第9話 才

『悪魔のトリル』

 ジュゼッペ・タルティーニ作曲のヴァイオリンソナタト短調

 夢の中の悪魔と取引して、命と引き換えに得た彼の代表作


 完全に譜面に書き起こすことはできなかったとされる、この曲、それゆえか彼は80歳近くまで生きたそうだ。


 才能ある作曲家ですら、自らの命と引き換えにしても後世に残る曲を求める…


 僕は?

 人より器用だ、それは出来ないより残酷なのかもしれない。

 出来なければやらない、やらなければ挫折もない。


 挫折とは中途半端な才能を知ることだと思う。


「人より出来る」

 だから自分に期待し行動する…出来る連中に混ざれば、ソレは余りに無力な才だったと知る


 いや…本当の才を持つ者を知る。


 挫折を超えた先を見据える者が何人いるのだろう?

 きっと努力とは、ソコから立ち上がることを言うのだろう


 幾度、挫折した?

 町内で一番足が速かった

 クラスで一番高跳びを飛んだ

 クラブで一番絵が上手かった


 小さな世界が少し広がれば…それは何の価値も無い


 知らずに済めば求めない…のに…


 それでも僕は手を伸ばす


 届かぬ彼女に

 失えど…失えど…僕は誰かを好きになる。

 また失うのに…


 でも、僕の足掻きは努力じゃない。


 言葉を書き散らし、沈むだけの僕は…

 立ち上がることすらしない僕は…


 ただ己の身体を掴む手に縋るだけ

 弱い…弱い…弱い…


 この命と引き換えに、僕なら何を得る?

 欲しい物なんて…

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