第11話

 忌引きが終わり、出社した。

 香典は辞退していたので、同僚たちはお悔やみの言葉をかけてくれた。

 仕事に影響してはいけないと思い、仕事に没頭しようとした。

 退社時刻になったら奥田君が話しかけてきた。


 話したい事があるというので、会社近くの喫茶店に立ち寄った。

 奥田君はまず、お悔やみの言葉を述べた。

 そうして、少し云いづらそうに、話し始めた。


「実は僕の両親、本当の親じゃないんです」

 衝撃だった。奥田君の家では誕生日やクリスマスにはパーティを開いている。

 奥田君もよく、家族の話題をする。

 仲良し家族だなぁ、と思っていた。

 

 奥田君は小さい頃、施設にいたそうだ。今のご両親が特別養子縁組という制度で、親子になったらしい。

「両親は子どもが授からなかったらしく、僕を……。念願の子どもだったからか、行事は精一杯やってくれます」


 そうか、だから社会人になってもパーティをやるのか。

 周りの人たちが決まったように妊娠して出産する事を、どのような気持ちで見てきたのか。

 周りの人たちが当然のように口にする子どもの愚痴なんかを、どんな気持ちで聞いてきたのか。


 色々な選択や決断をして、奥田君の両親は、奥田君と家族になった。

 血の繋がりだけが家族ではない。いつかの新聞記事に書いていた。

 血が繋がっていても、私の家のような家族もある。


「すいません、いきなりこんな事を……」


 奥田君の心の奥の声が聞こえたような気がした。

 母親を亡くして哀しいであろう私に、両親が揃っている自分が何を云っても嘘くさいと思われる、と思ったのだろう。


 他人の心を気遣う。他人をいたわる事の出来る奥田君。

 自分の両親と血が繋がっていないと知った時、どんな気持ちだっただろう。

 そして奥田君のご両親がそれを奥田君に伝えた時、どんな気持ちだったのだろう。


 奥田君は私と比べ物にならない程、辛い時間を過ごしてきたかもしれない。

 奥田君は、その辛い気持ちを、他人への心遣いに変換出来た子だ。

 私は、血の繋がりという変えられないものに、あぐらをかいていたのだろうか。

 血の繋がりは、消えない。だから躊躇無く憎める。


 子どもの性格や考え方は、環境では無くその子自身が持っているもので決まると聞いた事がある。

 奥田君を見ていると、そうだと思う。

 自分を見ていても、そうだと思う。

 私の人生の責任は私だけだ。

 他人に惑わされるな。

 とは云いつつ、他人の奥田君の話を聞いて、影響を受けている。

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