第6話
十一月になったら、インフルエンザの予防接種が始まる。それを踏まえてスケジュールを決めなくてはならない。
そんな事を考えていたら、会社の後輩の奥田君が仕事の質問をしてきた。
奥田君は大卒でこの会社に入った。高学歴を鼻にかける事はしない。とても素直な性格で、とてもほのぼのとしている。
奥田君と話す時、誰もが毒が抜ける。勿論、私もだ。
奥田君は、私と近くのデスクで仕事をしている。
私が質問に答えたら問題が解決したらしく、とても喜んでいた。
「良かった。今日は両親がバースディパーティをやってくれるんです。雪さんのお陰で、心おきなく愉しめます」
奥田君は確か、二十四歳になる。その歳になっても家族で祝うなんて、仲が良いな。
「雪さんの家でパーティをやるとしたら、オシャレにやりそうですよね!」などと云っている。
家ではパーティなんてやらない。
無邪気さに、何だか腹が立つ。こんなに良い子なのに。
多分、というか羨ましかったのだろう。情けない。小さくて下らない感情だ。
どうしてこんなに素直で人生愉しそうな子がいるんだろう。
私と何が違うんだろう。
「雪さんっていつもオシャレでかっこいいですよね! 信念を持っているし、憧れます」
奥田君が、いきなり云った。
信念? 奥田君は見る目が無いなぁと、心の中で呟いた。
「雪さんは、きちんと自分の意見を持っていますよね。云いにくい事もきちんと云ってくれるし。何でそんなにしっかりしているんですか?」奥田君の私推しが、まだ続いていた。
何でそんなにしっかりしているんですか。
奥田君の何気ない言葉が妙に残った。
何でそんなに【頑な】なんですか? と云われた気がした。
私もずっと思っていた。
何故こんなに感情を素直に味わう事が出来ないのか。
嬉しい事があっても手放しで喜べない。
次に来る不幸の予兆だろうか? とすら思ってしまう。
奥田君だったら、嬉しい時には全開で喜ぶ。
次の事なんてきっと一切考えていない。それが解る程、全身で喜びを表現する。
私にはそれが出来ない。
素直に喜んでいる人を見ると、疑念が沸く程ひねくれている。
本当に、嬉しいの? と。
通常、こういった事は、他の人には無いみたいだ。
どうして私は、こうゆう思考回路なんだろう。
考えてみた。
私はいつから【笑う事・愉しむ事】に罪悪感を覚えるようになったのだろうか。
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