第4話

                 ○


 収録が終わり、お笑い芸人に「打ち上げを兼ねて飲みに行きませんか」と声をかけられた。私は快諾した。

 金曜の夜ということで、街は賑わっていた。

 着いたお店は、創作料理がメインの居酒屋のようなお店だった。構える事も無く、チェーン店でも無く、丁度いいお店だと思った。

 お笑い芸人は少し深くニット帽を被っていた。ファンじゃなければ気付かないだろう。

 東京の料理は、美味しかった。お酒も美味しかった。さすが芸能人が来るお店だなぁと、相応の感想を持っていた。

 

 お笑い芸人との会話は、愉しかった。

 さすがお笑いをやっているだけあるなぁと感心したのは最初だけだった。後半は、そう思う暇が無い程に会話が愉しかった。

 元々好きな芸人だったのに加えて会話が愉しいので、私は何だか妙な気持ちを抱いていた。

 お笑い芸人は私を、「都会人と違って澄んでいる」とか「雪国の人は色が白い」とか褒めてばかりいた。

 お酒が入っていたので、良い気分だった。

 このお笑い芸人と、又会いたいと思った。


 連絡先を聞いてみた。お笑い芸人の返事は意外なものだった。

「マネージャーがうるさいので、個人の携帯を教えられないんですよ。用事があったら事務所にご連絡をお願いします」

 結構ショックを受けたと思ったけれども、酔いで緩和されていたのだろう。私は場をスムーズに流す為に、相応に答えた。

「そうですね。では私も、お仕事のお話は編集部を通してご連絡いたします」と云ったらお笑い芸人は笑顔になった。

「青山さんが、メディアに出たのは僕のラジオが初めてですもんね。又是非ご出演してくださいね」と、目を輝かせていた。


                 ○


 一次会で切り上げて、私はタクシーに乗り、宿泊先のホテルに帰った。

 ホテルの静寂が耐えられないので、すぐにテレビをつけた。

 ナイトドラマがエンディングを迎えている所だった。

 私は椅子に座り、ホットの紅茶を飲んだ。


 お笑い芸人の上手い口ぶりに、つい彼に心が動いていた。

 けれどもお笑い芸人は私を【隠れコラムニスト】として、正体が気になっていただけだった。

 【私】を見ている訳では無かった。

 そうだよね、普段から綺麗な芸能人にたくさん会っているだろうし。

 お笑い芸人にとって私は【大勢の中の一人】だ。


 私がさっき心が動いたのは、お笑い芸人の上手なトークに惹かれただけ。テレビを見て、幻影を抱いていただけ。決して恋なんかじゃない。

 上手く行かなかった恋は、無かった事にしてしまう。

 自分が情けなくならないように。そうして自分を納得させる。

 けれども事実から目を背けているという事自体、情けないんじゃないだろうか。

 こうやって、自分に都合の悪い事は、いつも目を背けてきた。

 だから私は、真実や事実に向き合えない。

 だから私は、他人と真剣に話をするのが苦手だ。

 私はいつも、「ふり」をしているじゃないか。今回も、そうだったんだよ……。


                 ○

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