巨大宇宙おちんちん 大気圏
ウィルの機の機体下面からアレスティングフックの先端までは長く見積もっても2m。
ウィルはすれ違いざまにフックだけをハーピー2の機体に当ててノックして、パイロットであるルー・オール一等飛行空曹の目を覚まさせる算段だった。非破壊的に、だ。
強すぎればハーピー2にとどめを刺すことになる。弱すぎればハーピー2は目を覚まさず、その機体は大気突入の圧縮断熱で融解引火、爆発四散して死ぬだろう。
「頼む、パイプカッター。言うことを聞いてくれ!」
相変わらず暴れる自機。視界の中、ぐんぐん近づくハーピー2の機体。鳴り響く接近警報。最後の微調整の拠り所はウィルの勘だ。
ガンッ!
機体尾部のスラスターに接触。
「ハーピー2、起きろ! お前女のくせにおちんちんに突っ込んで果てる気か⁉︎」
『バイタル変化なし。意識レベル0.61。大気圏突入まであと176秒』
「くそ、もう一度だ!」
ウィルは機を大きく引き起こし、ハーピー2機の上方に助走距離を取る。
「起きろルー・オール‼︎ こんな所で死ぬなーっ!!!」
ヘルメットの中で絶叫しながらダイブするウィルの機体は、かなりの速度でハーピー2機と交差しながら、そのアレスティングフックを装甲キャノピーに叩き付けた。
ガーンッッッ!!!
『はっ……ああっ!』
「目が覚めたか兄弟。時間がねえ。コントロールを手動で再立ち上げだ、急げ!」
『ウィル? サンダーバード1? あたし……』
「いいから黙って言うとおりしやがれ! お前の機はコントロールが死んで敵惑星に無理な角度で進入中だ。死にたくなければシステムをリブートして俺の機体の影に入れ。こっちのエイリスがデータリンクしてる。コントロールが回復すれば、侵入角度の再設定はこちらでやる」
『任せてください』
『わ、分かった。やってみる』
ルーはコクピットの足元に設けられた緊急用の手動リブートハンドルのグリップを引き起こし、大急ぎでぐるぐると回す。
システムの電装系がキュンキュンと頼りない音を立てては沈黙する。
『サンダーバード1』
「なんだ、ハーピー2」
『なぜ来たの? あたしを助けに』
「さあな。気まぐれさ」
『バカでしょ、あんた』
「バカに命救われる気分はどうだ? いいから歯ぁ食いしばってスターターを回せ」
唸りを上げてコンピュータ群のベンチレーターファンが回りだす。機内灯が、バイザー内のディスプレイが回復する。
『ついた……!』
「良くやったハーピー2。ナウアイハブコントロール。大気圏離脱には現在の侵入角度が深すぎる。このまま突入して不時着する」
『その後はどうすんのよ。目の前のこれ、今から不時着するのって敵の……あの巨大おちんちんなんでしょ⁉︎』
「こいつらがエウロパ協定にサインしたって話は聞いたことがないが、おちんちん達が見た目より捕虜に人道的であることを期待しようぜ」
『ウィル・フタバヤ』
「なんだ、ルー・オール」
『あんた何しに来たのよ⁉︎ これなら意識ないまま大気圏で燃え尽きた方が幸せだったかも知れないじゃない!』
「だから気まぐれさ。気まぐれに合理的な道筋を求められても困る」
『不時着したら覚えてなさい。その股間のリトル・ウィルを蹴り上げてやる』
「やめとけ。おちんちんの星だとそれはきっと重罪だ」
『ああ神様、私が何をしたと言うのです。私のような善良でキュートな子羊の最期が、巨大おちんちんの星で、よりにもよってこんな野蛮な猿と一緒とは……』
『大気圏に突入します。しばらく通信不能になります』
「だとさ、ハーピー2。シートベルトのサインが消えるまで席を立つなよ。幸運を」
『いやァァァァァァァァァァァァ』
長く響くかと思われたルーの悲鳴は、一際大きなノイズを最後に、ブツッと途切れた。
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