第9話

 どんなに考えても悩んでも、朝が来ると起きて仕事に行く。

 時々それが救いに思える。

 普段は仕事に行くのは億劫だったりするんだけれど。


「今週の金曜日、飲みに行きませんか?」

 出社したら、奥田君に声をかけられた。

 先日、私たちのチームで手掛けた新商品が無事に量産段階に入る事になり、ひと段落した所だった。

 関連部門を含めて、皆で打ち上げをしようという話があるらしい。

 気分転換も含めて、打ち上げに参加する事にした。


 花の金曜日とはよく云ったものだ。

 週初めは閑古鳥が鳴いている飲み屋街も、休日前は賑わっている。

 ここでお酒を飲み、色々な事を発散させて、月曜日に又会社に行く。

 そのシステムを利用している人が何人いるんだろう。

 今日は私もその一人だ。

 

 お酒を扱う飲食店の店員さんは、何処でストレスを発散させているのだろう。

 平日にゆっくりと、お酒の出ないお店で過ごしたりしているのだろうか。

 私の仕事だと、仕事中は社内の人間にしか顔を見られない。

 けれども飲食店で働いていると、仕事中の顔を、色々な人に見られる。

 嫌なお客がいたとしても、顔に出さないようにするのは中々技術がいるのではないだろうか。


 そんな事を考えていたら、担当編集者からメールが届いた。

 この間のお笑い芸人のラジオから、又出演依頼が来たらしい。

 そういえば、そんな事もあった。

 複雑な気持ちだった。

 私の存在を、必要としている人がいると思った。勘違いではなく、青山秋として、必要とされている。


「雪さん、ラインですか?」

 誰かが私に声をかけた。

「うん、友達から。メールだけどね」と答えた。

 職場の人間の前で、隠れて執筆しているコラム関係の人と仕事の連絡をする。

 ちょっぴりスリリングだったけれど、ちょっぴり高揚した。


                 〇●

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