DAY7:海色の髪をした少女

「全然わからねー」


「でしょうね。話すよりこっちのほうが早いわ。こっちへいらっしゃい」


「いらっしゃいって言われてもこっちは機体に…」


 手招きをした女に文句を言おうとして自分がさっきまで乗っていた機体が見当たらない上に、自分がなんだかやけにキラキラしたよくわからない空間に浮いてることに気が付く。

 慌ててあたりを見回しているとふわふわと浮いている女に手を捕まれ、そのまま腰を抱き寄せられ、鼻と鼻が触れそうなくらい近いところに彼女の顔があって、夕焼けを閉じ込めたみたいなきれいな色をした瞳が私の目を捉えると、胸のあたりにある4本の線の痣が、初めてツインゴールデンボウルに乗ったときみたいに熱を持ち始めた。

 少し冷たい感触がして、海色の髪の女に額をくっつけられた瞬間、くっついてる部分からなにか流し込まれてるみたいに頭の中にいろんな景色が流れ込んできた。

 景色だけじゃない。匂いも音も感覚も感情も一気に色々なものが雪崩込んできて頭が破裂しそうになる。


 ああ…そうか…貴女わたしは私。


「私は貴女わたしを小さい頃からずっと見ていたんだな」


 満足気に微笑んだ海色の髪をしたわたしが頷いて、足先からキラキラとした粉になりながら薄くなっていくのを見届けた私の胸の痣の中央に一つの赤い点が刻まれる。


「お前も十分休んだんだろ?

 休暇は終わりだ。目を覚ませ」


 手を空に掲げてツインゴールデンボウルもうひとりのわたしを呼ぶ。


『荒療治だったがうまくわたしの記憶にアクセスできたみたいだな』


「口で言ってくれよ」


『塔《わたしの記憶

》は強い感情の揺さぶりがなければ起動しないようになっている。

 仕方のないことだった。あまり怒るな』


 ツインゴールデンボウルがこちらに向かっている。

 私もいつまでも寝てる訳にはいかないな…。


 こちらの世界で目を閉じて、現実の世界で目を開く。

 飛行機体に乗って地面に衝突する寸前の私が目を覚ます。

 もう死ぬつもりはない。怖くもない。


 役目を終え崩壊を始めた塔を横目に見ながらコックピットの椅子の背もたれに体重を預け、私はここを守っているはずのひび割れた特殊コーティングされたガラスの膜を解除した。


『海夏弥、やれそうか?』


「当然!私達ならこんな雑魚掃除、すぐに終わるさ」


 私を格納したツインゴールデンボウルの声に応え、地面に落ちて木っ端微塵になった機体を踏みつけ爆発から生き延びた巨大陰茎を頭のゴールデンビームブレードで切り倒していく。


『対巨大陰茎兵器!?何故そこに?搭乗者は誰だ!』


「よおヒゲモジャ!私は無事に生きてるぜ」


『な…と、とにかく!そのまま帰還したまえ』


「イエッサー」


 慌てた声のヒゲモジャにそう応答して、帰還準備に入ったときだった。

 見に覚えのある振動が足元から響いてくる。


「奇襲は一回でキメるから意味があるんだぜ?」


 地面から短い棘がびっしり生えた亀頭を回転させながら飛び出してきた特異形状巨大陰茎を避け、私はゴールデンビームブレードで特異形状巨大陰茎の黒ずんだ胴体を斬りつける。

 しかし、特異形状巨大陰茎はゴールデンビームブレードで傷一つつけられず、完全日常に露出された禍々しい亀頭をこちらに向けて鈴口から威嚇音と共にカウパーを撒き散らした。


『海夏弥くん。そいつの外皮は非常に刺激に強い…。

 狙うなら中だ』


「おーけー。

 なんとかしてみる」


 前回の戦いで解析をしてくれたのだろう。ヒゲモジャの言葉で私の頭にはある作戦が思い浮かんだ。

 きっとツインゴールデンボウルもうひとりのわたしも考えは同じだろう。


「一気に近付いてアレを使うぞ」


『承知した。任せてくれ』


 ブーストを使って左右に揺れてエイムをズラす。ぶんぶんと棘のある亀頭を振り回している特異形状巨大陰茎だが所詮無数にある呪われた端末の一つでしかなく、その能力は低い。

 距離を一気に詰めた私は、パンチをするように右腕を真っ直ぐに伸ばし、握り込んだ操縦桿のスイッチを押した。

 ツインゴールデンボウルの右腕からすっと伸びた細長い筒が見事に特異形状巨大陰茎の鈴口の中へ入るのを確認した私は後ろに飛び退く。

 

「尿路結石弾!巨大陰茎の尿道をズタズタにしろ!」


 特異形状巨大陰茎が、棘がびっしり生えた亀頭を再び私達を捉えるのと同時に、内部に放った小さな球状の弾丸が爆発し、巨大化したトゲの生えた複数の鉄球が特異形状陰茎を内側から圧迫したらしく、目の前にいた巨大陰茎は赤い体液と肉片を撒き散らし息絶えた。


―報告

―周囲に敵性反応なし


「任務完了っと。

 私はツインと本部に戻る」


 私はそう言って通信を切るとワイヤーに体重を預けて大きく伸びをした。

 巨大陰茎掃討作戦…もう不可能だなんて言わせない。

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