第28話
数日後、業者が やって来た。
貧乏作曲家ったってね、そこそこの機材 取り揃えなきゃ仕事にならんのよ。
今日は、そんな大量の機材を一気にパァーっと持ってって貰うワケ。
「お見積もりは、30万で如何ですか?」
うぉおぉおぉおぉ!! スゲェ!! 30万!? 札束に目ぇ輝くわぁ~~!
つか、このB社のハーモナイザー50万したんだけどね!
こっちのコンプレッサー57万したんだけどね!
諸々 総ざらいして30万とか、持ってけドロボ~~
「イタダキマス」
業者は手際よく機材を梱包。
大事にしてくれな、大事に。ホント、そいつらには世話んなったからさ。
業者は梱包し終えた機材をトラックの荷台へ乗せるを繰り返す。
その騒ぎに、近所の人達がワラワラと。
オイ、コラ、借金のカタに持ってかれてるワケじゃねぇかんな!
自主的に質に入れただけだかんな!
哀れんだ目で貧乏屋敷の無職を見るんじゃねぇよ!
(こんなコトで脚光を浴びようとは……)
もぉ恥ずかしぃから部屋に引っ込も。
そうして踵を返した所で、大学から帰宅したユーヤ君と業者が鉢合わせ。
大きな目をパチクリするユーヤ君は、トラックに書かれた【ドーンと来い! 買取専門】のロゴを見るなり狼狽える。
「な、何やってんですか、ソレ、何ですかっ?」
「え? アチラの お宅に頼まれて出張買取を」
「だから、中身はっ?」
「え~~っと、音楽に使う機材みたいですよ?」
「みたいって……」
ユーヤ君は慌ててオレの元に走って来る。
「何で売るんですか!!」
来た。来た。
こんなコトもあろーかと、ユーヤ君がガッコに行ってる間に売っぱらっちまおうと思ってたのに、業者のヤローが渋滞で遅れて来るからぁ……
「あぁ、え~っと……実家に持って帰れねぇからぁ。ハハハ、」
「な、な、なに笑ってるんですか!! 機材の価値も分からないような人達に売る何て!!」
「えぇ~~まぁねぇ。でも、カタ落ちだかんねぇ。
何処いっても扱いは変わらんと思うよ? オレも中古で買ったの多いし」
最新のデジピをポン! とプレゼントして貰えちゃう お偉い企業の御曹司クンには解かるまい。小市民も最下層にもなりますと、こぉして小金を捻出するしかねぇんです。
ユーヤ君はプルプルと震えてる。
眉を吊り上げて口をへの字にして、怒髪、天ブッ飛ばしな憤怒の相。
そうして どーするつもりなのか、手荷物をオレに押しつけると、業者の元へと走って行く。
「すみません! ソレ、やっぱり売りません!」
は? あの子、なに言っちゃってるの?
「気が変わりました! ごめんなさい、本当に! トラックから降ろしてください!」
オレはキョトーン。業者サンは もっとキョトーン。
「いえ、然し、もう契約が……」
「クーリングオフって使えますよね!?」
「ぇ、ええ、まぁ……その場合、お支払いした30万を、」
「30万ですね! 分かりました、直ぐ手配します!」
「イヤイヤ、ちょっと待ったぁあぁあぁ!!」
ユーヤ君、キミ、何処に電話しようとしてる!?
もしかして、中都重工の社長様かな!? いきなし30万オネダリする気かな!?
どーゆー育ちしてんのさ、このバカヤローが!
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