Cube
都槻郁稀
Cube
「あれ?ない……。」
子供の頃、いつの間にか持っていた。『何か』が、消えた。あの時と同じように、いつの間にか。
何日間か、机の引き出しの中に放置していたあれが……
2年後、そんな記憶も奥に押し込められた頃。
「ん?これ、どっかで見たことが……。」
高校の制服のままベッドに倒れ込む。
【購入】ボタンをタップする。
いつか、どこかでみたそれの存在を、忘れていた。
記憶の奥深くを探る。『いつ』『どこで』そしてそれは『何』であったかを……。
≪三年前≫
そうだ、3年前。何故かそれを、私は机の引き出しに入れた。しかしそれは突然、いや、知らないうちにどこかへ消えた。誰に貰ったかも分からない、友達の証として。
確かに子供の頃だった。それだけは確かだ。それ以上もない。『いつ』『どこで』『誰が』『何を』『なぜ』『どのように』私に渡したのかが検討もつかない。その人の顔を思い出せない。何も……手がかりはない。
いや、一つだけある。
さっき買ったそれを手がかりに……
その数日後、商品は届いた。
何週間か過ぎ、それはまた消えてしまった。
小高い山の上の木の下。日が高くなり、緑が深くなる初夏の日の昼下がり。どこにでもいそうな、子供らしい服を着た子供。
幼かった私に、淡い緑の光を放つ
「えっ?」
聞き取れなかった。
何でもないと言うように首を横に振る。
それは、見る角度により光を変えた。目に入る光のすべてが、柔らかく、優しい光だった。
『友達の証』
3年半前から見ていない、黒色の立方体は私の手の中に現れた。この角度から見ると、細い直線の割れ目からは空色に光って見える。
あの日から、ずっと離さずに持っている。
今も、カバンの中に。振り向き、窓の外を見る。日が沈み、あかりが灯っていく。途中、電車が視界を遮る。駅が近いせいで乗客一人ひとりの顔がよく見える。その中に、ずっと昔に見た顔があった。何もかもあの日のままで。慌てて探しても、似たような人すら見つけられなかった。
「いるわけない、か。」
あの子は、私の中にしか存在しないのだから。
いつかの夏の幻想は、いつまでも私を追いかける。
Cube 都槻郁稀 @totsuki_novels
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