第10話
十二月、時々雪が降る季節になった。
母が死んだ。
自殺だった。
恐らく、父の怒鳴り声に耐えられなかったのだろう。
私が子どもの時は、父が怒ると、母も一緒になって私を怒りだしていた。
怒る事が正義だと思っていた世代か。
母は父のいいなりだった。
理不尽だと感じていた子ども時代も、大人になったら少し違う考えを持った。
あの時代の女の人は、一人で生きていくという考えが、まず無い。
旦那に従うのが、当然だと思い込んでいるのだろう。
私は呆れてしまい、母については考えるのをやめた。
元凶は父だと思っていたから。
私も兄も実家を出ていた。
実家には父と母が二人で住んでいた。
父は、攻撃対象を母にしたのだろう。
父と母が結婚を決めたのは、本人たちだ。
怒りなど沸かなかった。
自殺という事もあり、葬儀は身内で行う事にした。
周りには、心筋梗塞という事にしておいた。
兄が実家に戻るという事になった。
私は一人暮らしを続ける。
さすがに配偶者の自殺はこたえたのか、父はうなだれ、抜け殻のようになっていた。
今更遅い。第一、自分が原因だと気付いているのだろうか。
気付いていないかもしれないので、原因はお前だと教えてあげた。
父の反応は無かった。
抜け殻になった父を見て、もう私を攻撃する力は無いように見えた。
この人ともう、感情のやり取りをしなくていいだろう。
私はやっと自分の人生を生きる。
葬式が終わり、アパートに戻ろうとしたら父が声をかけてきた。
「いつでも帰ってこい」
何を今更。時間が経ったら、攻撃する相手が必要なだけだろう。
私はやっと自由だ。
アパートに戻り、一人になる。
途端に色々な事が頭を巡った。
私は何をしていたのだろう。
母の為に、何か出来なかったのか。
いや、私が父に罵声を浴びせられている時、母を私を守る事をしなかった。同罪だ。
本来は、子どもを守るべきだったのではないだろうか。
そう思い、自分を納得させようとしていた。
母親が死んだという実感と、他人のような感覚。
両方の思いが頭の中で交錯する。
どうしたらいいのか、判らない。
〇
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