第27話 作曲家、作曲やめる。
『オレ、もう辞めたから、作曲』
――って、オレ、辞めんのね? 作曲。
ついでに、『実家に帰る』とも言っちゃいましたよ。
いやぁ~~怖いよねぇ、後の無い大人の見栄って。
大体さぁ、引越し代も無いってのに どーするつもりなのかな、オレは。
25才・無職は実家に電話して、
『オレよ、オレ、引越し代ねぇから10万円程 指定口座に振り込んでくれねぇ?』って、実の親から身分証を求められるターニングポイント見え見えじゃねぇの。
(って、段ボールだけは有り余っていると言う虚無感……)
壁に貼り付けた手製の段ボール防音壁を剥がしちまえば、荷造り用の段ボールは早々に用意できてしまうんだな。
ってなワケで、部屋中 段ボールだらけなのよ。
「洋服は大したもんねぇし、捨てちまうか。機材は……」
売れば引越し代になる。充分に。
「辞めんのか、作曲……」
辞められるのか? ――って、そんな浮ついた気持ちじゃなく、
ユーヤ君に言ってしまったコトで、思うクソ吹っ切れてしまったワケで。
所謂コレは、郷愁のよぉなもんで。
(辞めるも何も、仕事がねぇんじゃオートで無職決定ですけども)
コレまでの人生を賭けて来た。コレに嘘は無い。
ガキの頃に遊び半分で始めたピアノでコンクールは総ナメにして来た。
その業界では【神童】とすら謳われた。
実家にはトロフィーが腐る程 並べられてて、そりゃ今となっちゃ鈍器にしか使いようがねぇってくらいだ。
ピアノはオレに沢山の世界を見せてくれた。
鍵盤さえあれば、オレはどんな世界だって作り上げられた。
音が降って来る。溢れて来る。そりゃもぉとめどなく。とめどなく。
オレは音と言う最強の武器を持って、自分の未来を斬り開く。バッサリと。
「売るか、機材」
バッサリと。おしまい。
このボロアパともオサラバだと思うと、ちょっと、何てぇか……
まぁ、清々だよ。本気で。でも……
(ユーヤ君とは もっとお隣りサンしてたかったな、)
ユーヤ君が越して来て僅かな時間だったけど、ホントに楽しかった。
いつでも笑顔で、オレみたいなオッサン相手に兄貴みてぇに慕ってくれて、
ホント、パン耳レベルの薄っぺらな生活が華やいだ。シャララララ~~って。
(傷つけちゃったけど……)
どーせなら最後はイイ兄貴で終わりたかった。
だけど、明るい未来が待ってるだろうユーヤ君に偶像崇拝させちゃいかんって思うんだ。
ホントに実力のある人の下に就いて、シッカリとチャッカリと伸し上がって生き残って欲しい。
いつか、あの子のピアノが世の中に流れて、そうして あの子の世界に触れるコトが出来たら、コレ以上の幸せはナイって思うんだ。
「応援してる、ずっと。見守ってる、ずっと……」
コレは嘘じゃねぇよ。
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