戦を挑むのは無茶すぎんだろ!」

「ううう、ごめんなさい……」


 さすがにこれは無謀だったかと、怒られてしょげる晴海。

 ずぶぬれでしょんぼりする姿は、これはこれで可愛いらしいなと思ってしまうクラウド。


「ほらほら、これでもかぶっとけ」


 クラウドは晴海の帽子の上から、ナベを兜のようにかぶせる。


「これは……?」

「それから、これとこれも持って。そんで、山瀬さんを守ってろ」


 そして、ナベのふたを盾に、フライパンを剣がわりに持たせて、完全防備を果たした晴海。


「これで、もう間違いないね♪」

「? ああ、防御力に関しては間違いねーとは思うけど……」


 クラウドから借りたナベとフライパンを見比べて、やたらニコニコしている晴海。

 それを不思議に思いながらも、再び敵の砲撃を防ぐべく、前を向くクラウド。


「クラウド! このままじゃラチ開かないから、アレをやるぞ!」

「なにっ!? アレをやるのか、ブラザーズ!」

「ちょっとだけ、時間を稼いでてくれー」

「アレってなあに?」


 晴海の疑問に答えず、ブラザーズは男子更衣室に入っていく。


「えっ! ブラザーズくん達、逃げちゃったの?」

「ちょっと準備してるだけだ、あいつらはすぐに戻るよ」


 さらに苛烈さを増す、水球部の攻撃。

 クラウドは飛来するボールを防ぎながらも、なんとか突破口を開こうと。


「雷也! お前、『キャプテンつばめ』の『スカイラブラブハリケーン』知ってるか?」

「中学編まで読んだことあるので、知ってるでござる」

「じゃあ、オレが乗るから、下やってくれ!」

「了解でござる」


 そう言って、雷也はおしめを取り替える赤ちゃんのような、恥ずかしいポーズを取る。


「なに? その、男同士でラブラブなんとかって」

「しかも、乗るとか下とか、その格好とか……、変態プレイなるものですか?」

薔薇バラの香りがするわ」

「違うって! サッカー漫画にそういう技があるの!」


 女性陣からあらぬそしりを受けながら、雷也の足の裏に飛び乗るクラウド。


「行くぜっ! スカイラブラブハリケーン!」


 クラウドの掛け声とともに、砲台となった雷也は両足で蹴り飛ばす。

 射出されたクラウドは、超加速とともに空を飛ぶ!

 メガ正宗を構えて、勢いのままに筋肉タワーに突撃すると、パカーンと音を立てて発射台の1つを破壊した。


「すごーい! クラウドくん、雷也くん!」

「拙者らの連携技を見たかでござる」


 クラウドは向こう側のプールの端に着水すると、渦に巻き込まれないように慌ててプールサイドにしがみつく。


「わたくしにも、そのラブラブなんとかをお願いいたします!」


 草薙も竹刀を構えながら、雷也の足の裏に飛び乗る。


「拙者も草薙殿にらぶらぶでござる」

「えっ?」


 パシュッと軽い音を立て、草薙も猛スピードで宙を舞う。


「せぇーいっ!」


 スパーンと竹刀の渇いた音が鳴り、水球部の発射台を撃破する。


 プールから上がったクラウドと草薙は、今度は一気に敵の本陣、高塩にスカイラブラブハリケーンをお見舞いしようと、雷也の元へ駆けつけるが。


「シンクロ部は砲台の立て直しを急げ! 相撲部はプールサイドに守備を展開! 次に飛んで来た奴は陸に揚げるな!」

『おうっ!』

『どすこーい!』


 矢継ぎ早に指示を出す、リーダーの高塩。

 プールサイドを押さえられたら、スカイラブラブハリケーンで突っ込んだ後の逃げ場が無くなってしまう。


「くそっ、もう同じ手は使えねーか……」


 素早い対応を見せるアクアリーグ。寄せ集め集団にしては、相当に場数を踏んだ連帯感。

 これが、白雪姫ファンクラブのなせる業なのか。


「発射用意! ……撃てーっ!」


 攻撃が再開し、剛球が冒険隊を激しく攻め立てる。

 怒りが上乗せされた分、威力も倍増されており、武装強化した晴海も防御に参加するが、次第に追い詰められて行く。


「クラウドくん、このままじゃマズイよ!」

「くそっ! あいつらはまだか!」

『待たせたな!』


 背後からゆっくりと現れる、雨森ブラザーズ。

 そのスタイルは、豆絞りを肩にかけ、乾燥したヘチマが入った風呂桶を片手に持って、全裸だった。


 あっけにとられる晴海たちの横を素通りし、ブラザーズは何かぶつぶつ言っている。


「ここは風呂、ここは風呂、ここは風呂……」

「ここは風呂、ここは風呂、ここは風呂……」

「……あの~、ブラザーズくんたち?」


 晴海の呼びかけを気にも留めず、そして2人は声を揃えて。


『ここは、風呂っ!!』

「クラウドくーん! ブラザーズくんたちが、ただでさえ頭おかしいのに、完全におかしくなっちゃったよー!」

「何気にディスられてるけど、大丈夫。あれは自己暗示をかけてるだけだ」

「自己暗示?」


 ブラザーズは、プールサイドに立ち並ぶ。


「ここは広くていい風呂だな……、兄者」

「温度はぬるめ、泉質も悪くない。露天もあればありがたいがな……」


 波止場に佇む船乗りのようなポーズを決めているが、尻はまる出しである。


「きゃあああっ!」

「どうした、インディコ!」

「ブラザーズくんたち、パンツはいてない!」

「今頃かよ!」


 晴海は両手で目を隠し、草薙はそっぽを向いてなるべく見ないように努めているが。


「北斗くんは色白だから、綺麗なお尻をしているわ。南斗くんのはおでんのゆで玉子みたいね。黒光りして美味しそう……」


 山瀬は、はふうと悩ましげな吐息をつく。

 えっ? おしりフェチなの? という顔で、クラウドたちは山瀬を見る。


「よし。そんじゃー、そろそろ始めますか」

「まいりますかー」


 お尻をぷりっと振ったかと思うと、ブラザーズはプールに足から飛び込む。

 なんと、そのまま水の上を走り始めた!


「急スピードで、敵が接近!」

「何だ、あいつらは!」


 やにわに色めき立つ、アクアリーグ。

 それもつかの間、ブラザーズは走行距離10mぐらいで水中に沈む。

 まあ、それが人間の限界だなと、ホッと安心するアクアリーグの面々。

 だが。


 ババシャーンッ!!


 ブラザーズは、イルカのように水面から跳ね上がると、オルカのように男子シンクロ部に襲いかかった!


『何だ、こいつらーっ!』

『なんで、何も履いてないんだーっ!?』

『ギャーッ!』

『た、助けてくれーっ!!』


 南米のピラニアが、河を渡る牛を捕食するかのごとく群がり、肉体で築かれたタワーをあっという間に粉砕する!

 息をも付かせぬ、超スピード。

 アクアリーグは反撃を試みるも、攻撃が当たらないどころか、追撃を喰らう始末。


「なぜだ……。なぜ、水中の戦いで我々が圧倒されるんだーっ!?」

「はあ? お前らがとろいだけだろー、波平」

「水中戦がお前らの専売特許だと思うなよ、波平」

「バッカモーン! 下の名前で呼ぶなーっ!」


 再び、ブラザーズが水中に潜ると、別の発射台の前に姿を現し、それも先ほどの搭と同じような運命をたどる。

 全裸の男たちが組体操から人をベリベリ引きはがし、ボッコボコにする様は、まさに蛮族。

 襲われた者は、眼に焼き付いた下半身の映像とともに、しばらく悪夢にうなされる事だろう。


「す、凄い……」

「ブラザーズくんたちが、水中戦でこんなに強かったなんて……」

「まあ、あいつらんは銭湯で、ずっと風呂が遊び場だったからな」


 雨森ブラザーズの実家の『雨森湯』は、創業100年を超える老舗であり、その後継者である北斗と南斗は、人生の半分を風呂の中で過ごしている。

 いわば、温水プールはホーム中のホーム。


「あいつらの銭湯力は530,000だ。かなう奴がいるはずもねーよ」


 とうとう、ブラザーズはサイドのマッスルタワーを撃破し、高塩が陣取る最後の搭を残すのみとなった。


「リーダー、ご指示を!」

「奥の手だ、最終陣形を取れー!」

「最終陣形発令!」

「総員、配置を急げ!」

『うおおおおおーっ!』


 高塩の命令にアクアリーグのメンバー達は、泳いでプールの中央に集合していく。

 その様子に、クラウドの危険察知アンテナが警鐘を鳴らす。


「ブラザーズ! なんかヤバいぞ、気を付けろ!」

「なんだー? 最後の悪あがきってか?」


 ブラザーズの南斗がプールの中央に組みあがる謎の物体に、正面から踊りかかる。

 その時。


 ゴウッ!


 一瞬、突風が吹いたような轟音が鳴り渡る。

 クレーン車のアームを思わせる巨大な肌色の物体が、南斗の褐色の身体を一薙ぎすると、南斗はプール場の壁にしたたかに叩きつけられた!


「ぐわあああああっ!」

「南斗ーっ!」


 クラウドたちは吹き飛ばされた仲間を心配するが、邪悪な威圧感を感じ、すぐに敵の方へ視線を向ける。


『な、なんじゃこりゃーっ!』


 そこに存在していたのは、男たちの肉体で組み上げられた、三つ首の竜。


 伝説の海竜とも言うべき巨大な生物が、プールの中央に爆誕降臨していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る