第35話 激闘! vsアクアリーグ(完結編)

 ジョボボボボボボボボボボ……。

 ジョボボボボボボボボボボ……。


 その時、怪しげな水音が高らかに響く。

 見ると、ダメージから回復した雨森ブラザーズが、プールに向けて黄色い液体を股間から盛大に放出していた。

 着水点からイエローゾーンが拡がりつつある、競泳用プール。


『リーダー! プールの汚染を確認!』

緊急事態エマージェンシー緊急事態エマージェンシー!』

『総員、退避! 退避ーっ!』

『こいつら、プールに小便しやがったーっ!!』


 黄色く濁っていくプールから、アクアリーグは死にもの狂いで脱出する。


「全員無事、上陸できたか!?」

「な、なんとか……、汚染からはまぬがれる事ができました……」

「はあ、はあ……、なんて酷いことを……」

「奴らは悪魔の化身か?」


 愚痴るアクアリーグのメンバーの背筋に、突如寒気が走る。

 ゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはノーテンキ冒険隊の面々が、ポキポキと拳の骨を鳴らしながら立っていた。

 相撲部はどうした!? と、辺りを見回すリーダーの高塩。


「こいつらだけなら、大したこと無いでござるなあ」


 蹴りっと、相撲部員の最後の1人を蹴り飛ばし、相撲部を全滅させる雷也。


「お前ら、だいぶ調子に乗ってたけど、陸上なら何分持つかな?」

「さあ、続きを始めましょうか♪」

『ゲーッヘッヘッー!』


 悪人の笑みを浮かべる、ノーテンキ冒険隊。特に極悪なブラザーズ。


 数分後、プール場からアクアリーグの断末魔の叫びが響き渡った。



 *



 戦いが終わり、静寂が包むプール場。

 プールサイドには死屍累々とアクアリーグのメンバーたちが横たわり、リーダーの高塩はロープで縛られて、冒険隊の前に正座で座っている。

 実は、ブラザーズに亀甲縛りと猿ぐつわをされそうになったが、というか実際にされたのだが、あまりにも気持ち悪いので、普通の縛り方に変えられたのは冒険隊パーティー内の秘密である。


「くそっ、汚いぞお前ら! 本当に汚いぞ!」


 黄色く染まったプールをバックに、怒りを露わにする高塩。

 パンツをはいていないので、下半身を露わにするブラザーズ。


「汚いって、何が?」

皆目かいもく見当がつきませんなー」

「ふざけるな! 神聖なプールに小便をしやがって! まさにゲスの極み、鬼畜の所業!」


 何言ってんだこいつ、と言うような顔をして、ハテナマークを浮かべるブラザーズ。


「別に、オレらはオシッコとかしてないよな」

「なー」

「嘘を言えっ!! じゃあ、あの黄色い液体はどう説明するんだ!」


 ブラザーズは高塩の目の前で、ペットボトルを口にくわえる。

 緑色のラベルに書いてある文字は『わーいお茶』。


「お、お茶……」

「そんな、オレらがプールにオシッコとか、非常識な事をするわけないじゃないですかー」

「小便小僧じゃあるまいし」


 ないない、と手を振るブラザーズ。

 クラウドたちは、こいつらなら普通にやりそう、というか本当にやっちゃったと思っていた事は黙っておく。


「お、お前ら、よくも騙したなーっ!」

「だますより、だまされた方が悪いんですよ」

「ていうか、お前らが勝手に勘違いしただけだろー」

「ばーか、ばーか」

「なみへーい、へぇーい!」

「こ、この、くそガキ共がーっ!!」

「それはオレらにゃ、褒め言葉だなー」


 ああ言えば、こう言う。

 こうなってしまっては、もうブラザーズの独壇場。


「それじゃー、今からお前にとどめを刺すわけだけど、最期に言い残しておきたいことはあるか?」


 取調室でカツ丼を出してくれる、やさしい刑事さんのような顔で、高塩に慈悲をかけるブラザーズ。


「じゃあ、白鳥雪姫さんに……」

『爆魔龍神脚!!』

「ごべらっ!」

「こんにゃろ、こんにゃろ!」


 顔面にW飛び膝蹴りを食らい、もう動かない高塩にブラザーズは、死んではいないけど死体蹴りをする。


「やりすぎ、やりすぎ」

「かわいそう、かわいそう」

「哀れでござる」


 冒険隊のメンバーからも同情される始末。

 結局、最初から最後までブラザーズにいいようにやられてしまった、アクアリーグの高塩であった。


「味方はいじる!」

「敵はおちょくる!」

!」

「あ、それがオレたち……」

『雨森ブラザーズ!!』


 シャキーン! とブラザーズは勝利のポーズを、お尻丸出しで堂々と決めた。


『いいかげん、パンツをはきなさーい!』



 *



 女性陣に怒られて(山瀬はちょっと名残惜しそうだったが)、雨森ブラザーズは男子更衣室に服を着に行った。


「……ったく、あいつら好き放題暴れやがって」


 頭をポリポリかきながら、ぼやくクラウド。

 とはいえ、幼なじみだけに、このくらいは慣れっこなのだろう、顔は半分笑っている。


「でも、ブラザーズくんたちのおかげで助かったよ」

「雨森兄弟があれほどの水練達者だったとは思わなかったでござる。たまげたでござるよ」

「そうだな。もし、全裸で泳げる競技があるなら、あいつらならオリンピックを狙えるだろうな」

「じゃあ、一生オリンピックに出るのは無理そうだね」

「うん」


 そこで、クラウドはあることに気がつく。


「そういや、アクアリーグの連中は白鳥さんを助けようとしてたんだろ? 手を組むのもアリだったんじゃねーか? 今さらだけど」

「それはあたしも考えないでもなかったんだけど、おかの上じゃ役に立たなそうだったし、もし仲間になった時の事、想像してみて」


「さあ、ノーテンキ冒険隊、出発するよ!」

「わーっはっはっ!」

「ムキムキっ!」

「マッチョー!」

「どすこーいっ!」


「なんか嫌だな。めんどくせえ」

「でしょ。やっぱり少数精鋭がいいよね」


 そして、晴海は玉手箱を回収して戻ってきた草薙に。


「ナギナギさんも、ありがとうございました。あたしたちの戦いに巻き込んでごめんなさい」

「よろしいですよ、わたくしも皆さんと一緒に戦えて楽しかったですし、ココに来ることになったのは、わたくしのせいでもありますので」

「そういや、そうでした」


 あはははっと笑いあう、晴海と草薙。

 そして、その様子を楽しげに見つめる山瀬の姿が、クラウドの目に入る。

 リヴァイアサンの一撃を山瀬が言葉だけで止めた、あの時。

 クラウドの位置からは山瀬の背中しか見えなかったが、いったい何が起こったのだろうか。

 魔法か? 超能力か?

 と、クラウドは思案を巡らせていたが、山瀬の薄手のブラウスが水に濡れて、ブラジャーが透けているのが見えてしまい、後はもう胸の事しか考えられなかった。


「ちょっと寒くなってきたわ」


 温水プールとはいえ、まだ5月初頭。

 山瀬はぶるっと震えて、自分の体を抱きしめる。

 そこへ、ブラザーズもぐしょ濡れの服を着て戻って来たので。


「じゃあ、みんなでサウナに入りましょうか」


 クラウドたちは服を乾かすために、揃ってサウナに向かった。


 その後、水泳部の部室から、食糧を大量に漁って行ったのは言うまでもない。

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