DAY4:急襲!特異形状陰茎
母との記憶で一番覚えてるのは、たまたま集落の近くに落ちていた幼体の巨大陰茎の亀頭を私が撫でているときのこと。
幼体とはいえ人ほどの大きさのそれはとても危険なものだったんだけど、まだ小さかった私はそんなことわからなくて、ただ自分の手に鈴口を擦りつけてきてピューピューときれいな音を立てるその生き物を面白がって可愛がっていただけなのに、私を見た母が急に顔を真っ青にした。
今思えば当然の反応なんだけど、その時の私はよくわからないまま自分の頬をビンタした母の小脇に抱えられ、猛り狂った巨大陰茎の幼体が怒ったようにピィィィィと鋭く高い音を出しながらカウパーを撒き散らして追いかけてくるのを見ていた。
母はつまずいて転んで、私を放り出したけど、急いで這って、猛り狂って撒き散らされるカウパーからかばうために私に覆いかぶさった。
ジュウウウという音がして母の顔が苦痛に歪んだことでやっと自分がしたことの愚かしさを知った私は大声で金切り声で泣き叫んだ。
よくわかないけど、そのまま母が私に覆いかぶさってきて、それからの記憶はない。
母はあれから私が外に出るのを嫌がるようになった。私も、母から極力離れないようにしようと一人では外に出なくなった。
なんでこんなことを思い出したんだろう。
身体がやけに痛い。頭がズキズキする。
ゆっくりと目を開くと、そこには真っ白な丸くて大きなライトと、私のことを心配そうに覗き込んでいる若い女の人たちの顔が見えた。
久々に見る顔を黒い何かで覆っていない大人の顔でホッとしながら身体を起こそうとすると、胸辺りに鋭い痛みが走って小さなうめき声が私の口から漏れる。
「意識戻りました。
バイタルは比較的安定しています」
「私は…」
「非常に見苦しい戦いだったが、初陣にしてはよくやった…と褒めざるを得ない。
君が負傷したのはワシたちのデータ不足によるものだ。謝罪しよう」
どうなったんだ…と聞こうとすると、女の人の背後から顔を出してきたヒゲモジャが私の顔を覗き込みながらゴホンと咳払いをしてそういった。
集団の長を務める人間がつけるというヒゲという装飾品をつけた人間は、基本的に傲慢で気に入らないやつばかりだからこいつもそうだろうと決めつけていたけど、このヒゲモジャはそうでもないらしい…と思い直して、私は身体の痛みを耐えて、ヒゲモジャがいる方へと頭を傾ける。
「急遽地下から現れた棘付の特異形状陰茎の攻撃により、対巨大陰茎兵器は半壊するも、搭乗者の意識がブラックアウトすると同時に自立行動に移行し巨大陰茎の攻撃対象範囲から無事離脱し…そのまま…沈黙した」
「は?ツインは壊れたってことかよ!?」
「壊れたわけではない。しかし…」
顔を背けるヒゲモジャを今すぐぶん殴ってやりたい気持ちになったけど、なにより油断をして意識を失うなんて間抜けな真似をした自分が不甲斐なくて、私は寝たまま拳をベッドに叩きつける。
体中が軋むように傷んでうめき声が漏れる。でもきっとツインゴールデンボウルの痛みはこんなもんじゃないはずだ。クソ…。
「記憶が戻らないからと言って君に全てを話していない私にも責任がある。
話せることは全て君に話すことにしよう。
ワシの話を聞くことで君の記憶が蘇るかもしれないし、あの兵器の半身である君の魂に刺激が与えられることで沈黙しているアレが動き出すかもしれない」
ヒゲモジャは、神妙な顔をして顔の半分を覆っている灰色のヒゲを引っ張りながらそう言うと、女の人が持ってきた椅子にドカッと腰を下ろした。
それに伴って私の寝ていたベッドの上半分が静かなモーター音と共に動き出し、私は身体を動かすことのないまま上半身を軽く起こして座っているような状態になる。
「その昔…そうだな。
巨大陰茎がどこからかやってきて世界を破壊してすぐの頃までは、この世界には巨大陰茎と似た見た目を股間に持つもう一種類の人間がいたんだ」
「冗談はやめろよヒゲモジャ。
あんたなりに怪我人を元気付けさせたいにしても悪趣味な冗談すぎる」
「冗談ではない。
その証拠にワシは正真正銘の男性だ。このヒゲも装飾品などではなく、ワシの肌に直接生えている」
そう言って顎をこちらに差し出してきたヒゲモジャは、私の手を自分の顎に持っていくのでそっと手を動かしてみる。
ゴワゴワとした硬い手触りのそれの感触は、掃除の時につかうタワシみたいで気持ち悪い。こんなものが人の顎から生えるなんて嘘だろ?
「痛い痛い!無遠慮に引っ張るな」
手で掴んだヒゲを引っ張ると、確かに皮膚が引っ張られて一本一本の毛穴が引っ張られてるのが見える。うええ…気持ち悪い。
痛がっているからというよりは、こんなものが本当に顎から生えているということと、毛穴の密集具合の気持ち悪さから、私はヒゲモジャのヒゲから手を離した。
「まだ信じられないというのなら、ほれ。
これが人間に生えている陰茎というものだ」
「うわ!なんだこれ…。
巨大陰茎の幼体をくっつけたとかじゃないのか」
立ち上がったヒゲモジャがズボンを下に下ろすと、大量のヒゲみたいな縮れた毛の中心部に本当に小さい…まるで手のひらサイズの巨大陰茎(巨大ではないのでただの陰茎という方が正しいのかもしれない)がぐったりとした様子で鎮座していたのだ。
私が、手のひらサイズの巨大陰茎を触ろうとすると、ヒゲモジャは慌ててズボンを履いてそれを隠し、「ゴホン」と咳払いをした。
「やっと信じてくれたようだな。
それでは話を始めよう。無理のない程度に聞くがいい。お前の身体が治るまで時間がかかる。その間に必要なら何度でも話を聞かせてやろう」
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