DAY2:黄金機体ツインゴールデンボウル
「古くからの盟約をお忘れか…この兵器を我らに授けてから百年…時が来たら自分を迎えに来いと言ったのは貴女だろう。
まだ思い出さないというのか?こちらには時間がないというのに…」
「は?だからそんなこと知らないって私は
ずっと昔にいたとかいう
私を呼びつけたヒゲモジャの人は、魚の腸を食べた時みたいな難しい顔をすると手払をして、硬い服を来た大人に私を自室まで運ばせた。
外からしか開かないこの部屋は嫌いだ。
臭くないし暑くないしなんでも揃ってるけど塔も見えないし、あののんびりと歩いている巨大陰茎たちも見えない。それになにより…大切なお母さんがいない。
母が泣き崩れた翌日、私は屈強な格好をした黒尽くめの人間に囲まれ生まれ故郷を初めて飛び出した。
左右をやたら硬い服をきたデカい大人に挟まれ、空を飛ぶ乗り物に載せられて見る故郷は、本当にちょっと離れたら岩と木々に隠れてしまうくらい小さくて、禿げた岩山のすぐ隣にある今では巨大陰茎の住処になっている瓦礫の山たちと塔は私達の集落から案外離れているということにこの時初めて気が付いた。
どれくらい飛んだのかはわからない。故郷が見えなくなっていて、海の真ん中にポツンとある小さな島に降りた空飛ぶ乗り物から降ろされた私は、やけにツルツルした床を歩いて、真っ白な部屋に連れてこられてヒゲモジャの偉い人の前に連れてこられていきなり跪かれて「偉大なる海神の片割である御身の御神託を護ってまいりました」なんて言われたからビックリした。
「なるほど。まだこちらの少女は覚醒には至っていないという事か。
仕方ない。まずは自室に案内してやれ」
ヒゲモジャは私の態度が思ったのと違ったのか、溜息をつくと背中をくるりと向けながら硬い服を着ている大人にそう言って手も触らずに開いたドアの向こう側へと行ってしまった。
それから、私は両脇を抱えられるように持たれ引きずられるように真っ白な建物の中を移動して不思議な模様が書かれているドアの前へと連れてこられ、放るように開いたドアの中へと押し込められた。
それからは同じことの繰り返し。
記憶は戻ったのかとか、海神がどうとか、過去の盟約とか全然わからない話をされてわからないと言ってこの部屋に閉じ込められる。
味のよくわからないほんのり甘いだけの食べ物らしいなにかを齧りながら、窓もないのにいつもの癖で外を見るように壁しかない空間に目をやったときだった。
部屋が暗転して赤い光がチカチカと輝き、鳴り響くけたたましい音が痛くて思わず耳をふさぐ。
「対巨大陰茎兵器奏者、海夏弥殿、召集令が出ております。こちらへ」
急にドアを開けてきた黒尽くめの男に連れられ、耳をふさぎながらいつもとは違う剥き出しの配線やパイプ、金属の棒などが見えている通路を通り、自動で動く床の乗り物に乗って辿り着いたのは煌々と橙の光を灯す広い空間だった。
その空間の中に異彩を放つ巨大な何かがある。
全身に黄金を纏っているその巨大な二足歩行のナニカは、頭部から一対の細長い出っ張りがついていて、それはまるでちょっとツインテール(にしてはちょっと短いけど)みたいだった。
「これは…」
「これがかつての君…つまり海神が遣わした災厄を倒すための兵器だ」
どこかから聞こえてきたヒゲモジャの声に私が顔を顰めると、目の前の黄金の機体は見た目よりずっと静かな音を立てながら私の目の前に屈み込んだ。
彼女に差し出された黒い五本の指が連なる人と変わらない構造の手の上に乗ると、私はそのまま持ち上げられ、彼女の額にある真っ青なキラキラ光るガラスみたいな部分へと格納される。
『久しいな我が半身よ。
今は海夏弥…というのだったな。私の今の名はツインゴールデンボウル。
お互いの状態はどうであれ、
どうなってるかわからないけれど、360度見える空間の中で私の手足に自動的にワイヤーで繋がれた革のベルトのようなものが巻き付けられていき、目の前には掌が乗るくらいの小さなテーブルのようなものが現れる。
謎の拘束を受けているのに不思議と不快ではなく、私はどこからか聞こえてくる柔らかい、どことなく母に似ている女性の声に耳を傾ける。
『まずはリハビリと行こう。
なに、すぐに元の調子を取り戻せる』
私の胸元にある4本の線の痣が熱を持って赤い光を帯び始めると、ズズズ…という低い音と共に視界が高くなり、ツインゴールデンボウルが立ち上がったことがわかる。
―システムオールグリーン
―対巨大陰茎兵器起動完了
―射出口完全開放
―目標地点エリアA40・41・21・N74・2・40W
抑揚のない女性の声が響いてきて私を載せたツインゴールデンボウルの足元が迫り上がり天井に開いた穴に吸い込まれる…。
真っ暗な空間が続いたかと思うと内臓に軽い違和感を覚えると同時に私の周りは一面真っ青になり、そこが空だと言うことに気が付く。
『私の衝撃は極力内部には影響しないようになっているが…私は生憎兵器だ。
ゆったりとした乗り心地は期待しないでくれよ』
驚いている私をからかうようにツインゴールデンボウルはそう言うと同時に私の内臓がまたグワッと揺れる気がして視界がゆらゆらとした。
軽い吐き気と目眩に襲われながら私は彼女にしがみつくような思いで自分の体重を細いワイヤーが支える革のベルトに預け目を閉じた。
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